67話 アリーセが知らないモンスター
俺とアリーセはゴブリンの待ち伏せ場所から少し離れ、見通しの良い所で身を隠す。
しばらくすると斥候らしきゴブリンが2匹こちらに走って来て、ほぼ同時に頭にアリーセの矢を受けて倒れた。
あいかわらずの早業だ。
「もう少しで大型モンスターとゴブリンが接触するわ、向こうが戦闘状態になったら様子だけ確認に行ってくるからイオリはここで待ってて」
「1人で大丈夫なのか?」
「偵察だったら心配無用よ、任せといて」
そう言うが早いか、風がふいたタイミングでサッと偵察に行ってしまった。
風で木々がざわめく音に合わせて移動していくアリーセが、まるで無音で移動しているかのような錯覚を受ける。
アリーセが行って、少し経つとゴブリンが騒ぎ出したのが、俺にもわかった。
戦闘音、というか打撃音が聞こえてくる。
「アリーセ、大丈夫だろうか?」
「大丈夫だけど?」
「うおっ!? ……何だアリーセか気が付かなかった。 ビックリさせないでくれよ叫ぶとこだった」
アリーセがいつの間にか戻って来ていた。
ずっと向こう見てたはずなのだが、どこから来たんだろうか?
「もっと周りに気を配らいとダメよ?」
「あ、ああ、スマン。 それでどうだった?」
「それが、この辺で見た事の無いモンスターだったのよね。 ゴブリン達じゃ全く相手にならない感じだったわ」
アリーセが知らないモンスターか、いったいどんなモンスターだろうか?
「先導するから着いて来て。 鑑定をお願いするわ」
「わかった、あんまり早くは行かないでくれよ?」
アリーセの先導でゆっくりと戦闘音のする場所に近づいて行く。
茂みの濃い辺りでアリーセがハンドサインを出す。
ハンドサイン知らないけど、たぶん止まれだろう。
茂みの隙間から様子を伺うと、動ける緑のデブといった風体の3mくらいの人型のモンスターが、丸太のような棍棒でゴブリン相手に無双していた。
鑑定と同時に解析をする。
《トロール亜種》
:ダンジョンに住み着く小型の巨人。
脂肪が厚く物理攻撃に高い防御力がある。
魔法、特に光魔法に弱い。
夜行性
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名前:ー
種族:ケイブトロール
年齢:15歳
レベル:128
HP:34628
MP:87
スタミナ:52877
筋力:3273
敏捷:327
知力:7
器用:79
体力:3876
魔力:3
頑健:4301
精神:46
物理攻撃力:4317
魔法攻撃力:0
物理防御力:3187
魔法防御力:39
称号:脳筋
スキル
パッシブ:闇耐性 LV2
:HP自動回復 LV2
:状態異常耐性 LV6
アクティブ:スマッシュ LV4
各種コード
・
・
・
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解析結果をアリーセに伝える。
「トロールって存在は知ってたけど見たのは始めてだわ。 しかも普通のトロールじゃなくてダンジョン産れなんて……」
「ダンジョン産れだと何か違うのか?」
「普通のトロールより大分強いって話よ」
まー亜種とか出てるしな。
「初日だけど、急いで戻ってギルドに報告するわ」
「倒さないで良いのか?」
「イオリ、私達は冒険者であって英雄や勇者ではないわ、無理して戦う必要なんて無いのよ。 それに今受けている依頼は調査であって討伐じゃないのよ?」
「そうか、せっかく新しい武器を手に入れたからちょっと使ってみたかったんだが……」
アリーセが俺のハルバードを横目に見て呆れたように言う。
「試してみたい気持ちはわかるけど、わざわざ初見のモンスターでやることじゃないわよ」
ハルバードも確かに新しい武器かもしれないが、俺が言ってるのは魔導銃の方だったんだけどな。
そういえば一度も見せてなかったな。
「ハルバードじゃなくて、試したいのはコイツだ」
俺は魔導銃をアイテムボックスから取り出してアリーセに見せる。
「何これ? 魔法の発動体?」
「昨日見つけた魔導銃というものらしい。 まあ、魔法が撃ち出せるクロスボウだと思ってくれ」
「へぇ、変な武器見つけて来たわね。 使えるのそれ?」
「連射は出来ないが威力としては申し分ない筈だ」
「う~ん、あのドラゴンを倒したスキルは使えないの? あれ使うなら倒していっても良いと思うんだけど……」
アリーセが言うには魔導銃がどんな物か分からないということで、良いとも悪いとも言えないという事だった。
一応本来なら命が掛かってるから、冒険者としては初見のモンスターに見たこともない武器で挑むというのを忌避するという気持ちはわかる。
「じゃあ、いつでも倒せるように準備しといて、その上でコイツを試すなら良いか?」
なんかアリーセがコメカミに指を当てて呆れた顔をしている。
「本来なら絶対ダメなんだけど、確かにあれを放置するのも危険だからイオリが確実に倒せるって言うなら良いわよ。 本来なら絶対ダメなんだけど……」
大事な事なので2回言ったらしい。
「ああでも、ドラゴンを倒したスキルって準備に時間がかかるんでしょ?」
「それはもうやってる、もう少しで終わるから大丈夫だ」
実は、さっき解析ツールで見たときから、すでにコードの打ち込みは開始していたのである。
チートツールは他の人に見えないのでアリーセは気が付かなかったようだ。
コードを打ち込む時間さえあれば、確実に倒せるのでやらないという手はない。
「そ、そう、なら良いか……な? それじゃあ準備出来たら教えてくれる? そういうことだったら折角だし私の攻撃が通じるか試しても良い? あれが1体だけとは限らないし」
「ああ、存分にやってくれ」
ケイブトロールのコードが打ち終わり、魔導銃に風の魔石弾を装填しながら、記載ミスが無いかチェックをする。
森なので火だと火災が怖いし、水や土だと痕跡が多く残りそうな気がしたので風をチョイスした。
「準備出来たぞ、いつでも大丈夫だからアリーセが良いタイミングで始めてくれ」
「エンシェントドラゴンもアッサリ倒しちゃうし発動タイミングも自由なんて、めちゃくちゃなスキルよねそれ」
弓を構えながら、半ば呆れた様子でアリーセが言ってきた。
呆れっぱなしだな。
「まあ、群れとか多数の相手だと正直使えないと思うけどな」
ただでさえ長いコードをミスなく大量に入力するとなったら、流石に時間がかかりすぎる。
「接近する必要も無いし、十分反則すぎるスキルだと思うわ、知れ渡ると大変なことになると思うから絶対に隠した方が良いスキルね」
「そうだな、それはよく分かってる」
「それじゃあ、ゴブリンが全滅したら、そのタイミングで攻撃するわね」
「あいあいまむ」
アリーセは物陰に隠れたままの姿勢で弓を引いた。
最後のゴブリンがトロールにぶっ飛ばされたところで、トロールからは見えない位置でものすごい勢いで矢を放っていった。
「うーん、刺さってはいるけどまったく効いてる感じがしないわね」
数十秒ほど矢を受け続け矢でハリネズミのようになったトロールが、怒り狂って棍棒を手当たり次第振り回している。
頭はあまり良くないのだろう、同じとこから撃たれているのにどこから攻撃されたか分かってないようだ。
「どんだけ放ったんだよ、スゲーな」
「120本ね、倒すつもりで撃ち尽くしちゃったけど、あれだけ平然と動かれると自信無くすわ」
必中で120本の矢を十数秒で放つとか十分すごいと思います。
「よし、それじゃあ、俺の番だな」
風の魔石弾を装填した魔導銃を伏せ撃ちの状態で構える。
やはり銃床と照準器が欲しいところだが、今は仕方がない。
狙いが定まったところで息を止めて、引き金をそっと引く。
低い唸り声のような音と共に目の前の空間が高密度の空気により歪んで見えた。
伏せ撃ちをしたせいで、低い位置から放たれた高密度な空気の塊は地面を少しえぐりながら一瞬でトロールへと向かっていき、当たった瞬間に圧縮された空気が開放され爆発した。
「キャー、何よコレ!」
「うおわっ、風だからカマイタチとか竜巻になるかと思ったのに、爆発するのかよ!?」
そこそこ離れていたと言うのに、俺とアリーセは爆風に煽られて飛ばされそうになった。
土埃が飛んできて目を開けていられない。
爆風が過ぎ去り目を開けると、そこには肉片のようなものと、なぎ倒された木々、えぐれた地面が見えたのだった。




