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62話 理科の実験再び

 街の外に出て手頃な広場を探していると、昼間ブレスを放った草原の辺りに、ちらほら他の冒険者達の姿が見えた。

 俺はそっとその場を後にして、もう少し街から離れた川の辺りまで足をのばした。

 川に近づくと、ここにも人影があった。


「ああっ 今の水は入ったと思ったのに!」


 アリーセだった。


「おっす、お疲れさん。 うまく行ってるかー?」


 アリーセなら良いやと、俺が声をかけるとビクッとして振り返った。


「なんだ、イオリかー。 ビックリさせないでよ」


「なんだは酷いな」


 よっぽど集中していたのだろう、話し掛けるまで俺に気が付かないとか、気配や何かに敏感なアリーセにしては珍しい。


「で、うまく水は入れられるようになったのか?」


「まだ全然出来ないわ。 またイオリ先生に見本を見せて貰いたいわね」


「見本と言わず、ガッツリと純粋な水と言うものについて説明しよう!」


「それは遠慮するわ!」


 コリンナ様の授業でも使った黒板を取り出そうとしたら、アリーセに素気なく断られてしまった。


「さっき、携行水がどういうものか確認してきたから、作り方を教えたらうまく行くんじゃないかと思ったんだけどな、残念だ」


「え? 携行水の作り方わかったの!?」


 アリーセには携行水が蒸留水であるという推測は伝えていたが、確定していたわけじゃなかったので同じ物かは不明だと説明していたのだ。

 ついさっき携行水が蒸留水だと判明したので確定情報として伝えて問題ないだろう。

 まあ、アイテムボックスに収納できれば作り方とか気にしないでよい気もするが、売られているものと同じ方が説得力は高いだろう。


「ああ、予想通り蒸留水だったよ。ちょっとした道具があれば子供でも作れるぞ」


「それじゃあ私にも作れるの? また小難しいあれこれがあるんじゃないの?」


 小難しいって……。

 何やら苦手意識を持たせてしまったのならば、教育者としては失格だな。

 教育者じゃないけど。


「大丈夫だ……たぶん」


「今たぶんって言った!?」


 アリーセは考えるよりも体動かせっ、てところがあるからなるべく分かりやすく説明しないとな。


「アリーセはお湯を沸かしたことあるか?」


「え? それくらいならあるけど」


「お湯を沸かすと湯気が出るだろ、あれを集めたのが蒸留水、つまり携行水の正体だ」


「湯気なんてどうやって集めるのよ?」


 今度こそアイテムボックスから黒板を取り出して、図に書いて説明をする。


「うわ、なんか出てきた……」


 うわ、とか失礼なやつだな。 ある程度大きく視覚化出来るから何か説明する時に有用なんだぞ?

 俺は、ごくシンプルな蒸留装置を図解して説明をする。


「こうやってお湯を沸かす鍋に穴のある蓋をして、その穴に管をつけてやれば水蒸気……えーと、湯気を集めることができて、その管から蒸留水が出てくるんだ。 温められて湯気になった水を冷まして水に戻すって作業だな」


「湯気が携行水ってことなの?」


「ものすごく大雑把に言えばそうだな」


 信じられないって顔をしているな、こういう時は実験をするべきだな!

 実験の有用性はコリンナ様で実証済みだ。 きっとアリーセにも理解してもらえるだろう。

 アイテムボックスからゲームの時に錬金術師になるクエストで使う『初級錬金術セット』を取り出す。


「よし、じゃあこれで実験してみよう」


「え? ここでやるの?」


「何か問題が?」


「え? な、ないけど……」


 アリーセの同意も取れたので、早速フラスコに川の水を汲んで、チューブを繋いだ栓をする。 チューブの先に試験管を置いて水を入れたビーカーに浸けたら実験装置の完成だ。


 魔法で沸騰させても良いのだが、アリーセが魔法で何かしたと勘違いしてしまわないように、アルコールランプに火を点けてフラスコを熱する。


「見ての通り、魔法やスキルで何もしていないだろ?」


「そうね、やってることは、川の水を入れた変な形の瓶を火にかけただけね」


 やがてフラスコの水が沸騰しチューブの先から湯気が出始める。

 チューブから出た湯気は水につけた試験管で冷やされ再び水へと戻る。


「ほら、見えるだろ? この水滴が蒸留水、すなわち携行水だ」


「ちょっとしかないわよ?」


「分かりやすく理解するための実験だからな、これの規模を大きくすればもっと沢山作れるぞ」


「な、なるほど?」


 よく分かってない顔だな。

 良かろう、ここは大規模に蒸留水を作る場合の設備の作り方を説明……


「追加の説明は要らないからね!」


「ち」


「舌打ちした!?」


 そんな話をしているうちに試験管の底に少し水が溜まっていた。


「それじゃあ、これが本当にアイテムボックスに収納出来るか試してみよう」


「そうね、やってみるわ」


 アリーセに装置から試験管を外して渡すと、あっさりアイテムボックスに収納出来たようだ。


「うあ、湯気集めただけで本当に入った」


「正確には集めたのは水蒸気なんだが、まあ、その辺は知らなくても問題は無いか……じゃあ川の水の中の水以外の物がどうなるかも、わかりやすくやってみせよう」


「小さなゴミとか言ってたやつ?」


「そうそう」


 まあ、視覚的にわかりやすいように川の水で食塩水をつくって、無色透明であることをアリーセに確認させる。

 まあ、蒸留水で食塩水作ったら普通にアイテムボックスに収納できちゃうけど、水の中にはいろいろなものが溶け込んでいるということが、アリーセがわかりやすければ良い。

 食塩はもちろんアイテム変化で変化したアイテムだ。 ゲームでは料理だけでなく錬金術やポーションの作成など用途の多かった素材アイテムでもある。

 食塩水をスプーンに少しすくって、アルコールランプで熱する。

 すぐに沸騰して水分が蒸発していき、スプーンに白く食塩が残った。

 

「これが、水の中にあった水以外のものだな。 こうやって水を蒸発させてもしっかりこっちに残ってるだろ? だから水蒸気を集めれば無機物の水だけになってアイテムボックスに収納できるってわけだ。 これは、水というのがそこそこ強い水溶液で……」


「あー! もうわかったから大丈夫よ! お湯を沸かして湯気を集めれば、携行水になるんだってわかったから!」


 説明を途中で遮られてしまった。 これから沸点の違いとか補足説明をしようと思ってたのに……。


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