47話 俺の実演
俺は、アイテムボックスからダメージ軽減効果のあるポーションを取り出して飲む。
青汁っぽい味がして少し顔をしかめてしまう。
このダメージ軽減ポーションは効果は防御力を上げるようなポーションと似ているが、ダメージの数値そのものを減らすという、なんともゲーム的なポーションである。
もちろん課金アイテムの効果が高いものだ。
バランスを崩さないように前傾姿勢をとる。 大げさな居合斬りの構えのようなポーズだ。
「ソニックスラッシュ!」
スキル発動とほぼ同時に、破裂音がなる。
手の先が音速の超えたときの衝撃波である。
耳も痛く腕が抜けそうな感覚と手のひらや指先に遠心力で血液等が一気に集まって破裂するんじゃないかと錯覚を起こすがダメージ軽減ポーションのおかげでなんとか耐えることができる。
そこから、ほとんど間を開けることなく10mほど先にあるカカシが炎上する。
そこから立て続けに3回『ソニックスラッシュ』を発動させると、破裂音と共にカカシに炎が広がり、小さな爆発が起こる。
いったい何をしたのかといえば、勢いを利用してアイテムを投げただけである。
地味だが実用性は高い……はずだ。
ゲームの時は衝撃波を前方に飛ばして攻撃する遠距離攻撃であったが、現実となってしまったこの世界では衝撃波は自分に向かってくる分量の方が多く飛んで行く衝撃波が物凄く微弱だ。
さらに振り回した武器の反作用で自分が吹き飛ぶレベルで振り回されてしまう。
しかし、振り回されないように軽い武器を使うとなるとサイズも小さくなり攻撃に使うには心もとない感じになってしまう。
さらに悪い事に実はかなり小さなナイフなどでも、遠心力が強すぎて武器を手放さずに持っているということが出来なかったのである。
そこで、どうせ持っていられないならば、いっそそのまま投げてしまおうと考えたのである。
ごく小さな金属片などを音速で発射すれば、拳銃に匹敵する威力があるのではないかと思ったわけである。
感覚的に飛ばしたい方向の45度手前ぐらいで手を離すと大体正面に飛ぶと言う事を発見したが、腕の振りが早すぎて正直なところ命中率や射程はまだ大した事がなく、今後も要練習ではある。
そして、今回はアリーセのハードル上げに対抗すべく、投げつけると効果のあるアイテムを投げたのである。
投げる物を変えるだけなので汎用性は高いのでは無いだろうか?
最初に投げたのは『火炎石』という、もともとが合成素材として使われていた小さな赤い石である。
この石は砕けると周りに火が広がるのである。
次に3回連続で投げつけたのは、リンの塊と金属片である。 やはりゲームでは合成素材であるが、リンは肥料やマッチなどにも使われているよく燃える物質だ。
これを火炎石で燃えているカカシに投げつけたのでぶつかった途端に粉末状に砕け散り、引火したというだけである。
小規模な粉塵爆発を起こさせダメ押しで最後に金属辺を投げつけたというわけである。
密閉空間ならともかく屋外で粉塵爆発を起こしてもボワッと一瞬燃えてお終いなので爆発の方は目くらまし程度だ。
「おお、これもまた素晴らしい! 様々なスキルや魔法を見てきてが、あのように、対象がいきなり炎上する技というのは初めて見たぞ」
爆発こそするが、アリーセよりも大分地味っなのであるが、なんとか気に入って貰えたようだ。
「ジークフリード様、これをご覧ください」
いつの間にかヴァルターさんが焼けたカカシを持ってきていた。
この人はどうやって移動しているのだろうか? 全く気が付かなかった。
「先程のイオリが攻撃したカカシか、これがどうかしたのかヴァルター?」
「はい、大きな凹みもありますが、ちょうどこちらの正面部分に指先程度の穴が空いているのがお分かりいただけるかと思います」
「ふむ、燃えるだけでなく小さいとはいえ板金鎧に穴が空くというのはなかなかの威力ではないか」
「では、裏側をご覧ください」
ヴァルターさんが、カカシをクルリとひっくり返すと、背面部分の鎧に拳1つ分程度の穴があり内側から外に向けてめくれているのがわかる。
ダメ押しで投げた金属片は貫通していたようだ。
弾丸が入った側より抜けた側の方が大きく破壊されているというこの現象は、銃で何かを撃った場合とよく似ている。
「ほほう、裏側の方が穴が大きいな」
「左様でございます。これを見るに炎は副次的なもので主に内側に大きなダメージを与えるスキルなのではないかと考察いたします」
なにやら、分析が進んでいるようだが初速が音速であることを除けば物を投げているだけなのでやっていることは非常に単純である。
「なるほど、ドラゴンが無傷であったと聞いていたが、内側にダメージが通っていたと言うのならば得心がいく」
「極東の一部の地域で見られる武術のスキルで、鎧を着た相手や甲殻の硬いモンスター等の内部に攻撃を浸透させ効果的にダメージを与えるというものがございます。 おそらくその系統のスキルなのではないでしょうか?」
いや、ただ物を投げているだけです。
「するとイオリは極東から飛ばされてきた可能性が高いと言えそうだな、あそこは国交を閉鎖しているところもあると聞く。 であれば転移事故の情報がここまで入ってこないというのもわかるか」
極東とな? その設定も頂いておこう。 やっぱり日本ぽい国があったりするのだろうか?
後で調べてみよう。
って、流しそうになったけど、けっこうガッツリと俺の素性を調べられてるんじゃないだろうか?
まあ、領主に面会させるなんて時点で当然身辺調査くらいするか。
ドラゴン倒してから今回の呼び出しまで間があったわけだしな。
幸いにもまだボロは出ていないようだが、よく考えてみれば異世界から来などとは考えないので他国の間者だとか犯罪者じゃないかとかヤバイ宗教関係じゃないかとか、そういった方面で調べるのが普通だろうな。
「エーリカは今のイオリが使ったスキルをどう見る?」
「わ、私でございますか!? え、えーとそうでございますね……。 少なくとも魔力の流れは感じませんでしたし、なにかエンチャントを行っている様子もありませんでしたので、まだ余力があるのではないかと思いますわ」
エーリカが急に話を振られて、焦って答えてるが、余力なんて無いしあれで結構全力だ。
『ソニックスラッシュ』のレベルは1のままなので上げることも出来るが、どうなるかは非常に怖くもある。
レベル2にして速度がマッハ2になりました。なんて事になったら、どうなるか想像もつかない。
「ほう、つまり本気では無かったわけだな。 コリンナはどうだった?」
「よくわかりませんけど、二人共カッコ良かったと思います!」
小並感か!とツッコミそうになったがコリンナ様は実際小学生くらいの歳だろうから順当な回答か。
ジークフリード様に頭を撫でられて嬉しそうにしている。
で、これでもう終わりで帰えれるんだよな?
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