42話 ベテランのメイドさん達
ドナドナされていくアリーセを見送って、若いリアルメイドにドレッサールームの様な所に案内をされた。
メイドさんに衣装合わせの世話をしてもらえるとは、それはそれで楽しみである。
「それでは、これよりイオリ様のご準備をお手伝いさせて頂きます」
そこに居たのは恰幅の良い、ご年配のメイドさんであった。
あれ? さっきの案内をしてくれた若いメイドさんは何処に!?
周り見回すと、案内をしてくれたメイドさんはお辞儀をして部屋から出て行ってしまった。
マジか……。
「さあさ、慣れないかとは思いますが、私どもにお任せくだされば、立派なジェントルマンにして差し上げます。 こういったご準備に慣れない方ですと、ご不快になられる方もおりますので、確認をさせて頂いているのですが、あと数名程補佐として呼んでも構わないでしょうか?」
ああ、なるほど、平民を呼んでるわけだから、余計な不安を与えないように配慮がされてるって事か。
もとの世界でメイド喫茶に通っていた俺としては、メイドさんにお世話される事に否は無い!
問題ない旨と、すべてお任せすると言う旨を伝えると、ご年配のメイドさんが2回手を叩く。
すると背後の扉が開き、5人のメイドさんが入室して来た。
「皆ベテランですので、ご安心下さいね」
「あ、はいよろしくお願いしま……す……」
入室して来たのは、見るからにベテランのメイドさん達だった。ピンと伸びた背筋にどことなく漂う品の良さ、歩く姿にも一切の隙を感じさせないその姿に、言葉が詰まる程に圧倒された。
「な、なるほど、これは確かに……頼りがいがありそうですね。しかし……」
俺は一旦言葉を切る。
「過分にもこんなにベテランの方をつけて頂いて宜しかったのですか?」
ベテランという時点で気がつくべきだったかもしれない。
「イオリ様はドラゴンを倒される程の実力者でございます。 失礼があってはいけませんので、勤続の長い優秀な者たちを揃えさせて頂きました」
そう、皆おばちゃんメイドだったのである!
後で知った事だが、男性につくメイドはハニートラップでは無い事を示す為に、既婚で勤続の長い年配の者なのだそうだ。
なので、事情も無く若く見目麗しいメイドが付いた場合は気を付け無くてはいけないのだそうだ。
理解は出来るが納得は行かなかった。
俺のワクワクとドキドキを返えしてほしい。
その後小一時間、心を無にしておばちゃん軍団に弄り回され、レース多めのビシッとしたスーツ姿に仕立て上げられた。
下着を脱がされそうになった時は流石に焦ったが、最後の砦だけはなんとか死守した。
俺もアリーセに渡したポーションを飲んでおけば良かったな……。
着替えの終わった俺は、控室の様な部屋に案内された。
案内をしてくれるのは若いメイドさんのようだったので、目に焼き付けて心の平穏を保っておく。
控室と言っても20畳くらいの広さがあって、ふかふかのソファーに高級感漂うお茶菓子が用意されていた。
「アリーセ様のお召変えには、殿方と比べますと幾分か時間が掛かります。その間はこちらの部屋でお寛ぎ下さい。何かございましたら、そちらのテーブルにありますベルを鳴らして頂ければ、すぐに担当の者が参ります」
香りの良いお茶を煎れてくれた若いメイドさんは、それだけ言うと退室してしまい、部屋に一人取り残された。
特にすることもないので、装飾過多な高級そうなお茶菓子を食い散らかし、ちょうど良い温度の香りが良いお茶を飲み干した後、部屋の物を鑑定して周り、その高級さに身動きが取れなくなって来た。
何か壊しても弁償は幾らでも出来るが、弁償出来るから壊しても良いと言う事にはならないし、チートツールで直す事も可能だが、わざわざ壊したいと思う事もない。
それに『覗き窓付きの絵画』とか『隠し通路の偽装扉』とかを見つけてしまっては、下手な事をする気も起きない。
実際に監視されているかどうかは正直分からないが、監視されていると思って行動しておくに越したことはないだろう。
「そういや、手土産的な物はあった方が良いのだろうか?」
日本人的な考え方では、菓子折りでも持ってくる所ではあるが、礼儀的にどうなのか聞いていなかった。
「まあ、平民と分かって呼んでるわけだし気にしなくても大丈夫か……」
本当に監視されているかは分からないが、時折『覗き窓付き絵画』の方に意味深に顔を向けたり、手を振ってご苦労様とか言ってみたり、『隠し通路の偽装扉』の前で、ほう、こんな所に……等と呟いたりして、優秀な主人公ごっこをして時間を潰した。
4杯目のお茶を貰った所でノックの音が聞えた。
「どうぞ」
もとの世界と変わらない入室の許可をすると、若いメイドさんが礼をして入室して来た。
「アリーセ様のご準備が整いましたので、こちらにお連れしました」
やっと来たかと迎え入れようと立ち上がった所で、髪をアップにまとめ、レースとフリルを上品にあしらった薄紅色のドレスを着たご令嬢が入室して来た。
「えーと、どちら様でしょうか?」
「私よ! アリーセ!」
「いや、分かってる冗談だ」
「どうせ似合わないのは分かってるわよ、笑いたければ笑えば良いじゃない……」
そんな事はない、薄紅色のドレスはアリーセに良く似合っているし、もともと可愛い印象のアリーセは薄く化粧が施され、ほのかに花の様な香りもする。
美しいご令嬢と言った佇まいだ。
「いやいや、どこぞのお姫様かと思ったくらいだ」
「そ、そうかな? 変じゃない?」
「ああ、自信持って良いと思うぞ」
「そっか、いきなり裸にされてお風呂で取り囲まれて磨き上げられて、何か良い匂いのする油を全身に刷り込まれて、肌触りが異常なほど良いレースだらけの下着を着せられて、腰をこれでもかって位締め上げられて、幾つもドレスを着させられて、やっと決まったと思ったら、髪の毛をぎっちり結い上げられて、顔中に何か塗られて、手袋とか靴で見えないのに爪を全部磨かれて、ついでに歩き方や座り方の練習までさせられた甲斐があったかしら?」
アリーセはアリーセでなかなか大変だったようである。
ポーション飲んどいて良かったな。
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