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41話 ドナドナ

 ヴァルターさんの先導でギルドの外に出ると、高級感漂うシックな馬車が停まっていた。

 華美な装飾は無いが、さり気なく飾られた金の細工等があり品の良さを感じる。


「どうぞ、お乗りください」


 ヴァルターさんが馬車の扉を開けてくれたので、一回だけ受けた礼儀作法の講習通りに先に乗り込み、アリーセに手を差し出す。

 ギクシャクと手を掴みアリーセを馬車に引き上げる。

 俺の手がメリメリ言っているので、もうちょっと手の力は抜いてほしい。

 それで確か女性や護衛対象は奥に座らせて扉側に俺が座れば良かったはずだ。

 所作はともかく、服装やなんかはど平民なので場違い感が半端ないな。


「では、出発させて頂きます」


 ヴァルターさんが向かい側に乗り込んで来て、馬車の壁をコンコンと叩くと、ゆっくりと馬車が走り出した。


「えーと、我々はご覧の通りの格好なのですが、構わなかったのでしょうか?」


 それっぽいアバター装備もある事はあるが、ギルドに来てそのまま待機という事になった為に着替えるのも不自然だったので古着屋で買った服のままである。


「ジークフリード様はそういった事をお気になされない方では御座いますが、風評等の問題も無いとは言えませんので、こちらで用意をさせて頂いております」


 こちらは平民なのに、見下した様な印象も無く随分と丁寧に対応してくれる。


「そうですか、よろしくお願いします」


「ジークフリード様は、非常に気さくな方で冒険者の方々の事もよく知っておいでです。 肩肘張らずとも不敬だ等とはおっしゃいませんのでご安心下さい」


 落ち着いた微笑みでそう言われると、非常に安心感があって、若い頃は相当モテたのでは無いだろうかと思わずにはいられない。


 道中無言で過ごすのも気まずいというか沈黙の空気が苦手ので、領地の人口やら特産、気候風土、公共事業等、ぶっちゃけどうでも良い話なのだが、思いつく限り聞いて過ごした。

 アリーセは俺の横で微動だにしないので、俺が質問を投げかけヴァルターさんが淀み無く答えるというやり取りが延々と続く。


「しかし、イオリ殿は政治や経済にも明るいのですかな? ドラゴンを倒してしまわれる様な冒険者の方は、公共事業や産業などお気になさらないものだと思っておりました。己の見識の狭さに恥じ入るばかりです」


「とんでもありません、無学ゆえの好奇心で不躾な質問ばかりで申し訳ありません」


 間が持たないので、当たり障りの無さそうな思いつく限りの事を聞いているだけだが、そろそろネタが無い。

 国内総生産とか聞いても、俺自身が国内総生産が何かとかちゃんと説明出来ないしな。

 等と考えているうちに、馬車は目的地に着いたようだ。


 外から守衛っぽい人に扉が開けられ、先にヴァルターさんが馬車を下りる。

 続いて俺が下りて、アリーセが下りる補佐をしようとしたら、ひょいとアリーセが俺の手に捕まることなく飛び降りてしまった。


「あっ」


 教わった作法的には、ここは俺の手を取ってゆっくり下りるのが正解なのだが、すっかり忘れていたようだ。


 さーっという血の気が引く音が聞こえそうなほど青くなったアリーセだったが、気にしないのか、見逃してもらえたのか、何事もなかったかのように、ご案内します。と先導をしてくれた。


「まあ、まだ偉い人が居るわけでもないし、平民なのは一目瞭然なのだから、多少失敗した所で何か咎められることも無いだろ」


「そ、そうかしら?」


「その通り度御座います。アリーセ嬢も気を楽にして頂いて結構です」


「わぁ!」


 いつの間にかすぐ近くに居たヴァルターさんにびっくりしたアリーセが抱きついてきた。

 抱きつかれはしたが、自分の体からミシリと音が聞こえてくると、ラッキーだとか思って居られない。


「おっと、驚かせてしまいましたか。失礼をお許し下さい」


 謝罪をしてくれるヴァルターさんだったが、アリーセの方に意識が向いていたとはいえ、いつ近づいて来たのか全く気が付かなかった。

 気配に敏感なアリーセを驚かすのは、実は結構難しいので、このヴァルターさん結構な実力者かもしれない。


 アリーセが緊張しすぎってだけの可能性も高いが……。


 一先ず落ち着いて、周りを見てみると馬車は建物のすぐ目の前に停まっているようで冒険者ギルドよりも更に大きな建物が見えた。

 少し振り返って見てみると、当然といえば当然だが貴族街のど真ん中のようだ。

 生け垣に囲まれた噴水のある大きな庭があり、館に続く道の敷石は綺麗に磨かれている。

 流石に領主の館だけあって立派なものだ。


 館の扉がヴァルターさんによって開けられる。ドアマンは居ないようだ。


「それでは、こちらへお越しください」


 促されて館の中入る。広いエントランスホールに数人のメイドが控えていた。流石に勢揃いと言うわけではないが本物のメイドである。なんだかテンションが上がってきた。


「この者たちがアリーセ嬢とイオリ殿のお召変えのお手伝いを致します。お召変えが終わりました頃、改めてお迎えに上がります」


 実に綺麗な礼をされ、ヴァルターさんに見送られた。

 着替えると言う事で当然俺とアリーセは別々になる。

 連れて行かれる時の捨てられた子犬の様な目が忘れられない。

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