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40話 一本行っとく?

 昼ごろになって、冒険者ギルドに併設されている酒場で飯を食っていたら疲れた顔のアリーセがやってきた。

 やけに歩く姿勢が良いのは講習の賜物か。


「おっす、お疲れさん、聞いてるとは思うけど、もう少ししたらお迎えが来るってさ」


「その件については承知しております……」


 虚ろな目でそう応えるアリーセ。

 あー慣れない敬語とか強制されてると戻らなくなったりするよなぁ。

 調子は狂うが、どうしようもないので、とりあえずは放置しておこう。


「飯どうする? タダで良いってエマ言ってたぞ」


「申し訳ありませんが、あまり食欲がありませんので、ご辞退させていただきたく……」


 どこか視線が合わないアリーセは胃のあたりを抑えているようだ。

 貴族かもしれないってだけで、土下座をかましたアリーセには、いきなり領主に会うというイベントは相当ストレスのようだ。

 俺は何も言わずアイテムボックスから一番効果の高いポーションを取り出し、アリーセに渡す。


「ありがとう存じます……」


 そのままキュッと一気にポーションを煽る。


「ぷはあっ、なにこれすごい効く!?」


「面会中にお腹がなったりすると不味いから、無理でも少しは何か食っといた方が良いぞ」


「あ、うん、そうね分かったわ」


 なんとかいつもの調子が戻ったようだ。

 ちなみに渡したポーションは『ソーマ』というゲームではHPとMPとスタミナ、更に呪いや石化を含む全ての状態異常が全回復するというポーションだ。

 効果がありすぎて使うのがもったいないため、他の手に入りやすいポーションで代用してしまってゲームでは使わずに取って置かれるだけのコレクションアイテムと化したりしていた。

 アンデット系のレイドボスに使用したら消滅したという報告があったりしたが、普通に皆で殴れば比較的簡単に倒せるレイドボスだったため、このテクニックを使うプレイヤーも少なかったのでゲームでも修正されずに放置されたりしたという、最も使用頻度の少ない不遇のアイテムである。

 そんな不遇のアイテムであるが、効果はバクグンだ。

 現実になった今ではストレスにまで効くようで、アリーセの目に光が戻った。


「って、誤魔化されないわよ!? なにこのポーション、疲れや肩こりどころか重い気分まで吹き飛んだわ!?」


「もう一本行っとく?」


「十分過ぎる程回復したわよ。 これ絶対何か聞いたら余計に疲れたりする様なヤツ何でしょ!?」


 分かってるなら聞かなきゃ良いのにと思わないでもないが、無事復活したようで何よりだ。


「それで、改めて飯はどうする?」


「急にお腹が空いてきたから頂くわ」


 アリーセが席につくと俺の皿から勝手にフライドチキンっぽい何かを取って行って食べ始めた。


「それ俺のなんだが……」


「ひおひはこーひーははらいーへほ」


「食ってから喋ってくれ……」


 凄い早食いでフライドチキンっぽい何かをたいらげたアリーセは、俺のお茶を一気飲みしてから改めて口を開いた。


「イオリは今日聞いたから良いけど、私はもう一昨日には聞かされて、礼儀作法の講習が更に厳しく叩き込まれてたんだからね! もうこの二日間お腹痛いしご飯が喉を通らなかったの!」


「もう一本行っとく?」


「もう十分過ぎる程回復したってば……ってしれっとさっきと違うポーション出さないでよ、何これ?」


「気休め程度だけど気持ちが落ち着くポーションだ、飲むと半日程度は緊張がほぐれるぞ」


 今度出したのは、約12時間状態異常にならなくなる課金アイテムだった『ハイコンディションポーション』だ。ストレスや緊張が状態異常に入るのかどうかは分からいのでアリーセには気休めと言ったが『ソーマ』がストレスにも効いたようなので、多分大丈夫だろう。


「半日って、凄い高級なやつじゃないのよ……でも、ありがたく貰っておくわ、ありがと」


 日頃の感謝を込めて最高のポーションを渡しているのだが、アリーセはこめかみに指を当てて、頭痛がするという。


解せぬ。


「とりあえず、エマから直接質問をされたとき以外はイオリに任せておきなさいって言われてるから任せるわ」


 まさかの丸投げであるが、アリーセの様子を見れば致し方なしである。

 エマからはよほどの無茶振りでない限り先方の要求には応えるようにと、もとの世界でも言われた事のあるような話をされた。

 すべて出来ると答えておいて、その後でどうやってやって実現するのか必死に考えれば良いんだろ?とか答えておいたので、そのせいかもしれない。


 しばらく酒場で待っていると、ギルドの外から馬車が止まる音が聞こえてきた。

 ギルドに入って来たのは、ロマンスグレーのオールバックに口髭にスーツ姿がビシッと決まった初老の人物だった。


「うわぁ、来たぁ……、絶対私達を呼びに来た人だよね?」


「まあそうだろうな」


 ロマンスグレーなその人物はギルドの職員と二言三言交わすと、こちらの方へとやって来た。


「ご歓談中に失礼を致します。 私ジークフリード・ローデンヴァルト辺境伯に仕えております、ヴァルター・フォーレルトンと申します。 アリーセ・ベルガー嬢とイオリ・コスイ殿とお見受けします」


 微塵も身体の軸がブレない完璧な礼とともに、そのヴァルターと名乗る初老の人物が話し掛けて来た。


「はい、本日はローデンヴァルト閣下にお招きにあずかりましてありがとうございます。大変光栄に存じます」


「ご丁寧にありがとうございます。では、早速で申し訳ありませんが外に馬車を待たせてありますので、ご同道をお願います」


「承知しました。宜しくお願い致します」


 ぶっちゃけ、ノリと勢いで話しているのだが、俺とヴァルターさんのやり取りを見ていたアリーセが、さっき渡したポーションをキュッと一気に飲み干したのが見えた。

 もう一本渡しとくか?


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