38話 俺のせいだった
「イオリ、もう間に合わない。私が囮になるからちゃんと逃げて」
「待ってくれ、もう少しで終わる」
「何をしようとしているか分からないけど『神の使徒』なんて称号を持っているドラゴンに何か出来るなんて思えないわ」
アリーセに比べてドラゴンのコードは量が多い、作り終わるまで、もう少しかかってしまいそうだ。
ひたすら手を動かし、コードを作成していく。
「このままここでジッと隠れていればやり過ごせないか?」
「無理ね、多分もうここに居ることがバレてるわね」
このままでは、アリーセが一人で飛び出して行ってしまいそうだ。
「知能は高いし、言語も理解している。見逃してくれって話し掛けてみたらどうだ?」
「ドラゴンに私達の常識とか通じなさそうだけど……」
「酒好きってのがあった『本みりん』ならまだたくさんある、それ交渉してみるってのはどうだ?」
アリーセを引き留めるために、代案を出していく。
コードさえ出来てしまえば、どうとでもなるはずだ。
「矮小なる生物よ、そこに隠れているのは分かっている。知性あるものならば出てくるが良い」
複数の音が混ざった低く威圧感のある声が響き渡る。
やはり喋れる様だ。問答無用で攻撃とかされなくて良かった。
「どうする?」
「こうなったら、出て行くしか無さそうね、逃げ切れるとも思えないけど、何かあったら私が盾になるから、イオリは逃げて……」
「分かった、そうする……、とは言わないからな、盾になるなら俺がなる。俺より逃げられる可能性はアリーセの方があるからな」
HPは俺の方が圧倒的に多いし、痛みは感じるが何より減ることもない。
即死ダメージと気絶にさえ気をつければ、死なないわけだから、アリーセが逃げる時間位稼げるだろう。
しかし、死なないのがわかっていると意外と冷静になれるものだな、自分が盾になるとか元の世界じゃビビってぜったい言えなかっただろう。
「さっさと出て来い。出て来ないならば我が話す価値無き者として焼き払うぞ」
長く生きている割に気が短いようだ。
まだコードは出来上がっていないが、仕方なく、二人で窪みから出て黒いドラゴンと対峙する。
「私じゃ、言葉遣いも良くないし、交渉とか無理だから話すのはイオリに任せるわ……」
「分かった、イザとなったらお互い反対方向へ逃げるって事で」
顔はドラゴンに向けたまま、小声で行動の確認をする。
「出てきたな、矮小なる生物よ」
近くで見るとでかいな、こいつの前に出るとか正直勘弁して欲しい。
対峙しつつも、手は止めない。怪しさ満点だが、ここまでサイズ差があったら手の指の動きくらい、そこまで気にされないだろう。
「我の質問に謀る事なく答えよ」
高圧的な有無を言わさない言動だ。黒いドラゴンからしたら、俺等などネズミにも等しいくらいの存在だろう、腹が減ったから食べるとかでは無く、話し掛けて来ただけ良かったと思うべきか。
「承知した!」
チートツールの画面は俺にしか見えないが、解析ツールは見えてしまう。
位置は動かすことが出来るので脇に隠すようにしている為、コードの作成が遅くなってしまっている。
質問に答えたら、そのまま見逃してくれると良いのだが……。
「我は、二日前の夜とつい先程濃密な魔力の魔晶石の存在を感知した。何か心当たりは無いか?」
二日前と先ほどって、この黒いドラゴンは俺が出した魔晶石目当てで来たのかよ!
こいつが来たの俺のせいじゃねーか。
「知っていると言ったらどうなされる?」
「どこにある!?」
声がでかくて、耳が痛い。
「な、なぜ、魔晶石を探しているのか伺っても?」
「矮小なる生物が知るところではない、早々に話すが良い」
教えてはくれないようだ。別に教えてもいいし渡したって構わないが、渡した途端に用済みだと攻撃されたり食われても困る。
「こちらに危害を加えないと確約してくれるならば答えよう」
その瞬間、黒いドラゴンの腕が振り上げられた。
「イオリ、危ない!」
アリーセがオレのこと突き飛ばしたかと思うと、俺の目の前を黒いドラゴンの爪が掠めていき、俺の代わりに、まるで木の葉のように吹き飛ばされるアリーセの姿が見えた。
「アリーセ!」
アリーセは木に叩きつけれられ、ピクリとも動かない。
慌ててアリーセの元に駆け寄り、解析ツールでアリーセの解析結果を見る。
HPは減っていない、チートコードがちゃんと効いていたようで、気絶しているだけのようだ。
ホッと胸をなでおろす。
「下等な生物が我と対等に話せると思うな! さっさと魔晶石の在り処を話せ!」
加減したつもりなのかもしれないが死んでしまってもおかしくなかった。
こいつ、気は短いし知力高いくせに頭は良くないな。嘘でも正直に答えれば無事に帰すといえば答えたものを、いきなり攻撃してくるとは。
怒りの気持ちはふつふつと湧き上がる。
『神の使徒』とか御大層な称号があるから、少し倒したらまずいかもしれない等と思っていたが、傲慢なだけのモンスターなら遠慮は要らないな。
俺は隠すこと無く、解析ツールのターゲットウインドウを黒いドラゴンに向け、最後のコードを作成する。
「愚かな我に抗うというのか?」
今まで命を脅かされたことが無いのだろう、相当こちらを舐めてかかっているようで解析ツールを気にかけることもなく鼻で笑うような雰囲気を感じる。
好都合だ、素早く作成が思わったコードをコピーしHPの末尾に0を4つ打ち込む。
「ああ、そうさせてもらう、その御大層な図体も知性もスキルもすべて活かすこと無く死んで行け」
俺は、黒いドラゴンのHPを0にするチートコードを有効にした。
その途端黒いドラゴンの目から光が消え、つかの間ピタリとその動きを止めた後、ゆっくりと倒れていった。
元を0にしたので、耐えることも回復することもなく、一万年以上生きた竜はあっさりとその生涯を閉じた。
間に合うかわからないが『転生』なんていうスキルを持っていたので、一応そのスキルも使えないように消滅させておく。生まれ変わってまたやってこられても困るからな。
「あ、これどうしよう……」
横たわる巨体を見て、どう始末するか頭を悩ませることになった。
俺も十分頭が悪いようだ。
壮絶なバトルとか無くてすみません。
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