37話 黒いドラゴン
チートツールで他人のステータスも変更出来ると言う事について、自分やアイテムでも出来るのだから当然出来るだろうと思いがちだが、実はそうではない。
オンラインでのゲームでは、他のプレイヤーのステータス等はそのプレイヤーが持っているヘッドセットやPCで処理されており、見た目と位置情報やそのプレイヤーが行動をした結果のみを見ているのだ。
その為、チートツールで他のプレイヤーのステータスやアイテム等は自分のヘッドセットにデータが存在しない為、直接いじる事は出来なかったのだ。
サーバーにアクセスして該当のプレイヤーのキャラクターデータを改ざん等のクラック行為が無い訳ではないが、無作為に選ぶならともかく、何千万人分のデータから特定のプレイヤーのデータを探し出すと言うのはあまり現実的ではない。
まあ、うっかりアカウント情報やパスワード等を漏らしてしまったらその限りではないが。
「とは言え、今の俺の状態を見る限り嫌がらせにしか使えんな……」
正直言って、ステータスの数値だけではどの位の強さなのかがさっぱり分からないから調整も難しい。
「何の話?」
「あ、いや、俺の魔法が嫌がらせ位にしか使えないなーって」
つい口に出てしまった言葉を誤魔化すが、ファイヤーボールやウォーターカッターといったちゃんとした魔法にまで発動が至らないと言うのも事実だ。
問題はあるが攻撃スキルはあっさり使えたのに、魔法はちゃんと発動していないのである。
「あー、でもノービスなのに発動体無しで使えるんなら凄いんじゃないの?」
「はつどーたい?」
「杖とか指輪とか、魔力と親和性の高い魔法の補助道具の事よ」
そ~言えばアリーセの弓を鑑定した時に発動体としても使えるとかだったな。
つまりその発動体があればちゃんと魔法が使えるということか。
試しにアリーセの弓を借りて……。
「弓だったら貸さないわよ? あっという間に武器を壊しちゃうんだから」
「あ、はいすみません」
まあ、逆の立場で考えたら、確かに貸したくないよな……。
と反省していたら、アリーセが弓を構えた、一瞬貸してくれるのかと思ったが、表情を見る限り違うようだ。
「イオリ、不確定大型モンスター 総数1体、正面上空から高速で接近中。何かわからないから隠れてやり過ごすわよ!」
どうやら、強そうなモンスターが近づいて来ているようだ。
「隠れるったって何処に?」
「さっき川にいたとき、入れそうな位の窪みがあったから、そこに隠れるわ、急いで!」
アリーセに急かされ、川っぺりの増水した時に土が削られて窪みになっている所に身を隠す。
草と木の根が絡んで流されなかった表面が丁度屋根のように垂れ下がっていて、1畳分程度の広さもあって隠れるにはもってこいのように思えた。
アリーセは油断なく僅かにある隙間から外の様子を見ている。
しばらくすると、俺にもはっきりと分かる位の風切り音が聞こえてきた。
バッサバッサと大きな物が羽ばたく音が聞こえたかと思うとズンと重たい物が降り立つ音と振動が伝わってきた。
「し、黒いドラゴン……? 何でこんな所に……」
アリーセから、思わずといった様子で声が漏れる。
本物のドラゴンが気になって、俺も隙間からそっと覗いてみる。
ちょっとした建物並の大きさがあり、面長な頭で頭に角が4本生えている。体はゴツゴツとした鱗に包まれており、威圧感が半端なく凄い。
ドラゴンのイメージ通り怖いが知性も感じさせる凛々しい顔をしている。
「イオリ、出来るだけ動かないで静かに」
アリーセがささやく。
俺とアリーセは息を殺して窪みに潜み続ける。
隙間から僅かに見える様子から、何かを探している様な素振りがある。
「何か探しているようね。ご飯に私達を探してるんじゃないと良いけど……」
あんなのと戦うのは勘弁して欲しいが、情報はあって損は無いだろう、鑑定と解析ツールで黒いドラゴンを調べる。
《鑑定不能》
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名前:
種族:エンシェントダークドラゴン
年齢:12018歳
レベル:456
HP:230000
MP:150000
スタミナ:120000
筋力:8100
敏捷:6700
知力:5000
器用:1200
体力:12800
魔力:8000
頑健:8300
精神:6900
物理攻撃力:24000
魔法攻撃力:18000
物理防御力:27000
魔法防御力:16000
称号:神の使徒 調停者 酒好き コレクター
スキル
パッシブ:全言語
:転生
:魔法障壁 LV4
:物理障壁 LV3
:全耐性 LV6
:心話 LV5
:HP自動回復 LV6
:MP自動回復 LV6
アクティブ:全属性ブレス LV 10
龍言語魔法LV4
究極魔法 LV7
上級魔法 LV10
中級魔法 LV10
初級魔法 LV10
身体変化 LV10
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各種コード
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これレイドボスとかイベントモンスターって奴だな。鑑定弾かれてるし大層な称号もある。ステータスの数字も桁が違うようだ。
探索系のスキルは持ってないようだから、このまま見つからないように、ジッとしていれば去ってくれないだろうか?
解析結果をアリーセにも伝える。
「……もし、こっちに気が付いて襲って来るようだったら、私が囮になるからイオリは、その隙に逃げて街にこの事を知らせて」
「え? それじゃあアリーセはどうなるんだよ」
「私だけなら逃げ切るから大丈夫」
そう言って微笑むが、よく見ればカタカタと震えている。
そりゃあ、ドラゴンを相手にするとか怖いに決まっているか……。
俺の方は不思議と落ち着いている。俺は痛いだろうが即死ダメージでなければ死なない筈だ。
ここは腹をくくろう、どうなるかは分からないがコードを作成する時間さえあればチートツールでなんとか出来る筈だ。
「まだ、こっちには気がついて無いよな? 時間さえあればなんとか出来るかもしれない」
「さっき武器を壊してまた丸腰じゃない、いったい何をする気?」
「説明は後でする、ドラゴンの様子を見ててくれ」
まずアリーセのコードを解析ツールを見ながらをチートツールに打ち込んでいく。
コピー機能が無いのが非常にもどかしいが1文字でもミスれば効果は出ないので、慎重にコードを打ち込んでいく。
ステータスを弄ると弊害があることはわかっているので、HPとMPとスタミナを減らないようにだけする。
即死ダメージを食らったらどうなるかわからないが、保険としては良いだろう。
「いま、何をしたの?」
「ちょっと違うけど、防御力アップと疲れないようにするエンチャントを掛けた、気休めだけどな」
元のステータスのパラメーターには変化はないが、なにか違和感を感じたようなので、そう言っておく。
次にドラゴンのコードも移していく。チートツールは好きなように数値を決められる、俺自身が弱くても弱体化させてしまえばどうとでもなるのだ。
もしなにか復活するようなスキルを持っていてもHPに0を入れてしまえば、どんなに回復をしても0のままで回復も復活も出来なくすることが出来るのである。
しかも0であれば数値の計算も必要は無い。末尾をすべて0にしてしまえば良いので時間も短縮出来る。
「イオリ、こっちに来るわ!」
間に合うか!?
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