34話 勇者でもありません
「なんか凄い音がしたけど、大丈夫!?」
『ソニックスラッシュ』で吹き飛んだ俺のもとにアリーセが駆けつける。
少し意識が飛んでいたようだ。
「HPを上げていなければ即死だった……」
ある程度のダメージは想定していたが、その想定を上回るダメージを受けた。
痛いと思うより先に一瞬で意識が飛んだお陰でケロっとしていられるが、意識があったらレベルアップの時のダメージの比じゃなかったのでは無かろうか?
なんと言うか、攻撃スキルがハードモード過ぎる。
「何やったら、こういう事になるわけ?」
アリーセは何やらコチラではなく、さっき衝撃波を飛ばそうとしていた方を見ている。
吹き飛んだ時に剣から手を離してしまったようで近くの木の幹に穴が空いており、その先にひしゃげた剣が落ちていた。
「ああ!? 買ったばかりの剣が!」
手を離してしまったために、凄い勢いで剣を投げ飛ばしてしまったようだ。
新品同様だった剣が見るも無惨な姿になってしまった。
身につけている装備はひとまず無事だがグローブ手のひらの部分と関節部分が無くなっている。
「こんなに短期間で武器を壊す人、初めてみたわ」
「面目ない……」
これ、耐久回復したら治るかな……。何気に結構気に入っていたので治してしまいたいが、ここまで再起不能状態だと、どうやって治したのか説明ができないか。
「何をしたら、剣がこんな風になるのよ?」
アリーセがしゃがんでひしゃげた剣を拾う、こちらから顔は見えないが、相当呆れた顔をしていると思われれる。
笑ってごまかすしかないなこれは……。
「いやあ、スキルを使ってみたら豪快に剣がスッポ抜けてさぁ、あははは」
「スッポ抜けてこの威力ってどんなスキルよ? 高レベルの身体強化でも出来るの?」
身体強化か、魅力的な響きだな。もしかしてそれがあればスキルに耐えられるようになるだろうか?
「あ、いや、『ソニックスラッシュ』ってスキルを使おうとしただけなんだけどな」
「聞いたことの無いスキルね、まあ、私もすべてのスキルを知ってるってわけじゃないけど、失敗しても剣がめちゃくちゃになるほどの攻撃力があるスキルなんて滅多に無いわよ? 失敗しなかったらアースドラゴンにもダメージが通りそうね、凄いわ……」
滅多に無くても存在はするって事か?
ってそういう事じゃないよな、要は何か高威力のレアスキルだとアリーセは思っているって事か?
『ソニックスラッシュ』は、ゲームでは割と序盤に覚えて、近接職でも間接攻撃が出来るというだけのスキルだった。序盤の技だけあって便利ではあったが攻撃力はスキルレベルを上げても結構残念なスキルだった。
しかし、現実となってしまったこの世界では、本当に音速で剣が振れ凄まじいダメージを叩き出したのである。
主に自分が食らうダメージが………。
ぶっ飛ぶだけではなく、腕は千切れそうになるわ、目の前がブラックアウトするわ、耳はおかしくなるわ、とにかくチートが無ければ即死する所であった。
意識が飛んで本当に良かったと思う。
「自分の方がダメージでかくて、使える気が全くしないけどな……」
「無傷で何を言ってるのよ? 少し吹っ飛ぶ程度でこの威力なんて凄すぎるわ!」
HPが減らないチートがあるからこそ無傷で済んでいるが、ダメージはしっかり食らっているのである。
それに、クレーターを作ったとか、辺り一面吹き飛ばしたとかではなく、木に穴を空けた程度である。
アリーセからすれば、ちょっと吹き飛ばされるだけでそれなりにダメージを与えられるスキルに映っているのかもしれないな。
「いやいやこれを見てくれ、もし、腕の防具の品質が悪かったら、腕を持って行かれてたよ」
体は無傷だが装備品はそうではない。手のひらや肘の部分が何処かに行ってしまってボロボロになったグローブをアリーセに見せる。
「自らの利き腕を犠牲にして、強力な攻撃をするスキルなのね? まるで伝説の勇者みたいね…………え? まさか!?」
「無い無い、それは無い! ステータスブック見せても良いけど、間違いなくただのノービスだから!」
勇者認定など、とんでもない。レベル70でゴブリンにも負けるのに、居るかは知らないが魔王と戦えとか言われたらたまったものではない。
今更遅いのだが、完全に一人の時にスキルの検証をすれば良かった、装備が揃ったり、戦う事を考えたりして少し浮かれて居たようだ。
どうしよう、おかしい人と思われても正直に違う世界から来たと打ち明けてしまうべきだろうか?
言ったら却って勇者認定されてしまうだろうか?
「常識的に考えれば、ノービスのジョブでそんな特殊なスキルが使えるなんて事は無いわ。その時点で何か別のジョブになっているはずだもの」
「実際使えてないから、実質無いのと一緒だよ……」
まあ、アリーセからしたら、一体コイツは何者なんだって思うよなぁ。
「話半分で聞いて欲しいんだけど、アリーセは、転移事故で国どころか違う世界からやって来たって言ったら信じる?」
「違う世界? 転移陣の仕組みをよく知らないけど、一瞬で人や物が遠くに送れるならあり得るんじゃ無い?」
「へぇ、否定はしないんだな」
「実は昨日の朝、少し詳しそうな人に聞いてみたのよ」
なんと、用事っていうのは転移事故について調べに行ってくれたと言うのか。
「専門的過ぎて水の話以上にチンプンカンプンだったから言わなかったんだけど、移動距離は魔力に比例するから、魔力が多い物や人を転移させようとすると、その魔力の影響で目標が遠くにずれるって事があるらしいわ」
それは、なかなか都合が良いな。その詳しい人にも会っていろいろ聞いてみたい。
もとの世界に帰るヒントがあるかもしれない。
魔力の影響でってことなら、あれを見せれば納得してもらえるだろうか?
「なあ、アリーセこれを見てくれ、こいつをどう思う?」
「何これ? え? 凄く大きい!」
なにか凄く惜しかったが、見せた物は魔晶石である。
「コイツは都市の結界を維持出来るくらい凄い物なんだろ? 今の話だとコレのせいで事故が起きたんじゃ無いかと思ったんだよ」
ゴクリとアリーセがツバを飲み込む音が聞こえる。
「さ、流石に違う世界は無いと思うけど、世界の果てからくらいならありそうね」
「いや、実はもっとあるんだ」
そう言ってポンポンと魔晶石を取り出す。
「!?」
まだ10個も出してないが、アリーセが固まってしまった。
「アリーセ?」
「庶民が魔晶石なんて持ってるわけ無いでするーーーーっ! やっぱりお貴族様じゃないですかあああああ! もしかして、王族だから貴族じゃあ無いとかって言うんでございますりるですかーーーーーー!?」
またそれかい……。
読んできただきありがとうございます。
俺TUEEまでは、もうしばらくお待ち下さい。




