33話 戦闘スキルが使い辛い
川にまでたどり着き、そこから少し上流に進んでいくと、だんだんと木々が増えていく。
最初に居た森を抜けたときは、森との境界線がはっきりしていたが、このあたりは木々もまばらで、森や林というほどには木が無く、かといって草原かといえばそうでもないという中途半端な感じの場所だ。
「それで、つづきは……」
「即興で適当に作った話だからねーよ! 近日公開、乞うご期待ね!」
適当に語ったパクリ話がそんなに面白かったのだろうか?
「イオリは作家の才能があると思うわ!」
ありません。
「それで、この辺で良いのか?」
「そうね、川の水をアイテムボックスに入れる練習と戦闘訓練ならこの辺りで良いと思うわ」
これ以上進むと、モンスターの出現率が上がってきて、それを目当てにした他の冒険者にも出くわしやすくなるそうだ。
「それじゃあ、スキルの動きの確認してるから、アリーセは水を入れる練習していてくれ」
「剣のお相手をしなくて良いの?」
「自分がどこまで動けるのか分からないから、まずその確認からしたいんだ」
いきなり実戦で、股裂き状態になるのは遠慮したい所だ。
一先ずお昼まで、お互い自主練と言うことでアリーセは川に手を突っ込んで、あーでもないこーでもないと始めた。
こちらも剣を構えて軽く素振りから始める。
剣が軽くバランスも非常に良い事と剣術レベル1の恩恵で自分が思い描く通りに剣を振る事が出来た。
ただ思い通りに剣を振れても、どう振れば実戦で使える様な動きになるのかは分からないので、素人が棒を振り回しているのと大差はないと思われる。
剣使った戦闘なんてアニメや映画でしか見たことがないので、光剣で戦う某SF映画の訓練シーンを思い出しながら剣を振り回してみた。
「おお、意外と動けるもんだな」
靴のスパイクがしっかり地面を捉えてくれるので、この場に留まって剣を振るのには支障が無いようだ。
動き自体は無茶苦茶なんだと思うが、結構な速度で剣が振れるのでちょっと楽しい。
体が温まってきた所で、意を決して剣のスキルを試す。
ゲームでの動きは憶えているが、実際に使うとどうなるのかは分からない。
まずは、ゲームでは一番最初に憶えるスキル『スマッシュ』だ。
力強い一撃を放つというだけのスキルで序盤に憶えるスキルだけあって、そこまで強くはない。
しかし、通常攻撃の途中から予備動作をキャンセルして、いつでも発動するという特性を持っているため、連続攻撃の中継や硬直時間が長いスキルの硬直時間を無くすといった利用が出来るという、なんともゲームらしいスキルだった。
「せいっ!」
何も考えずに発動すると勢いをつけて思いっきり、振り下ろすような感じになった。記憶にあるゲームでの動きと同じだったし、特に体に負担も掛かったようには感じなかった。
続いて、キャンセル技を試すため剣を適当に振り回している最中に『スマッシュ』を発動する。
「痛だーーーーっ! おごっ!」
その途端、剣を振り回していた動作から、急激に『スマッシュ』の動作に移行してしまい、バランスを崩して転倒してしまった。
ペットボトル等の重量物を持って左右に思いっきり振りり回してみるとよくわかるが、方向転換する瞬間に非常に力が必要で腕の筋が痛くなるだろう。
物体は動かした際にその方向へ動き続けようとする慣性力が働く。
つまり剣を振っていた腕ががっくんと軌道修正されソレまでの剣の動きを無理やり別の方向へ向ければ肉離れを起こしそうなほど負荷がかかるのだ。
当然、腕だけでなく全身の動きに対しても、コレが起こるのだ。
結果として、体中がビキッと一斉に負荷をうけ、急激に変わった姿勢に三半規管がついていけず、バランスを崩して転んだのである。
「こ、これ安易に使うと危険だ……」
すぐに引くとは言え、あちこち、筋を違えた痛みが半端ない。
もし、激しい動きのスキルの途中で発動したらもっとひどい目にあったことだろう。
『スマッシュ』単体で発動するか、動きに繋がるように自力で調整した後でのみ使用可という、非常に使い勝手の悪いスキルだな。
『カウンター』と『カウンタースマッシュ』は攻撃をされた時に反撃を返すスキルで『ウェポンガード』は攻撃を武器で受けてダメージを0にするスキルだ、今は検証できないので、『ダブルアタック』を試す。
『ダブルアタック』は、素早く2回連続で攻撃を仕掛けるというスキルだ。このスキルにはキャンセル技は存在しないが、一体の敵に2回攻撃をするだけでなく、2体の敵に1回ずつ攻撃をするということが出来た。
「えいやっ!」
気の抜けた掛け声だが、それは置いておいて、同じ方向に攻撃する分には問題なく使えるようだ。スキルの補正で体が動くため素人が適当に振り回すより動きもかっこいい気がする。
木を敵に見立てて2体に攻撃を仕掛ける方もも試してみる。木に当てて買ったばかりの剣が壊れても嫌なので、手前を空振るように発動してみた。
同じ方向で近い位置の場合は、少し脚が滑りそうになったが、なんとか使えるようだ。
「こっちは、なんとか使えそうだ。連続斬りとかちょっとかっこいい」
ふと、敵が前と後ろで挟み撃ちされていたら、どうなるかと疑問が浮かび恐る恐る『ダブルアタック』を発動する。
「えいっ! おごっ!?」
後頭部から地面に激突した。 ぶつけた痛みに後頭部を抑えてゴロゴロところがってしまう。
最初の攻撃は問題なく行けたが、振り返って攻撃をしようとした所で最初の攻撃のときの勢いが殺せず、後ろ向きに転んだのである、しかも剣で攻撃しようと体が動いているせいで、受け身も取れず後頭部から地面に突っ込んだのである。
さらに、スパイクのせいで振り返る際に足がすべらずに足首をひねるという皮肉なおまけ付きだ。
「動きまわる敵に、こんなの使えるか!」
攻撃スキルは使うたびに痛い目にあうとか、もう、戦闘とか考えない方が良いような気がしてきた。
とりあえず、剣系スキルで今使えるスキルはあと『ソニックスラッシュ』だけなので、これも試しておいた方が良いだろう。
『ソニックスラッシュ』は、ゲームではお馴染みの高速で剣を振ることで衝撃波を飛ばし、離れた敵を攻撃するというようなスキルだ。
しっかり発動してくれれば敵に近づかずに攻撃できるので、是非使いたいスキルではある。
少し離れたところの木を狙って、慎重に居合い斬りのようなポーズを取る。足もしっかりと踏ん張り、どうせ食らうであろう衝撃に備えて『ソニックスラッシュ』を発動する。
発動した瞬間、俺は破裂音とともに左後ろにひねりを加えて吹き飛んだのだった。
ソニックとつくからには、その剣速はなんと音速である。音速で動く物体に対しては確かに衝撃波が発生する。しかし、その衝撃波というのは、物体が通過した「後ろ」に円錐状に発生するのである。
ここで問題になるのは、体の構造上剣を振る動作というのは自分の体を中心とした円運動であることだろう。
音速で円を描く剣の後ろに円錐状に衝撃波が発生するとどうなるか?、円の外側は放射状に広がるため、衝撃波は距離とともに減っていくが、円の内側となると逆に衝撃波が増幅してしまうのである。
つまり、剣から発生する衝撃波のダメージは、攻撃対象より放った本人が一番ダメージを食らってしまうのた。
とは言え、音速のマッハ1では人が吹き飛ぶほどの衝撃波は生まれない。
ではなぜ、吹き飛んだのかといえば、それは反作用によるものだ。反動というとわかりやすいだろうか?
マッハ1といえば、拳銃の銃弾が飛ぶような速度である。大型の弾丸でも数十グラムだが、数十グラムの物をマッハ1で飛ばすだけでも手が跳ね上がるほどの反動があるのだ、では剣という1キログラムを越える重さの物をマッハ1で動かした場合の反動はどうなるか?
結果、剣を振った反対の方向へ吹っ飛ぶ事になったのである。ひねりが加わったのは、スパイクで踏ん張っていために、上半身が足よりも先に飛んだせいである。
うっかり音速で物を動かしてはいけない。
マッハ3のときの衝撃波が、ヘビー級ボクサーのパンチ、プロレスラーのラリアット、バットのフルスイング 等と同じくらいだそうです。 まあ全身で食らうんでダメージは違うでしょうが。