30話 奥さん登場、その姿は……
※一番下に自作のイラストがありますのでイメージ等固定されたくない方はご注意ください。
「『本みりん』っていう高級酒だ。他の酒や飲み物と割って飲んだりがオススメだな。料理に甘みをつけるのに使っても良い」
そう言って、もう一本『本みりん』を渡す。調理用のアイテムだったが『本みりん』はアルコール度数14%もある、原酒に近い酒でだ。江戸時代には実際に高級酒として飲まれていたのである。
甘みがあり後味もすっきりしていて栄養価も高く美容にも良いという、健康飲料でもあるのだ。
アイテム変化で水から変化させたポーション類は、数量を変化させていないのでアイテム欄1つにつき64個入っている。1リットルにつき1個という扱いのようだった。
昨日水からポーション類をアイテム変化させていっていたが、チートコードのアドレスを1から順番に変化させていっても、途中で別の区分けのアイテムが出てくる事は珍しくない。
アップデートの度に膨大な量で増えていくアイテムを、その都度ジャンル分けし直していたら各所に影響が出て余計な時間がかかるからである。
「おめぇ、高級酒なら先に言え、もっと大事に飲むからよ! うちのかーちゃんが好きそうな酒だが、高級酒と聞いちゃあ隠しておいてこっそり飲むか?」
「父さん……。どうせすぐ見つかって殴られるんだから、そういうのやめときなよ」
金を出した後から若干空気と化していたオットーくん11歳がドグラスの親父さんにツッコミを入れる。
そうか、当然奥さんも居るよな。
ドワーフってたしか女性も髭が生えてるとか聞いたことがあるな、親子だしオットーくん11歳とよく似た感じだったらどうしよう……。
「そこは工房の作業机に隠し棚作ったから大丈夫だ。おめーにもちゃんと分けてやっから黙っててくれ」
「へえ、そんなことしてたのかい?」
背後から女性の声が聞こえた。
「お、おまえ……いつの間に……」
いつの間にか奥さんが来ていたようでドグラスの親父さんがだらだらと汗を垂らして固まっている。
オレの頭のなかでは、女装したドグラスの親父さんが思い描かれていたが、恐る恐る振り返って奥さんの姿を確認した。
「いらっしゃい、うちの宿六が珍しいもの貰っちまったみたいで悪かったね」
振り返るとそこには、可愛らしいエプロン姿の少女が立っていた。買い物帰りなのか手には食材の入った大きなバスケットを抱えている。
ロリドワだ! 髭が生えてなくて本当に良かった。
「ビルギッタさんよ、ドワーフの女性は若く見えるかもしれないけど、彼女がオットーくんのお母さんよ」
アリーセがすかさず、紹介してくれる。
若く見えるって、若すぎだろ。種族的に多少体格の良さはは感じるが、背はオレの胸くらいまでしかないし、赤毛の髪をぶっとい三つ編みで2つのおさげにしているし快活そうで笑顔のかわいい小学生にしか見えない。
だが人妻だ。
「あ、イオリです。お世話になります。『本みりん』は美容にも良いので、良ければ飲んでやってください」
「そいつはうれしいねえ、ドワーフ以外の初対面の奴らは失礼なのが多いんだけどさ、あんたは随分礼儀正しいねぇ。おばちゃんうれしくなっちゃうよ」
可愛く見えても中身はしっかりおばちゃんなようで、背中をバシバシ叩かれた。
なんか、おばちゃんって敬語で挨拶するだけで喜ぶイメージが有るな。
「いやあ、綺麗で若い奥さんでドグラスの親父さんが羨ましいですよ~」
「あらやだ、口がうまいねぇ。飴ちゃんいる?」
大阪のおばちゃん(偏見)か!
「他の種族のやつらからすると若く見えんのかもしれねえが、あちこち弛んできてるし結構毛ぶ……ぐふぅっ!」
「あんた、余計なこと言うんじゃないよ!」
余計なことを言ったドグラスの親父さんの腹に奥さんの右腕が肘くらいまでめり込んでいる。
小さくてもドワーフということなのだろう、正直ボデイブローの腕の動きが全く見えなかった。
一撃で意識を刈り取られたドグラスの親父さんは、奥さんに『本みりん』を取り上げられ、蹴り転がされて奥の扉に消えていった。
「見苦しいとこを見せちまったね。あの宿六はちゃんと後で埋めとくから許しておくれよ。それでオットー、ちゃんとお代は頂いたのかい?」
「うん、一括で全部払ってくれたよ」
俺はあっけにとられていたが、オットーくん11歳は特に動じた様子がない所を見ると、今の光景は日常茶飯事なのだろう。
「あらあら、それは良いお客さんだね。じゃあコレも持ってきなよ」
砥石と小瓶に入った油に手入れ用の布切れを貰ってしまった。おまけが多いけど、ありがたく貰っておこう。
「随分長居しちゃったわね、ビルギッタさん、そろそろ行くわ」
「ああ、そうだな、いろいろありがとうございました、親父さんにもよろしくお伝え下さい」
「あいよ。こんな汚い所で良かったら、またいつでも寄っとくれ」
ロリドワのビルギッタさんとオットー君11歳に見送られて、店を後にする。
心なしか、アリーセの歩調が早いが、どうしたのだろうか?
そのまま、人気のない裏路地の方へ連れて行かれ、アリーセは周りを見回して人がいないことを確認すると口を開いた。
「イオリ、あのお酒アイテムボックスから出したでしょ?」
「あ……」
ジト目でアリーセにツッコミを受けてしまった。
アイテム変化のチートコードを使ったからアイテムボックス内にあっただけで、酒は有機物を多量に含んでいるから本来アイテムボックスには入らない物だ。
一度出してしまったら収納することが出来ないので、水のように実は酒も無機物なんだ!とは誤魔化せない。
「やっぱり、川の水が入るしイオリのアイテムボックスは何か別のスキルなのね?」
「え、あー、なんだ、そもそも普通のアイテムボックスとの違いがわからないから、別のスキルなのかとかは分からないなぁ」
今こそ、記憶喪失設定を使う時だ。
「別のスキルだったんじゃあ、私が川の水をアイテムボックスに入れることは出来ないってことよね?」
アリーセが残念そうにため息をつく。
「いや、水は無機物なんだから、それは普通に出来ると思うけど?」
「なんで、水の方はそんなに自信満々なのよ?」
俺のアイテムボックスの状態から意識をそらす為にも、アリーセの頭から煙が出るまで、水というものについて理科の授業を続けることにした。
読んでいただきありがとうございます。
本みりんはそのまま飲めますが、みりん風調味料や発酵調味料などみりんにもいろいろありますのでご注意ください。
左下がオットー君11歳です。