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1話 気がついたら異世界

「ここは、どこだ?」


 真っ白な光に包まれたと思ったら、先程までいたFADの初期ログイン場所である最初の街を見下ろす高台の草原ではなく、鬱蒼とした木々に囲まれた森の中に立っていた。


「何か変なフラグをいじっちゃった……のか?」


  チートコードの中身には、これがここの数値ですよーというようには書かれていない。数字とアルファベットの羅列である。

 それらにチートコードの制作者や自分で名前を付けているに過ぎない。

 保険の意味も込めて範囲を広げてチートコードを作成した為、意図していないフラグを立ててしまっていても不思議は無かった。


「というか、何かリアリティが物凄くアップしている気がするんだが、これは一体……」


 完全にゲームの中に入り、5感で楽しめるVRゲームと言えど、完全に現実と区別がつかないほどとはなっていない。確かに見た目等は非常にリアルに見えるが、匂いであったり、肌に感じる風であったりと、どこか人工的な違和感は残ってしまうからだ。人間の感覚はそれだけ鋭いのである。

 しかし、今現在の感覚として俺はVRゲーム独特の違和感を感じてはいなかった。

 肌に感じる風と、それと共にやってくる湿った土の匂い、自分の足にかかる自分の体重、肩にかかる荷物の重さ等、それらどれもがリアルだった。


「何か技術革新的なアップデートが入った……ってワケでも無さそうだよな、ヘッドセットのスペックでここまで再現出来るとは思えんし」


 自然現象をリアルタイムに全て再現しようとすれば、それだけヘッドセットのコンピューターに負荷がかかる、ネットワーク上のスーパーコンピュータ等でシミュレーションさせ、結果だけをヘッドセットに送るといった方式もあるが、その場合でもたとえスペック上自然現象を再現するのが不可能でなかったとしても別の問題が起こる。

 そのプログラムを誰が組むのか?という事である。

 それを開発する為だけに膨大な時間や人員が必要になってしまう、もちろんコストだって恐ろしい事になる。

 そもそも見た目だけでも十分リアルなのだから、ある程度は妥協してゲームとしての面白さの方にコストを割くのが普通である。

 ゲームを開発するのが企業である以上、採算度外視で運営をする事は出来ないからだ。

 もちろん将来的に全く現実と区別がつかないようなVRゲームも登場する可能性はあるが、それにはもう少し時間が必要だろう。

 少なくとも俺はやりたくない。


「あり得ないとは思うけど、もしかして異世界トリップ的なやつなのかこれ?」


 感じている感覚はどれも非常にリアルなものであり、ここが現実であると本能が告げているような気がしないでもないのだが、俺はその感覚を信じることが出来ないでいた。なぜなら……。


「チートツールの画面出たまんまなんだよな……」


 目の前には依然としてチートツールの画面が浮かんでいたのである。

 チートツールというのは、通常ゲームのプログラムとは別で動いていて、ゲーム上で何かが切り替わったり、終了したとしても、チートツールを直接終了しなければ起動したままである。運営に対策されチートツールの使用を検索してくる場合等に、そのタイミングだけ自動的に終了し、その後終了前の挙動を保ったまま自動的に再起動するチートツールなどという、本当にイタチごっこもののチートツールも存在したりはするが……。


「それに服とか見た感じアバターのままだな。 たぶん顔もデフォルトアバター君だし」


 顔をムニムニと触り、VRとは違うリアルな感触を実感しながらも、もともとの自分とは明らかに違っている部分にだけ違和感を覚えてしまう。

 特徴があまりないとも言えるが、元の自分よりイケメンだし。


「あ、簡単に確認する方法あるじゃん」


 おもむろに俺はズボンとパンツを下ろし慎重に下半身をポロリと露出させ、マイサンを確認する。


「おおう、まい、スレイプニル、いず、びっぐ……」


 思わず壊滅的な発音でつぶやいてしまった俺だが、この変態的行動や言動には実は意味がある。全年齢対象であるFADでは、いわゆる十八歳未満お断りな行為は出来ないようになっているのだ。

 要は裸になったり、自分や他のプレイヤーの特定の部分に触ったりということが出来ないわけである。そして、差別用語や卑猥な発言にはピーという電子音が入るようになっている。

 そのため、八本脚の早い馬モンスターでお馴染みスレイプニルさんは、モンスターとして普通に登場するにもかかわらず、ゲーム上で名前を発言するとスピーニルさんになってしまったりするわけだ。

 全くの余談ではあるが、全裸になるチートコードというものも存在する。もちろん即垢バンである……。


「ここの感触もあるのか……。前にカンファレンスで見たFADのアバターのデータだと、この部分はそもそも作りこんでなかったから、やっぱり、異世界トリップの可能性が高いな!ちゃんとスースーしてるし!」


 このカンファレンスというのはゲームを中心としたコンピュータエンターテイメントの開発者を対象とした技術セミナー及び展示のイベントで、著名なところは大体参加していたりする。俺は仕事として参加し、注目の高いFADで使われている技術のセッションを受けた際に、このアバターの元データを見る機会があったわけである。

 確認の仕方が、屋外で下半身を露出して股間をいじっているという変態行動なのは別として、通常のゲームで実行不可能な行為であることは確かだ。

 同時にチートツールと言えど全く無いものを完全再現して追加することは不可能だ。


「まじかー、元の世界に未練はあんまないが、ハードディスクの中身のあれやこれやのデータは消去したい!たとえ二度と元の世界に帰ることがなくても!」


 屋外で下半身露出させている奴が言うことではないが、もうただ単に尊厳の問題である。屋外で下半身露出させている奴が言うことではないが……。


「とりあえず、よくある感じだとゲームの能力そのままにってのが定番だよな? レベル1だけど……」


 ゲームの時と同じようにステータスブックを呼び出してみる。問題なく呼び出すことが出来たステータスブックは、重さを感じないゲームの時とは違い、古い洋書のような見た目どおりにずっしりと重くなっている。




名前:名前を入力してください

種族:ヒューマン

年齢:18歳

ジョブ:ノービス

レベル:1


HP:100

MP:50

スタミナ:100


筋力:7

敏捷:6

知力:5

器用:7

体力:10

魔力:5

頑健:7

精神:5


物理攻撃力:14

魔法攻撃力:8

物理防御力:12

魔法防御力:7


称号:異世界人、露出狂


スキル

 パッシブ:言語翻訳

     :アイテムボックス(x9999)

     :装備制限解除クリアボーナス

     :チートツール LV MAX

     :解析ツール LV MAX

 アクティブ:剣術 LV1



所持金:999999999GP

魔晶石:999999個



「そーいや名前付けのイベントまだやってなかったな……。チートツール類はスキル扱いかぁ……。って、ちょっと待て!称号の露出狂ってなんだよ!こんなんで獲得しちゃうのかよ!」


 そもそも、まだ出しっぱなしなので、称号ゲットも仕方がないのかもしれない。

 俺は、キョロキョロと周りに誰も居ない事を確認して、いそいそとパンツとズボンを履き直すのであった。

※決して実在のゲームにおけるチート、改造行為を推奨するものではありません。


読んでくださってありがとうございます。


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