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25話 教会へのお布施が幾らかわからない

 煽てられて(?)調子に乗った俺は、野菜を挟むといいとか、薄切りのチーズを乗せてトーストするとか、フルーツも悪くないとか、思いつく限りのサンドイッチの話をした。


「あんちゃんは、うちの詰め所の救世主だな、礼と言う訳じゃないが良い医者を紹介するぜ」


 大袈裟な。しかしなんだろう、良い医者を紹介するって悪口に聞こえてしまうのは……。


「いえいえ、肝心な事は思い出せませんが、こういうきっかけでいろいろ思い出せる事が増えたので、こちらも有意義でしたよ」


 ぶっちゃけバレると困るので、あんまり医者には行きたく無いのだが……。


「スコット、あんたイオリを教会まで案内してやんなよ、どうせまだ寝ないんだろ?」


「ああ、それくらいお安い御用だ」


「教会?」


 何故教会に行く話が出たのだろう?

 神様に祈って治せ的な感じだろうか?


「ああ、この辺じゃあ、腕の良い医者が居るのは診療所じゃなくて教会の方なんだ」


「まあ、ちょいと寄付は必要になるんだけどね、腕は確かだから行っといで!」


 宗教関係な上に腕の良い医者とか、ものすごく行きたく無いのだが、行かないとおかしい流れになってしまった……。


「あ、はい、宜しくお願いします」


「おう、任せとけ、早速行くか?」


「あ、タライと桶を出しとかないと……」


 少しでも時間を遅らせようと、無駄なあがきをしてみる。


「そんなの後で良いよ! さっさと行ってきな!」


 足掻けなかった。

 クーリアおばさんに、追い立てられて、おっさんと白兎亭を出る。

 最初こそイヤイヤ歩いていたが、昼間の街は活気に溢れていて、珍しい物ばかりが目に入ってくるので、思わずお上りさん化してしまう。

 行き交う様々な種族の住人や旅人達。

 見たこともない食材が並ぶ市場。

 屋台から流れてくる焼ける肉の匂い。

 見るものすべてが新鮮だ。


「どうせなら可愛い女の子に案内して欲しかった」


「聞こえてんぞコラ、クーリアからちらっと聞いてるが、午後からアリーセと回るんだろ? 俺は教会にしか案内しないから他はあいつと回ってこい」


 頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でられた。

 なんか、子供扱いされている気がするな。

 ちょっと、珍しい物ばかりでフラフラしてたせいもありそうだ。


「あと、俺に敬語は要らんぞ、背中が痒くなる」


「わかりま……、いや、わかった」


「ああ、クーリアのヤツは、あんなに丁寧に扱われたことなんか無いって喜んでたからそのままで話してやってくれ」


「そうなのか? まあ、それなら良いんだけどな。何か目上の人にタメ口って抵抗があるんだよ」


 社会人の常識としてだが。


「やっぱり、どこぞの坊ちゃんなんだろ?」


「まあ、どっかの商会の2代目とかかもな。もしそうだったら、お礼でおっさんにミスリルの剣でもプレゼントするよ」


 適当にはぐらかして冗談話にしてしまう。

 おっさんのノリ的に無理に否定するより「そうだったら良いね」と流した方が良さそうな気がしたからだ。


「おう、期待して待ってるぜ。そら、あそこがそうだ」


 おっさんが指を指す方向を見ると、上にやたらと尖塔の建った木製の教会が見えた。

 周りの多くの建物は石造りで出来ているのに対し、土台こそ石のようだが教会はすべて木製で出来ており、ある意味街の景観から浮いている。

 なんで木製なのか聞こうと思ったが、おっさんがさっさと教会へ行ってしまうので、タイミングを逃してしまった。

 避けようと思っていた宗教関係と医者の居る施設なのだが、ここまで来て引き返すのも怪しいので意を決して教会に足を踏み入れた。

 教会の中は、外と同じように木製の、素の色そのままで建材として使っているようだ、椅子などは無く床に直に座るようだ。日本の様式では無いが、親近感は覚える作りになっている。

 天井も高く作られており梁が幾重に重なっていて、幾何学模様の様になっている。


「あんちゃん、こっちだこっち」


 おっさんがよく通る声を張り上げて、俺の事を呼ぶ。俺達の他にもチラホラと普通の格好の人達がいて、迷惑そうにおっさんを見ている。

 教会とかで声張り上げたらそうなるよな。

 俺は代わりに頭を下げながら、おっさんの下に向かう。

 おっさんの隣には年配の温和そうなシスターっぽい人がニコニコと立っていた。


「お話は簡単にですが伺っております。命の女神の加護を賜ることをお祈り致します。当院では診療にあたって幾ばくかの布施をお願いしております」


 そう言って、手を差し出してきた。

 しかし幾ら渡せば良いのか分からない、オッサンも事前に教えてくれれば良いのに、何かニヤニヤして見てやがる。

 これ、俺が何かやらかすのを期待してんな?

 そうは行くか、ビジネスマナー講習に何度も参加させられてい俺に死角は無い! と、思いたい。

 こう言うときは下手に出て素直に聞けば良いのだ。


「大変申し訳無いのですが、記憶に不備がありまして、それを診療して頂きに参ったしだいなのですが、こういった際にどの程度のお心付けをすれば良いのかが思い出せ無いのです。無作法は承知で尋ねさせて頂きますが、教えて頂くことは出来ますか?」


 どうだ? おっさんが黙ってる時点で、多少やらかしても大丈夫なはずだが、上手くいっただろうか?

 おっさんの感心している顔が何だかイラっとする。

 当のシスターはニコニコ顔のまま少し固まっていたが、すぐに姿勢を正して口を開いてくれた。


「これは失礼を致しました。何処からか訪れて頂いた名士の方ではあるかと存じますが、私達は命の女神以外に屈する膝を持ちませぬ、こちらこそ無作法をご容赦ください」


 深々と頭を下げられた。

 いや、名士じゃねーし、記憶喪失設定は俺からも言ったしおっさんからも聞いてんだよな? いくら払えば良いのか教えて欲しいのだが……。

 というか、膝は屈しないが頭は下げるのか、宗教はよくわからんな。


「今出しても今後に問題の出ない最大の金額を出すんだよ」


 おっさんが耳打ちして教えてくれる。

 困らない程度に出せるだけ出せってことか?

 幾ら出しても問題ないが、そうなると適当な金額が分からない。

 社会主義とか福祉が無いのならばそこそこ高いのが相場だろう。

 同僚が過労で倒れたとき、脳の検査を受けたら検査だけで3万円以上掛かったとか言ってたな、保険の3割負担が無ければ10万くらいか?

 国民皆保険制度大事さがわかるな……。

 初診料があるかわからんが、またバカの一つ覚えで金貨1枚渡せば良いか。

読んでいただきありがとうございます。


検査の金額は作者がMRIを受けた時の金額に基づいています。

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