23話 黒パンホットドッグ
「知らない天……。 いや、いいか言わんでも……」
言っている途中でなんとなく恥ずかしい気持ちになった。
異世界で迎える初めての朝は、やけにすっきり止めが覚めた。しかもまだ明け方であるのは、緊張からなのか、ステータスのせいなのか。
「あ、朝飯の時間を聞くのわすれてたな」
ちょっと、下に様子を見に行ってみようと、ドアをあけると、そこに一抱えくらいのタライと手ぬぐい、水の入った桶が置かれていた。
「あー、初日から用意してくれてたんだ……」
もう水になってしまっているが、多分桶にはお湯が入っていたのだろう。
「声かけてくれれば良いのに……」
それとも、ここの常識的に、置いておくだけなのが基本なのだろうか?
とりあえず、せっかく用意してもらったものなので、タライと桶を部屋に引き込み、顔を洗ってから体を拭いた。
風呂に入りたいとか贅沢は言わないがシャワーくらいは欲しいところだ。
さっぱりした所で、改めて下に降りると、何かを茹でる音と小気味良い包丁の音が聞こえてくる。
「おや、おはよう。よく眠れたかい?」
「ええ、おかげさまで」
「昨日タライとお湯を持っていたんだよ、反応が無いから置いといちまったんだけど、分かったかい?」
あ、声かけてくれてたのか、集中しすぎて全く気が付かなかった……。
「え、ええなんとか、ああ、そうだ使ったタライと桶はどこに持っていけば良いですかね?」
「それなら、廊下に出しといてくれれば、後で回収に行くよ」
「わかりました、じゃあ後で出しときます。ところで、朝飯ってもう食えますかね?」
「ああ、大丈夫だよ、好きなところに座って待ってな」
なんとなく、昨日座った端っこの席に腰掛けて、朝食が出来るのを待っていると、あくびをしながらアリーセが下りてきた。
「あら、おはようイオリ、早いわね。ちゃんと眠れたの?」
「おはよう、おかげさまでぐっすり眠れたよ」
「朝ごはん食べたら、ちょっと用事を済ませてくるけど、一人で大丈夫?」
「俺は子供か? 記憶や常識は怪しいけど、ママが居なくても一人でお使いやお留守番くらい出来るぞ」
「だといいけどね、不用意に大金出したり、裏通りに行ったりしちゃダメだからね?」
「わかったよ、ママ」
「誰がママよ!?」
アリーセはお姉さん気取りで、結構世話焼きなところがあるのだが、なんというかお姉さんというより「おかん」っぽい感じだ。
「はいよ、お待ちどうさま! パンはおかわり自由だからね」
ドンと、置かれた皿には、黒パンとソーセージに厚切りのベーコン。焼いたジャガイモっぽい芋にチリビーンズっぽい豆を煮たものが乗っていた。
肉メインの葉物野菜無しとか男らしいメニューだな。
保存の意味合いが強いのだろう、ソーセージとベーコンは結構塩辛い。味も見た目もジャガイモっぽい芋には味が着いていなかったので、一緒に食えって事なんだろう。
アリーセは、芋とベーコンを交互に食ってるようなので、多分その食い方が正解っぽい。
それならと、黒パンの真ん中に切れ込みを入れ、チリビーンズっぽい煮豆とソーセージを挟んで、ホットドックにしてみる。
黒パンは固く独特の酸味があって、少し癖がある。ここで出されるパンはクーリアおばさんの工夫で、随分と柔らかく食べやすいそうなので、こうしてみた。
一口かぶり付くと、塩辛いソーセージの肉汁がパンの酸味と相性がよく、辛めの煮豆が良いアクセントになり、なかなか美味い。
朝から食うには少々重いが……。
「何その食べ方 美味しいの?」
アリーセが興味津々だ。
「気になるならやってみれば良いじゃないか」
「えー、でもどんな感じか想像つかないし……」
「じゃあ、一口食ってみる?」
そう言って、ホットドックモドキを差し出す。
「あ、食べる食べるー」
差し出した方は一応俺が噛じった逆側だが、躊躇する事なくガブリと行ったアリーセに冗談のつもりだったので、ドキッとした。
「うん、これはアリね! 私もやろうっと」
こういうの気にしないのは、この辺の文化なのか、アリーセがそういう性格なのか。
「どうしたの? そんなにいっぱい噛って無いよ?」
「あ、いや、なんでも無い。気にいって貰えて良かったなーと思ってただけだ」
「そうね、これは良いわね、持ち歩けそうだし、日帰りで依頼受けたときとかのお昼に出来そう」
「へぇ、あんた達面白い事やってるね」
クーリアおばさんがパンの入ったかごを持ってやって来た。
「ああ、変な食べ方をしてすみません」
「いやいや、食べてくれるんならどんな食べ方をしたって構やしないよ。それより、その食べ方はあんたの住んでた所じゃ普通だったのかい? それともあんたが考えたのかい?」
興味津々な様子でクーリアおばさんの食いつきがすごい。
「あー、いや、確かどこかの国の盤上ゲームが大好きなサンドイッチ伯爵が、ゲームをしながらでも食事が出来る様におかずをパンで挟んで、それが広まったとか」
実際はホットドックはサンドイッチとは違う扱いで、この話も違うらしいけど、まあ別に構わないだろう、俺が考案したわけでも無いし。
「盤上ゲームってのが何かわからないけど、よその国のお貴族様が考えた料理じゃ、真似したら駄目かねぇ?」
「大丈夫ですよ、パンに具材を挟むだけですし、庶民にも広まってます。現に今やってますからね。それにサンドイッチ伯爵も、大分昔の方で今は居ない方ですから問題ないですよ」
「本当かい? それじゃあ、今度そいつをあたしが作っちゃっても良いかねぇ」
良いと思います。
どんなものを挟むのかとか、どんな形のパンが良いのかとか聞かれたので、ホットドックとハンバーガーと普通のサンドイッチ、あとバターを塗るとパンが水分を吸いにくくなって、美味しさが長持ちするという事を伝えた。
バターがあるのかは分からないが……。
「なるほど、ありがとよ。早速何か試してみたいね、あ、これは好きなだけ食べておくれ!」
黒パンを籠ごと置いていってしまった。
いや、こんなに食えないんだが……。
「イオリ、記憶が戻ったの?」
あ、いかん記憶喪失設定を忘れてた。
「あーいや、話し始めたらするするとサンドイッチの事だけ思い出したんだよ、何かきっかけがあれば、他にも思い出すかもしれないな」
「そういう物なのかしら?」
「いや、専門家じゃないから分からないけどな」
文字が書けたときと同じ手を使う。何か今回みたいな事があったら、毎回この手で通すか。
「あ、おばさんに事情を話しておくから、この後にでも場所聞いて医者に診てもったら? 午後から私が案内しても良いけど、早い方が良いと思うわ」
あー、通用門での審査のときも言われたが、記憶喪失なんて言ったら、普通は放置しないで医者に行くよな。
どうしたのもか……。
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