238話 脱出
魔法で生成した砲身から、直径800mmでホーリーメタル製の巨大な砲弾が発射される。
衝撃波が広がり、発射の反動で魔法で作った巨大な列車砲が反動で後退し、そのまま役目を終えて光の粒子となって消えていく。
そして、解析ツールやチートツールが使えない程の聖属性と、質量を持った砲弾が、滲み出してきたモンスターを物ともせずに歪になった邪神の手へと突き刺ささる。
「だんちゃーく……今!」
しかし、奥の手のホーリークリスタルまで使った砲弾は、邪神の手を歪める事はなく邪神の手の平の下部辺りへと吸い込まれるように虚空へと消えた。
「失敗したのかの?」
「わからん、だが手が止まったようだ。 効いていると思って良さそうだ。 取り敢えず次弾も撃っておく、800mm列車砲魔法、ドーラ!」
「さっきと魔法名が違うの!?」
「様式美ってやつだ」
「意味がわからぬわ!」
この魔法の元ネタである列車砲は大戦中に2機作られているのである。
二機目を作るなら、ちゃんと二機目の名前にしたほうが魔法がスムーズにイメージされるというものだ。
ほぼ気分だけの問題だが……。
「初弾で到達まで時間がわかったから、今度は時限信管式弾頭にしておいた!」
最初に放った時より大分早く魔法が構築され、すかさず放たれた次弾も、特に阻まれる事なく邪神の手に到達する。
時限信管により、そこで聖属性の爆発が起こると、神々しさを感じるような強く優しい光が広がって、邪神の手の極彩色空間を逆に侵食していく。
神々しい光は、邪神の手から染み出してきたモンスター達をも包み込んで消滅させていき、光が収まる頃には元の星空が広がっていた。
「効果はばつぐんだ! さすがホーリークリスタル!」
「な!? ちょっとまて、聞いておらんぞ! 貴様、リーラ様より賜ったホーリークリスタルを砲弾にして撃ち込んだというのか!?」
霧散していく邪神の手を尻目に、パールが食ってかかってきた。
ドラゴン形態なので結構な迫力だ。
ホーリークリスタルは武器等に使うなと口酸っぱく言われていたが、この場合は特例として許して欲しいと思う。
同じように武器に使うなと言われていたホーリーメタルで砲弾自体を作っていたことは黙っておこう。
「リーラ様ありがとう御座います! おかげでこの世界を守る事が出来ました! あれが無ければ、我々はおろか、この世界もどうなっていたかわかりませんでしたー!」
パールをスルーして、取り敢えず空に向ってリーラ様に感謝の意を述べておく。
「ぬ!? た、確かにその通りであったかもしれぬが……いや、しかし……」
「もきゅ(さすがご主人)」
魔力炉に魔晶石を焚べる手を止めたマルが、ゴーレムスーツで親指を立てた。
うん、マル親指の立て方が間違って下品な感じになっているぞ、人差し指の間に入れちゃいかんぞ。
「きっしゃーっ!」
危機を脱したムードになっていたが、バーサーカー状態のアリーセが猛禽類が威嚇するような声をあげ、未だに魔導銃を打ち続けている。
「どうしたんだアリーセ? 討ち漏らしいたかか?」
アリーセが攻撃をしている先目を向けてみると、高速で向って来ている豆粒のような極彩色空間がいくつか見えた。
「破片がまだ残ってるみたいだ、殲滅するぞ!」
「もきゅ!(ラジャなの!)」
マルが再び魔力炉に魔晶石をせっせと焚べ始め、アリーセが狙撃をしていく。
「小さいとはいえ、複数を纏めて穿つのは難しいようだの。 全力でやって一つずつがやっとだの」
パールがブレスを放ち、欠片の1つを消滅させた。
「往生際が悪い邪神だな! ってなんか増えて無いか!?」
「小さくて見えなかっただけであろう。 それだけ近づかれているという事だの!」
「第二形態ってやつか!?」
的がデカかったので、徹底してアウトレンジで一方的攻撃をしてきたが、細かく小さくなって、さらに数が多いとなると、各個撃破していてはさすがに間に合わない。
アリーセが、魔導銃引き金を引きっぱなしで横に薙ぐという、超長いビーム的なサーベルの様な対処をしているようだが、さっきまでの動かなさっぷりが嘘のように回避運動をするし、小さくても結構攻撃を耐えるようで、マップ兵器のように一気に殲滅とかには至らないようだ。
パールも魔力操作でブレスが拡散して、さらに拡散したブレスのそれぞれが目標に向って曲がるという離れ技を使って対応しているが、このペースでは全く追いついていない。
「このままじゃ押し負けるな。 単体向きの巨大砲じゃ駄目だ、弾幕を張らないと……」
考えている間にもどんどん邪神の手の欠片が近づいてくるので、とりあえず俺も魔導バズーカをアリーセ真似をして振り回しているが、焼け石に水だ。
今は手数が欲しいので、特攻仕様のドローンゴーレムや以前作った自動迎撃装置のセントリーガン等も大量に出して対応にあたったが、ドローンはスピード、セントリーガンは威力が足らないようで、成果が上がらない。
「い、一発逆転でリーラ様を召喚する方法とか無いのか!?」
「そんな物はない! そもそも邪神とはいえ神自ら出張って来ること自体が異例中の異例なのだぞ!」
「って、言ってる間にいくつか来たぞ!?」
接近されてしまったピンポン玉くらいの小さな極彩色空間は、よく見ると手の形をしていて、それがワキワキ指を動かしながら迫ってくる。
「きめえなこれ!?」
「出している魔晶石を収納しろ! 奪われると厄介だぞ!」
「お、おう!」
俺の方に蛇行しながら突っ込んで来る小さな手をツムガリでホームランしながら、慌てて山にしていた魔晶石をアイテムボックスに収納する。
「そうだ結界!」
結界発生装置を取り出し、聖属性特化にして最大出力で展開をすると、バチっと電気がショートする様な音がして、結界に触れた小さな手が霧散した。
「なんとか守れておるようだが、こちらからも手が出せぬ。 このままではジリ貧だの」
「もきゅ!(穴掘って逃げるの!)」
「穴か……。 結界の魔力の供給耐久に問題は無いが、一生このままってわけにもいかんよな……」
「パールに界渡りの魔法をなんとか構築してもらうしかなさそうね」
「あ、ポーションの効果が切れたのかアリーセ……」
「今回は状況が状況だから許すけど、次は無いからね!?」
「アイマム! で、どうだパールいけそうか
?」
アリーセから目をそらし、結界を覆う様に小さな手が次々とぶつかって来ている場所を見上げる。
「先ほど食らった魔晶石の魔力を使い、強引にゲートを開けばいけるやもしれぬの。 やってみよう」
ドラゴン形態のパールが、尻尾でびたんと地面叩き翼を広げると、強く発光する大小様々な魔法陣が辺り一面に浮かびあがった。
それぞれの魔法陣は動き、複雑に絡みあい、ゲートをこじ開ける。
「強引に開けられはしたがギリギリだの、我が長くは持たぬ。 皆、急いでゲートに飛び込むのだ!」
「もきゅ!(わかった! えーい!)」
「イオリも急いで!」
「おう! あばよクソ邪神!」
結界取り囲む極彩色空間に中指を下品な感じで立ててアリーセに続いてゲートに飛び込もうと、ハリウッドダイブをした。
「あ、いかん!」
しかし、あとほんの少しでゲートというところで、米粒サイズの小さな手が俺をあざ笑うかのように、俺進路上で待ち構えているのが見えた。
米粒サイズの手は、俺の指先に接触すると、瞬きをするよりも早く広がり、パール開いたゲートを覆い、俺は極彩色空間の方へ飛び込む形になってしまった。
「イオリ!」
完全に極彩色空間へ入ってしまう直前で、パールが咄嗟に俺の足を口で咥えてくれたおかげで完全に飛び込んでしまわずには済んだが、凄い力で極彩色空間の方へと引っ張られている。
「痛い痛い! パール、牙刺さってる!」
「どうせ足は千切れぬ! けして放さぬから諦めるでないぞ!」