233話 羞耻心って状態異常?
想定していない事後のトラブルも特に無く、俺達はあっさりと出待ちシェイプシフターを下して、邪神嫌がらせ装置も順調にパールが散布を行えている。
チートツールをマルが使えたら手伝ってもらえたのに……。
「で、ジャンプポイントに向かう途中に街とかあるのか?」
「無い。 なんだ、観光でもしたいのかの?」
「ああ、いや、それも無いとは言わないが、あのまま放置するとさ、どこそこのアイツは、もしかしてシェイプシフターなんじゃ? って感じでシェイプシフターが居なくても疑心暗鬼になるだろ? で、シェイプシフターじゃない誰かが、そういうレッテルを貼られてリンチされたり殺されたりって事になったら後味が悪いだろ」
俺の世界であった「魔女狩り」の歴史について、知っている範囲でパール教えてから、対策として簡単にシェイプシフターの擬態を判別する魔道具を大量に作って置いていく事を提案してみる。
「ふむ、神の名の下にそのような事態が起こるというのは避けたい所であるの……。 あのイオリがそれを放置しないという部分も良しであるのだがのぅ」
妙にパール歯切れが悪いような気がする。
「何か問題が? あ、魔道具屋の既得権益とか、利権とか、ここの世界は魔道具があんまり発達していないとか、そういう何かの懸念があるのか?」
「いや、我もまだ人の子の営みについては疎い部分がある。 そのような懸念までは考えてはおらぬ」
では何が気になっているというのだろうか?
もしかして、ジャンプポイントに時間的な制限でもあるのか?
考えていると言うより、悩んでいるといった表情のパールに聞いてみると、それも違うという。
「気になるから、一人で悩んでないで言ってくれると助かるんだが?」
「いやなに、イオリが異なる世界の見も知らぬ誰かの為に行動を起こすというのは、大きな進歩であるから、歓迎すべきことなのだがの。 対応策が魔道具の制作という部分で引っ掛かっておっての……」
「何か問題が?」
「その魔道具自体が爆発したり、余計な機能をつけすぎて暴走したり、使用者がふっとばされたりしたら、回り回ってリーラ様の評判を落とす結果とならぬか心配でのぅ……」
そういう心配!?
「重ねて、イオリが作る魔道具は魔力の変換効率が非常に悪いでな。 いくら品質を上げたところで元の設計が甘ければそれなりにしかならぬ。 それ故に界渡りに影響が出ないとも限らぬから、オススメは出来ぬの」
「うーん、言いたいことはわかるが、それはなんとも後味が悪いな」
「仕方がないの。 帰還を果たしたら、我がその魔道具を届けてやるから、それで手を打て」
「おー、あざっす!」
パールが事後処理を引き受けてくれたので、足取りも軽くジャンプポイントまでの道のりを進めそうだ。
まあ、全ての問題が解決するわけじゃ無いだろうけけど、出来る範囲のフォローはしたいと思う。
ジャンプポイントまでの道中は散発的にモンスターが襲って来る程度で、大きな事件はなにもなく順調に進んだ。
一応変装はしたままでいるが、あの場に居なかった冒険者や旅人等との遭遇は今のところ無い。
襲って来るモンスターは、俺が認識するよりも早くアリーセが突っ込んでいって、倒してきてしまうので、正直やることが無く暇である。
しかし、変装中とはいえ、危なげなく剣で対処を行っているアリーセの戦闘能力が止まるところを知らないな。
流石に弓の時の様に一撃必殺感は無いが、殴る蹴る投げる極めるが織り混ぜられているアリーセ独特の剣術を見て、レンジャーだと見抜けるやつは居ないと思う。
あと、今の装備的にハイキックとか回し蹴りで大股開きになるような動きをされたりすると、目のやり場に困るというか、何か具体的なモノがハミ出してしまうのではないか? とか勢いで脱げてしまわないかとドキドキしてしまう。
「ん? あ、何でしょうか?」
チラ見していた事に気が付かれ、モンスターを軽く始末したアリーセが俺の方へやって来た。
って、胸当ての位置を直しながら、こっちにまっすぐやって来るとか、止めなさい!
一瞬、懸念していた何か具体的なモノが見えたような気がしたし!
「ありがとうございました! じゃないっ、あー……、ほらあれだ、えーっと。 そう、前にもなんかあったけど、いい加減敬語を止めてくれないか? 何度も言ってるけど、嘘偽りなく、俺は平民なんだからさ!」
よし、なんとか誤魔化せた!
「神の使徒なった……なられたからには、王族よりも身分は上です!」
「いやいや、パールとは普通に話してるだろ!?」
「パールはドラゴンなので大丈夫です」
「意味がわからない!」
人のカテゴリーじゃなければ使徒でもOKとか、その括りがわからない!
一応、叡智とかそういう部分でも人より上位種族だから!
「よしパール! アリーセも神の使徒にしてやるんだ!」
「イオリも大概意味がわからぬことを言っておるの」
「神の使徒がそんなに偉いと言うのなら、アリーセ自身もその身分にしてやれば、身分権力権威に対するアレルギーも治るかと思っただけだ! ほら、意味わかりやすい! 超わかる! 俺が使徒に推薦するから、理由は「俺より強い」で!」
「それだけの理由で、使徒をホイホイ増やせるわけがなかろうに。 イオリが使徒となったのは特例というだけなのだからの」
勢いだけで話していたので、だんだん、なんでこの話をしていたのか忘れそうだったが、アリーセが今度は尻の部分のパーツの位置を直していた。
水着の様に布ではないので、全体が動いてしまって大変な事になりかけている。
「なにやってんだよおおお!」
「え、あ、いや、なんか食い込んじゃってしましまして」
しましま? いやいや、変な敬語にツッコミ入れてる場合じゃねえ。
ってか羞耻心って別に状態異常じゃねーだろ! 羞耻心無さすぎて、むしろ状態異常じゃねーか、どうなってんだコンディションポーション!
これ、他の冒険者がいたところでやってないだろうな?
「よし、あそこから大分離れたし、周りにも誰も居ないから、もう変装はしなくていいぞ!」
「あ、はい」
「我はそもそもが変装みたいなものだがの。 まあ、着慣れている服の方が楽だの」
「そういうわけで、あの辺の茂みの裏辺りで着替えて……」
ちょうど身を隠せそうな所があったので、そこで着替えるように言おうとしたら、往来のど真ん中で着替え始める美少女2人が目に入った。
「お前ら、ちょっと待てぃ!」
いくら周り誰も居ないからと言って流石にそれはどうかと思う。
「ほ、ほら、着替えを誰かに見られたら変装してた意味が無いだろ!」
「誰も居らぬぞ?」
「大丈夫ですよ?」
「いや、えーっと、アレだよ! 例えほぼ可能性が無かったとしても、0出ない限りは想定して行動するのが冒険者ってもんだろ! Bランクなんだから、ちゃんとしなさい!」
「なるほど一理あります。 では、あちらで着替えてきますね」
「我は冒険者では無いから構わぬであろう? めんどくさい」
「構うわ!」
シェイプシフター共よりも、今の方が苦戦しているのは、一体なんなのだろう……。
本当にありがとうございました。