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232話 茶番劇

 腕を組み、偉そうな姿勢でポンポンと俺が事前録音しておいたセリフを再生するマル。

 録音する時はノリノリだったが、いざ人前で再生されると非常に恥ずかしいという事実に、思わず顔を押さえてゴロゴロと転がりたくなる。

 説明口調のセリフが多いから、プレゼンの様に喋っているので、棒読みとか、妙に訛っているとかではないのが、せめてもの救いか……。


「まずい、まずいぞおぅ! 貴様あああ、邪神様に仇なすうううう、女神のおおお、眷族かあああっ!」


『魔王候補は人に化け、街や都等人の欲望多く集まる場所で力を蓄えるのだ』


 会話が成り立たっていないが、マルがゴーレムを操作し、スラリと見た目がやたら派手で使い勝手の悪い剣を構える。

 マルのゴーレムには、音声だけでなくアリーセ監修の元、プロに見せても恥ずかしくない激しいバトルモーションが登録がしてある。

 それに合わせて俺が、出発前に練習した、押されていくウォリクンを演じる茶番を繰り広げる。

 正直周りのギャラリーはポカーンとしているが、気にしたら負けかな? と思っている。

 あまり長く続けるとボロが出るので、キリの良いところで、派手に後ろに吹っ飛んで逃げに入る。


「おのれえええ、まだ邪気が足りぬかあああっ! おぼえておれえええっ!」


 定番の捨て台詞を吐いてダッシュで逃げる。


『街中や王城内であっても、誰かに成り代わっている魔王候補や邪神の眷族が居るかもしれない。 さる国では王がシェイプシフターにとって変わられりという事態まであったのだ!』


 行動とセリフが全く合っていないが、マルも俺を追いかけ、冒険者達から姿を隠すように移動する。

 物陰に隠れウォリクンスーツをアイテムボックスに収納し、後から来たマルのゴーレムもアイテムボックスに収納する。


「もきゅ!(上手にできたの!)」


「あー、まあそうだな、よしよし」


「もきゅーん」


 マルの頭をもふもふと撫でてやると、嬉しそうに意味をなさない鳴き声が漏れた。

 その場でマルに手伝ってもらいながら、手早く全身鎧を装備する。

 細部は違うが、さっきまでマルが乗っていたゴーレムによく似た姿である。


「ひとまず、周辺に居たシェイプシフターは全部やっつけたし、街とかにも潜んでるって情報もばら撒いた。 魔王云々も実在しないモンスターが対象だから、ここでの話が広まれば、この世界で魔王が誕生するのも大分遅れるだろ」


「もきゅ(流石ご主人)」


 シェイプシフターが、それなりの数が紛れ込んでいるということも知らしめたので、今後は奴らも活動し難くくなることだろう。

 とは言え、関係のない一般人がシェイプシフターだと疑われたり魔女狩りのような事が起きるかもしれないので、何か見分ける方法を残しておいた方が良いかもしれない。

 そうしたら、後は皆と堂々とジャンプポイントまで向かえば良いはずだ。


「うーん、見分けるにしても高レベルの鑑定スキル持ちってそんなに居ないだろうし、なんか既存の鑑定の魔道具を超高性能にして残しとくか?」


「もきゅ(冒険者ギルドとリーラ様の教会に渡しておけば良いと思うの)」


「そうするか、数が多ければ対応もしやすいだろうしな」


 人物鑑定する魔道具自体は街の入場門とかにも設置してあるので、ある程度金を積めば手に入るだろう。


 ああそうだ、激しい戦闘を行ったという偽装で、今人気の無いこの辺を何ヶ所か爆破しておこう。

 マルにヘルメットを被せてやり、俺の後ろに下がらせ、発動体である杖をアイテムボックスから取り出して構える。


「C4エクスプロージョン!」


 爆発系だと詠唱でイメージを固めなくても魔法名だけで結構行けるな。

 いくつか試してみよう。


「10万気圧エアボム!」


「液化天然ガスブロウアップ!」


「分子ディスインテグレイト!」


「水素アルミ酸化鉄ヒンデン……じゃないテルミット!」


「RPG!」


 よし、良い感じで地形が変わったな。

 巻き込まれないように物陰に隠れてから、ドッカンドッカンと地面や岩等を破壊して行く。

 こんなに魔法が上手くいくとか初めてではなかろうか?

 爆発や崩壊系の魔法は魔法名を口にするだけでもイメージが出来るようになった、散々自爆してきた俺との相性が良いようだ。

 まあ最後のRPGは実物だと映画みたいな爆発はしないらしいがイメージが重要である魔法として再現するなら些細な問題だ。

 飛翔速度も申し分ないしファイヤーボールの様なただの火の玉を投げるより効果的だと思うので今後も使っていきたい。

 簡単には行かないだろうが擬似的にでもGPSが再現できたら、超遠距離からの固定目標の破壊なんかも出来るかもしれないな。


「おっと、ここでイロイロ考えてても仕方がないからそろそろ行くか!」


「もきゅ!(はーい)」


「ジャンプポイント向かえば自然と合流するだろ。 よし、マルどっちだ?」


「もきゅ(あっち)」


 マルがビシっと指を指した方向は、今しがたマルと茶番を繰り広げた場所を指している。


「まじか、偽装したとはいえ、勇んで追いかけて、もう元の場所に戻るってのもアレだな。 質問攻めにされても困るから、ちょっと迂回して行くか」


 俺とマルは茶番劇を繰り広げた辺りを大きく迂回し、なるべく人気の少なそうな場所を選んで進んでいった。

 しばらく進むと、なにやらガヤガヤと話している声が聞こえ、その声の中に聴き覚えのある声が混ざっている気がしたので、話声が聴こえる方向に向かってみた。


「たしか、この辺は最初にシェイプシフターがいた辺りだったかな?」


 岩陰からこっそりと覗いてみると、アリーセとパールが冒険者達に囲まれているところだった。

 魔王候補のでっち上げ話について質問攻めにされているのだろうか?

 だとしたら申し訳ないな、俺が作った話だし俺が出て行って話を盛ってくるか……。


「なあ、あんた達今フリーなんだろ? 俺達のパーティに入らないか?」


「俺、良い店知ってるんだ、戻ったら一緒に行かないか?」


「お前ら抜け駆けすんなよ! なあなあ、こんな奴等より、俺達と組まねぇか?」


ナンパされてただけか……。


「悪い子はいね……」


「もきゅ!(ご主人、今ウォリクンと違うの!)」


 おっといかん、思わずスペシャルブレンドスティンクポーションを投げつけるところだった。

 ひとまず、出て行ってアリーセとパールを回収した方が良いか。

 岩陰から颯爽と出て行くと、アリーセが俺に気が付いたようで、こちらに顔を向けた。


「私達、生憎と先約が居るのよ。 残念だけどまた縁があったら誘ってくれると嬉しいわ。 行きましょうパール」


「ぬ? おお、連れが来たようだの。 ではお暇するとしようかの」


 アリーセがヒラヒラと手を振り、ナンパ男達を袖にすると、そいつらの視線が一斉に俺の方へと注がれた。

 なんというか、こういうのって、お約束的には冒険者登録の時とか序盤にあるイベントじゃないのか?

 えーと、このあと絡まれて、相手をボコボコにするまでがテンプレだよな? よし、心の準備は出来た。 いつでも受けて立とうじゃないか!


「……来ないし、皆なんか遠巻きだな?」


「何をしておる? ボサッと突っ立っておらんでさっさと行くぞ」


「え、だって、普通ここで俺が絡まれるパターンだろ?」


「もきゅきゅ……(Aランクモンスターと一人でやりあった事になっているご主人に絡む人は、そうそう居ないと思うの)」


 あそこに茶番バトルを知ってる奴って居たっけ?


「一人でブツブツとウォリクンに関して延々喋ってた、気味の悪い鎧男に関わり合いたくないだけじゃないかしら? ……あ、ないでしょうか?」


「それなっ!」


 魔王は回避したが、別方向で負の感情を集めてしまったようだ。

 俺はガックリと肩を落とした。


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