230話 ノリノリで
「ラウリル硫酸ナトリウム20%ハイドロカノン!」
相手がモンスターであるならば手加減ミスっても、まあ良いかってことで、イメージ固めの為の詠唱を省略して魔法の水弾をぶっ放す。
効果があるかは不明だが、シェイプシフターがスライム系のモンスターであるので、洗剤等に使われる強めの界面活性剤を水に混ぜてやる。
感覚的には、キッチンに出てきたGとかに洗剤をかけるイメージだが、万が一に人を巻き込んでも、勢いのある水で吹っ飛ぶだけだし、界面活性剤も皮膚の弱い人が、もしかしたら多少の炎症を起こす可能性があるかなー? という程度だ。
ぶっちゃけ、シェイプシフター対する、単なる嫌がらせ程度の効果しかないとは思うが、こういう気遣いで魔力の使い方を練習しているのである。
「ぐわああああ! 何だこれ沁みる!?」
あ、沁みるんだ。
次は塩でも撒いてみるかな。
この隙に解析ツールをスーツ内に表示して、コードを確認する。
よし、下8桁のズレはあるが、それ以外は既存のシェイプシフターのコードと同じだ。
高台からジャンプしながら素早く、修正したコードを打ち込み、チートツールをいつでも実行出来るようにして、水圧と界面活性剤怯んだ魔法使いっぽいシェイプシフターの顔面を掴み引き倒す。
このタイミングで解析ツールやチートツールを使ったのは、ただの自己満足的格好つけで深い意味は無い。
うん、誰も気が付いて無いし、物陰からコード取得してから登場しても良かったなコレ……。 まぁちょっと邪眼っぽくなったら良いなーとか、中二な気持ちが湧き上がっただけだ。
気を取り直して。
「げっげっげ、臭う臭うぞおぉ、人に化けた他の魔王候補が何匹も混ざって居るなぁぁ? 冒険者をけしかけてこのウォリクン様を排除しようという魂胆かぁぁぁ!?」
以前と比べてキャラはブレブレだが、ここでは初出なので問題はあるまい。
ボリューム最大で適当に捏造した設定を大声で語り、コードを有効にして変身能力を使えなくしてやると、ドポッと粘性が高そうな黒いスライムと化したシェイプシフターが俺の指からこぼれ落ちた。
うへ、ウニョウニョ動いて気持ち悪いなこれ。
「な、モンスターが人に化けてるだと!?」
「え? なにスライム!? え? どういう事!?」
「状況がわからん、一旦距離をとるんだ!!」
居合わせた他の冒険者達は、イキナリ目の前で一緒にいたヤツが液状化したため、ビビって俺とシェイプシフターの成れの果てと距離をとって遠巻きにしている。
冒険者達の反応から察するに、誰かとすり替わっていたり、仲間意識が芽生えるほど一緒に行動していたわけじゃ無さそうで良かった。
「悪い子はいねがああああ!」
「うわあ、こっち来たあああ!?」
口からふしゅるるると煙を吐きながら、解析ツールで冒険者達を見回して1番レベルの低かった、まだ幼さの残る駆け出しっぽい冒険者に超低姿勢で素早く詰め寄り、出来うる最高速立ち上がり顔を接近させる。
「ひっ!?」
ビビる駆け出し君に、むは~っと薄めたスティンクポーションの臭い付きの息を吐きかけ、ニヤリと笑う。
「お前は魔王候補じゃないなぁぁ? 邪気もそんなに無いなあああ? 良い子かなあああああ?」
それなりに慣れた冒険者が居たら、ろそろ立ち直ってこちらを攻撃してくるはずなので、某千葉梨のゆるキャラの様に激しく上下運動をしたり、円運動の一人高速エグザ○ルしながら、素早くこの不幸な駆け出し冒険者君から離れた。
「180デシベル、100万カンデラ、フラッシュバン!」
逃げながら目眩ましに閃光手榴弾的な魔法を放ち、素早くこの場から離脱して次の黒い霧が見える場所へ向かい、同じような事を繰り返す。
時々、アリーセ達が救援を装って乱入し、俺がでっち上げて考えた、魔王候補達の血で血を洗う戦いや、人に化けるシェイプシフターや邪気の多い所に出現するウォリクンというモンスターの話を解説して回ってもらった。
シェイプシフター共はともかく、ウォリクンについての話は怪談や都市伝説と変わりが無い胡散臭いものなのだが、冒険者証がそっくりだったお陰で、Bランクのアリーセが言う事を誰も彼も面白いように信じていた。
「悪い子はいねがー!?」
「あれはウォリクン!」
「なに!? あんたアレを知っているのか!?」
「ええ、最近発見されたAランクの新種のモンスターよ。 神出鬼没で結界の張られた町中や王城等にも現れ、犯罪者や汚職に手を染めた貴族、果ては王族迄も何処かに連れ去って、その邪な感情の持つ力を糧にしていると言われているわ。 なんでも連れ去られた者やアレを倒した者はウォリクンになってしまうそうよ」
「Aランク!? そいつは敵うわけがねぇ!」
話を聞いていた軽薄そうな冒険者がその話を聞いて驚愕している。
長いセリフ、良く憶えたなアリーセ。
「あ、と、ところで……。 街に戻ったら一緒に食事でもどうだ?」
「……………………悪い子はいねがああああああ!?」
「うわああ、何でこっち来た!?」
この状況でアリーセをナンパしたニヤニヤ顔の奴を見て、良くわからないがなんかイラっとしたので集中的に追いかけ回して、気絶するまでスティンクポーションをしこたまぶつけておいた。
「もうすぐBランクに上がりそうだった実力者が、あんなにアッサリやられただと!?」
「アレは感情を含めて邪な気を餌としておる。 こんな状況にも関わらずナンパをするような考えを持つとあのように襲われるから気を付けると良かろうの。 逆に言えば、帰ったら教会に寄付をしリーラ様に祈りを捧げようと念じてお居れば襲われることは無いというわけだの。 ああ、もちろん嘘であれば邪な気を発してしまうので注意が必要だがの」
そこ、どさくさに紛れて布教活動をしないように。
他の冒険者のパーティにいつの間にか紛れ込んでいたパールが、捏造設定の解説をしながら、ちゃっかりリーラ様を推している。
まあいいや、少し乗ってやろう。
「悪い子はいねがあああああ」
「うおっ、こっち来たぞ!? 構えろ!?」
俺はパールの居るパーティへ走り、向こうの攻撃範囲の直前で停止する。
すかさず威嚇の為に油断なく高速反復横跳びをしながら、ジリジリと下がる。
「マズイ、女神を信奉する清浄な気はああああ、マズイマズイマズイ!」
激しく謎ダンスを踊りながら「お祈り効きますよー」という説得力をもたせて、大きくジャンプをして距離を取る。
余興でそこらの岩を粉砕し、フラッシュバンの魔法を唱えて身を隠す。
あとはパールのアドリブに任せて、次の獲物の所へ向かった。




