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229話 何だあれ言われた

「じゃ、先に行くな」


 しゅたっと手を上げ、機敏な動きでゲートをくぐる。

 作戦としては非常にシンプルだ。

 ウォリクンスーツを着た俺が注目を集めつつ、シェイプシフター共を無力化していき、その隙にアリーセ、マル、パールは他の冒険者に紛れてウォリクンについてそれらしく情報を流して、既存のモンスターであるように思い込ませる。

 しばらく俺が暴れまわったあとで、変装を解いて逃走するという手はずだ。


 俺がゲートを抜けると、出た先にタイミング悪く冒険者のパーティが居て、突然現れた俺を見てギョっとしている。

 黒い霧を纏った冒険者は居ないようなので、このパーティにはシェイプシフターは紛れ込んではいないようだ。


「悪い子はいねがー!」


 内蔵のボイスチェンジャーで、高音と低音を重ねた様な声色に変えて大きな声で叫ぶ。


「うわ、なんだコイツ、急に現れたぞ!?」


「バカ、早く下がれ! どう見ても友好的なモンスターには見えねぇだろ!」


 冒険者達は素早く体勢を整え、前衛の戦士らしき厳つい男が大盾を剣で叩きながら前へと出て、そのすぐ脇にむさ苦しい軽装のおっさん剣士が控えている。

 後衛に後4人居るが大盾の男が何かスキルを使ったのか、ついそちらに目が行ってしまって、よく認識ができない。

 おそらくヘイトをとるスキルを使って、攻撃を集めるタンク的なポジションなのだろう。


「先制行くよ! ラピッドファイヤーアロー!」


 後衛のローブを着た魔法使いっぽいお姉さんが、俺に向って炎の矢を沢山ブチち込んできた。

 牽制とか聞こえたが、殺る気満々だな。

 いつもならば魔道具で簡易結界でも張ってしまうところなのだが、パールからは魔道具の使用を禁止されている。

 実戦でほとんど使った事のない杖をアイテムボックスから取り出し、こちらも急いで魔法を使う。


「5mx5mx0,2m、ALCコンクリートウォール!」


 耐熱性の高そうな素材の魔法の壁が目の前に現れ、炎の矢を防いだ。

 ALCコンクリートと言うのは、耐火性、防火性に優れ、強度も高い軽量気泡コンクリートの事だ。

 曖昧なイメージでも割りと再現される魔法の特性を活かして作り上げてみた俺のオリジナル魔法である。

 咄嗟に使った割には上手く行ったと思う。

 サイズ指定をしなかったらどうなってたかわからないが……。


「魔法!? おそらくゴブリンシャーマンの亜種か上位種だ、取り巻きが居るかもしれん、注意しろ!」


 多分リーダーだと思われるおっさん剣士が注意を促す。


「見た事の無い魔法だわ、私のファイヤーアローが完全に防がれたし、聞いていた姿と大分違うけど多分アレが依頼の魔王候補だと思うわ!」


「人の姿って聞いてたが……。 想像とは大分かけ離れているな。 まあアレも一応人の姿だって言われれば、人の姿なのかもしれないが」


 女魔法使いと男戦士の話が聞こえた。

 なるほど魔王候補が居るとか吹いてまわってたのか。

 負の感情集めて俺を魔王化させようとしているという予想が当たったな。

 しかし、負の感情を集めるのはイオリ君では無く、ウォリクンという存在しない新種のモンスターになるはずだ。


「悪い子はいねがあああああっ! スティンクストーム!」


 下手に大魔法をぶっ放して、シェイプシフター以外の冒険者被害が出ないように、非殺傷攻撃をしなければならない。

 そこで、ただ風が吹くだけの魔法を放ち、おなじみのスティンクポーションの中身を同時に撒いてみた。


「ぐわあああ、醗酵したニシンが詰った保存食の臭いを更に濃縮した刺激臭がああああ!?」


「ぎゃあああ、東方の島国で作っていたクサヤの臭いがあああああ!?」


「がああああ、浜辺に打ち上げられた腐った謎の巨大生物の臭いがあああああ!?」


「うばあああ、陸に上がったマーマンが何ヶ月履いてたパンツの臭いがあああああ!?」


「いやあああ、白濁した粘液を吐きかける貝の臭いがあああああ!?」


「きゃあああ、干上がったクラーケンみたいな臭いがあああああ!?」


 後半、それなんの臭いだよ……。 海産物縛りか?

 誰がどのセリフかまではわからないが

 タンク役の男戦士が戦闘不能になって、スキルの効果が解けて、男僧侶、男斥候、女盗賊っぽいメンバーも認識できた。

 今は全員意識を失い地面でピクピクしている。

 それから少しして、変装したアリーセ達も無事やって来た。


「うわ、もう1戦やらかしてる……」


「もきゅ(流石ご主人)」


「ふむ、魔力の乱れは許容範囲だの。 その調子で続けよ」


 俺は笑顔でサムズアップし、それらに応えた。

 とりあえず、魔道具は駄目でもアイテムの使用は大丈夫な様なので、多少捗るだろう。

 正直、魔法で手加減するって言うのは思ったより大変だった。

 気を抜くと威力がどうなるのかわからないが、アンチマテリアルライフルを渡されて「手加減しろ」って言われている気分だ。


「そういえば、表情までしっかり変わるんだったわね……。 近くで見ても本物のモンスターにしか見えないわ」


 一瞬アリーセが、俺の方に向って剣を弓の様に構えたように見えて、なにがボソボソと言っていたがなんか気に障ることしただろうか?


「まあいいや、ぼさっとしてたら他の冒険者が様子を見に来ちゃうだろうから暴れてくるな。 こいつ等は任せた」


「あ、はい、えーと、おまかせください?」


 自信に無い敬語を使うくらいなら、普通に接してくれ……。

 俺は周りを見回して、黒い霧っぽい物が見える方へヒタヒタと走る。

 黒い霧はパールの加護のおかげでアリーセやマルにも見えているらしいので、いちいち解析ツールで見なくてもシェイシフターだって判別がつくのは助かるな。

 慎重に使う魔法を考えながら、出るタイミングをうかがい近くの高台に登る。


「悪い子はいねがー!? 後方5mV3爆発3回」


 呪文詠唱は小声だが、無詠唱だとうっかり際限の無い物になってしまう可能性があるので、最低限のイメージ固めのために唱える。

 何となくヒーローポーズをとった俺の背後で爆発が巻き起こる。

 あぶねぇ、ちょっと火薬が多かった……。


「出たぞ、アレが魔王候補のイオ………何だあれ?」


 黒い霧を纏った魔法使いっぽいシェイプシフターがドヤ顔で俺の事を指差し、ウォリクン姿を見て首をかしげた。 残念だったな。


「俺様が次期魔王だあああ、邪なぁ気をぉぉよぉこぉせぇぇっ!」


 俺は、付近に居た他の冒険者達の注目を集めた事を確認して、シェイプシフターに魔法を放った。


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