226話 本家本元のブレス
小さく開けたゲートからにじみ出る瘴気を回避して、一旦距離をおいたは良いものの、ちょっと時間が経ったら、次々とでかいイカだの毛の生えたクジラっぽいモンスターだの恐竜っぽいモンスターだのがやって来て、怪獣大決戦状態になってしまっている。
「あれ、俺を捕まえる気ないだろ? 殺しに来てるよな?」
「その可能性も否定出来ぬが、この程度で死ぬなら要らぬとか、散々やった嫌がらせの報復の可能性の方がデカイかの。 あそこに居るのは、本能的に瘴気に引き寄せられただけの、ただデカイだけで大した能力も知能も持っておらぬモンスターのようだからの」
デカイのが暴れまわってるだけで十分脅威だと思うが、とりあえず邪神への嫌がらせが足りなかったってことで、今まで以上に頑張らないとイカンな。
足の小指も狙うか……。
「まだ、あの魔道具を撒いて居らぬ所だったからの。 先回りされては致し方がないの」
次々にやって来る名も無き巨大モンスター郡は、俺が解析する間も無く次々にアリーセが狩っているが、断続的にやって来るので終わる気配が無い。
「ゲートは閉じたから、瘴気を無害な程度まで散らすか浄化する必要があるの。 どれ、我が少々出てやるかの」
パールがツカツカと甲板の真ん中に歩いて行くと、1枚1枚服を脱いで全裸になり仁王立ちになる。
小ぶりではあるが少女ソレとは違った形の良い胸や尻が惜し気も無く陽の光に晒されれ、白い肌も合わさり暴力的な破壊力を持つと思われるのだが、悲しいことに俺の心は賢者タイムよりも数倍は平静なままである。
「ちょっと、パール何やってるの!?」
アリーセが全裸で甲板をウロウロしているパールにツッコミを入れる。
「我がやろう。 界渡りに影響が無い程度には抑えるでの、アリーセは撃ち漏らしが居たらそちら対処を頼むかの」
甲板の中央でパールが膝をつくと、ゴキゴキと骨が鳴るような音を立てて身体が大きくなって行き、尻尾が長く伸び、背中から大きな翼が広がる。 身体中からは真っ白な毛が生え顔も人の顔ではなくなっていく。
パールは1分程で、真っ白でモフモフなドラゴンへと姿を変えた。
パールのドラゴン姿は初めて見たが、勝手にアルビノの爬虫類の姿だと思い込んでいた。
まさかモフモフ系だったとは……。
大きさもあり、凛々しさや美しさはあるが、毛のせいでシルエットが少し丸っこく見え、どこか可愛らしい雰囲気が漂う。
船の上でドラゴン形態になったのに、不思議な事に船が重量で沈んだり傾いたりはしなかった。
「すぐ終わる。 伏せておれ」
パールの声が響く。
マルがもきゅっと舵輪の影に隠れ、アリーセもスライディングする勢いで身を伏せた。
パールが首をもたげ、口を開けたかと思うと閃光が疾走った。
よくはわからないが多分ブレスだと思う。
閃光の軌跡に沿って海がヘコみ、少し遅れて水柱が立つ。 空気も一瞬パールの方向へ吸い込まれるように動き、すぐに逆方向に激しく吹き付け、船が大きく揺れた。
伏せるのが遅れた俺は、あちこちに転がって危うく海に落ちるところだった。
「っぶね! あぶね! マル波に対して船を正面に向けろ!」
「も、もきゅ!」
意味は成さないが、多分了解の返事の鳴き声をマルがあげ、船を回頭させると、幾重にも波が襲ってきた。
すんでのところで海に落ちるのを回避した俺は、マルやアリーセが伏せるのは横目で確認してたのに、俺の方はちらりとも見なかったパールに恨みがましい目を向けるが、パールがそれに気が付いた様子は無かった。
口に出して抗議しろ? そんな勇気は無い!
揺れがある程度納おさまったところで、怪獣大決戦状態だった場所に目を向けると、もうもうと蒸気が立ちこめていて、おそらく沸騰しているのではなかろうか? とても生き物が生存出来るようには見えない。
「あれで平気なら、俺の魔晶石爆弾くらい問題無いんじゃね?」
「たわけ、ただ爆発させるだけの魔力損耗の多い魔道具と比べるでないわ。 魔力にも変換効率というものがあるし、我のブレスは極限にまで効率化を求めたものだ。 現にあの程度のブレスならばたいして魔力も使っておらぬ、半年は放ち続けられる程度だの」
大量の魔力で強引に魔法を使うパール言葉とは思えないセリフだな。
まあ、たいして使ってないと言ってはいるが、あくまでドラゴン基準だということは間違いないだろう。
しかし、魔晶石を使う場合に変換効率とかあまり考えて無かったな。
ワトソンや錬金術師達が作る魔道具は基本的に魔石合わせてあって、特に対策がされていなければ規定より多い魔力で使うと爆発して壊れてしまう。
「魔晶石で使う」のではなく、基本的に魔石で使用するもので「魔晶石でも壊れない」というだけなのだ。
出力が大きく違うのだから、魔晶石専用の魔道具をつくるならば構造や仕組みが異なる
効率を突き詰めていけば、もっと高威力なものは考えてみればあたりまえだった。
魔晶石100個とか1000個とかで使用する前提で魔道具を作れば、それこそ邪神に嫌がらせ以上の事も出来るようになるかもしれない。
徹夜覚悟で魔力の効率化の方法をパールに聞くか……。
「なあ、パール……」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないのに!?」
パールがゴキゴキと嫌な音を鳴らしながら小さくなっていき、人の形へと姿を変る。
俺の目の前で腕を組み「否」を叩きつけられた。 全裸で。
「パール! 服着て服!」
周囲を確認して警戒を解いたアリーセが脱ぎ散らかされたパールの服を集めて来てパールに渡した。
「やはり服など着ぬ方が楽だの。ココには隠す必要性のある者も居らぬ。 別に、このままで構わぬであろう」
「良いから着なさい!」
「なんだ、融通のきかぬヤツだの。 こら辞めぬか、そのくらい自分で着れるわ」
アリーセが「ほら、足上げて」とか「バンザイして」とか、子供に着替えをさせるようにパールに服を着せていく。
いつかこの状況に感謝する日が来るかもしれないので、努めて自然に記憶には焼き付けておいた。 ああ、もちろん学術的な意味でだ。
「それでパール参考までに、俺の魔晶石爆発は魔力の変換効率はどの位なのかわかるか?」
「余裕をもたせた我の術式が狂ったことをから考えると、消費されずに周囲に拡散した魔力は8割というところだの。 つまり2割程度しか爆発に使っておらぬということになるかの」
「そいつは改良の余地があるな……。 ん? 余剰がなければパールの魔法に干渉しないのか?」
「そうなるの。 しかしそこに至るまでの被害を考えると、効率化などやらんで良いからの?」
それって、つまり、M−壱グランプリ的論理で考えると……。
やれってことだよな!?