225話 偵察部隊制作
今後の方針が決まり、偵察用のゴーレムやら装備品等の制作に勤しむ事にした。
神の使徒に、なるにはなったが、邪神からの影響防いでくれる以外の恩恵は、今の所感じない。
ああ、そういえば神殿とか教会に行かなくても、何処でも魔晶石を奉納出来るようになって、リーラ様からお礼としてアーティファクトが貰えるのは恩恵かもしれない。
何が貰えるかはリーラ様の気分次第らしいので、教会のレアガチャと変わりはないようだ。
それ故にエンシェントドラゴンの巣にはたくさんのアーティファクトや、それを目当てにやってきた無謀な冒険者や自称勇者達の装備品やらが溜め込まれているそうだ。
パールも結構溜め込んでいるようなのだが「やらんぞ」と、まだ何も言ってないのに拒否られてしまった。
使わないんだからくれても良いじゃないかと言ったら、トロフィーとか勲章のような扱いをしているらしく、とても大切にしているのだとか。
「じゃあ、せっかくだからガチャっておこうかな。 えーと、頭を下げて目を閉じ、龍言語で奉納するって言えば良いんだったな」
パールに教わった奉納の手順を確認しながら準備をしていく。
廃課金者バリにガチャをやりまくりたい所だが、一回につき魔晶石1個、週に1回までと制限をかけられてしまったので我慢をする。
結界を張り、その中に魔晶石を1つ置き、使徒としての礼儀作法は得に無いらしいので、お参りの気持ちで一応二礼二拍手一礼をして、最後の礼のときに目を閉じ龍言語で『奉納する』と言った。
するとすぐに、まぶたの上からでもわかるくらい強い光があふれた。
なるほど、お辞儀は礼儀作法じゃなくて、ただ目をやられ無いようにする為の姿勢だったのか……。
光が収まると、魔晶石があった場所に真っ白な少し反りのある棒が現れていた。
ちゃんと奉納出来たみたいだな。
「これは杖か何かか? アーティファクトって言えば神器なわけだから、人には再現できないような装飾バリバリの物を想像してたけど、ツムガリといいコレといい、これ以上無いくらいにシンプルだな」
なんの装飾もない、つるんとした棒を手に取って確認をしてみると、片方の先端に穴が開いている事に気がついた。
「コレ鞘か? あ、もしかして……」
アイテムボックスからツムガリを取り出して鞘に収めてみると、ピッタリと収める事ができた。
なんでもスパスパと斬ってしまうツムガリが抜き身なのちょっと危ないと思っていたので、これは嬉しい。
「握りと鞘の合せ目が見えない……」
ピッタリとハマりすぎて、まるで1本の棒のように見える。
レーザー彫刻のように凄い精密な造型だが、そのかわり鞘の鯉口部分のエッジが恐ろしく鋭いので扱いには注意が必要そうだ。
毎回アイテムボックスに収納すれば良いのだが、やはりちゃんと腰に差したい。
主に気分的な問題だ。
金とミスリルの合金で作ったワイヤーを鞘に巻きつけ下げ緒にし、すっぽ抜けないように錬金術師御用達の鉱物由来の接着剤で固定。
鯉口部分が見えないので、目印とエッジからの保護に下げ緒と同じ合金でリングを作ってハメておく。
早速腰に下げると、にわかにテンションが上がってきた。
ぶっちゃけ飛び道具ばっかり使っててコレをちゃんと武器として使う機会があるのか不明だが、俺的には非常に満足だ。
気分が良くなったので、偵察用のゴーレム作りがとても捗った。
自作の入力装置で自律運用可能なようにプログラムを組み、船の周りで動作テストを繰り返す。
浪漫は無いが二足歩行をさせないだけで、大分楽にプログラムを組める。
今回は実用性重視で車両型とクアッドコプターのドローン型を作成した。
余裕が出来たらドリル装備の地下用のものも作りたいところだ。
まあ、その場合は円錐型のドリルじゃなくて爪が着いた円柱のシールドマシン型にしないと駄目だろうが……。
「はい、そんなわけであれから数日経って無事ジャンプポイントについたわけですが、見事に何もありません。 大海原のど真ん中です」
「誰に言っておるのかの? まあよい、目印に光球でも浮かべておくから、流されぬようにせよ」
「もきゅ!(らじゃ)」
パールが魔法で光球を作り出すと踏み台の上で舵を握るマルが力強く応える。
「えーと、私は何をすればいいの? あ、いいのですか?」
「なぜに敬語?」
何故かアリーセが数歩下がったところ畏まっている。
「え、だって……。 神の使徒なんていったら王様より偉いよね? じゃなかった……偉いじゃないですか? 私なんかが同じ空気を吸うことすらおこがましい……です」
いや、お前パールには散々タメ口きいてたろ?
「こんな凄い船を持っているし、やっぱりやんごとなき身分だったりするんだきっと……」
そんなわけあってたまるか。
ってか、今日の準備の為に引きこもってて気が付かなかったが、アリーセの富豪権力者アレルギーがさらに悪化している気がするな。
「あ、ポーション切れか? 一本いっとく?」
コンディションポーションをアリーセに渡すと、黙ってあっという間に飲み干した。
「過分なご配慮を賜り、大変恐縮です。 ご厚情身にしみて嬉しく存じます」
誰だコイツ!?
冷静になったアリーセが土下座ポーズで謙譲語を使ってきた。
似た意味を二重に言っているのところはアリーセクオリティだが、とにかく礼儀作法の類が苦手なアリーセがここまでへりくだるのは、なんか調子狂う。 相当重症なようだな。
「アリーセの事は一旦置いておいて、さっさと偵察を送らぬか。 どうせ送った後はしばし待ちだ、その時間で対処せい」
「あ、はい。 じゃあ、コイツラが通れるくらいの小さいゲート的なモノをオナシャス」
ズラリと偵察ゴーレムを甲板に並べ、パールがゲートを開いてくれるのを待つ。
「随分と沢山用意したの。 あいわかった、小さめで良いのだな?」
パールが偵察ゴーレム部隊の前あたりにしゃがみ込み、両手を振りかぶり、そのまま前へならえをするように貫き手をすると、指先がスコンと空間に刺さった。
刺さった手を長方形に動かすと、その部分が水面の様にゆらゆらと揺れて発光している。
なんか思ってたのと違う……。
「ほれ、開けたぞ。 すぐ閉じるからの、早う送らぬか」
「まあ、いいか、デルタ1番から512番、エア1番から1024番、状況開始」
一斉に偵察ゴーレムが起動し、次々とゲートをくぐっては消えていく。
大体半分くらいの偵察ゴーレムがゲートに消えたあたりで、ゲートの水面の様な境界面がドス黒くなってきた。
「ぬ、イカン! 向こうから瘴気が逆流してきおった! モンスターを呼び寄せる上にそれ自体が毒みたいなものだ。 間もなく閉じるとは言えゲートは空間に固定されておるから、一旦ここから離れた方が良いの。 マルよ、急ぎ船を出せ」
「うへ、マジか。 マル、エマージェンシーだ、舵輪の真ん中のスイッチを入れて転進だ!」
「もきゅ!(らじゃー!)」
マルが舵をガーっと回すと船がガクンと回頭し、更に急加速を始め、船体が浮き上がる。
「うわわ、なにコレ、船が飛んだ!?」
「飛んではいないぞ、こんな事もあろうかとジェットフォイルに改造しておいただけだ! 抵抗を減らしてスピードをあげる為に水中翼で少し浮き上がっているんだ」
ジェットフォイルというのは、速度が上がると船底にある水中翼に揚力が発生し船体を浮かび上がらせて航行する船のことだ。
魔晶石の使用を禁止されてしまったので、出力にものを言わせて強引に速度をあげる事が出来なくなってしまったので、苦肉の策で水中翼をつけておいたのが役に立ったようだ。
姿勢制御はゴーレムコアがうまいこと使えたので、フラフラもせず安定した航行が出来ている。
さっきまで居た場所を振りかえってみると、海中からヤケに巨大なイカが派手に跳ねて現れたのが見えた。
あ、アリーセが滅多やたらに矢をぶち込んでいるな、出て来なければやられなかったのに……南無。
しかし危なかった。 流石に真下からとか襲われたら船が転覆するくらいはしていたかもしれないからな。




