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217話 空を抜けた先

 位相結界の中の様な真っ暗だけど自分やアリーセははっきりと見える空間を中腰の姿勢で落下している。

 ヒュンという多分男子にしかわからない独特浮遊感を味わった俺は、慌ててジェットパックスロットルを開けた。

 一気に吹かしたせいで、ガクンとGがかかる。


 さて、ここで少し今重ね着している全身鎧についておさらいだ。

 各部のパーツは普通に装着しているのではなく、きぐるみに使っていたインナースーツであるウォリクンスーツに括り付けたり、貼り付けたりして形を作っている。

 ジェットパックも同様だ。

 ウォリクンスーツは金属繊維で出来た上下一体型の全身タイツに各部にフックやら空調装備等に関節部分にプロテクターやきぐるみのギミック操作のための装置が着いた物だ。


 さて何故急にそのような説明をしたかと言うと……。


「ぎゃあああああ、俺ちゃんの息子がああああああ」


「きゅ!? もきゅっ!?(ええ!? ご主人お子さんいたの!?)」


 マルが盛大に何か勘違いしているが、この場合の息子とは当然ながら、男子の股にぶら下がっているアレの事である。

 普通に飛んでいた時の直立の姿勢では問題なかったが、変に中腰になったせいで腰回りにつけているパーツが尻側から足の方へウォリクンスーツごと引っ張られ、何かの突起部分が股の間に回り込んでしまったようだ。

 例えるならば、普通に自転車に乗っても平気だが、前傾姿勢の状態でサドルが思いっきりぶつかってきたら悶絶してしまう事態になるという感じだろうか?

 マウンテンバイクにアクロバティックに乗っている時の面白動画なんかで見かけるヤツだな。


「きゅ、急な操作は危険過ぎる……。 HPを上げて居なかったら(息子が)即死だった……」


 気絶しそうになったが、途中で何かを察したマルが頬袋の中からポーションを出して使ってくれたおかげで、危機を脱する事が出来た。

 ああ、うん、そこをヨシヨシはしなくて良いからな。

 鎧の上から息子を優しくヨシヨシしていたマルは、空中だと言うのに器用に俺の体をよじ登って定位置に戻る。


「何やってんのよ、大丈夫?」


「あまり大丈夫じゃなかったが、詳細は聞かないでくれ」


 アリーセが、心配して様子を見に来てくれたが、流石にお年頃な女子に事の詳細を説明するのがあまり宜しくないという事ぐらいはわかる。


「ちょっと股に回り込んだ鎧のパーツが俺の右のゴールデンなボールに痛烈ヒットしてな」


「もきゅ……(しっかり説明してるの……)」


 アリーセは一瞬「はぁ? 何言ってんだこいつ?」的な顔をしたあと、ハッと何かに気がついて、頬を赤らめた。

 ほう、そんな顔も出来るのか。


「ちなみにゴールデンなボールと言うのは……」


「説明しなくても良いわよっ!」


 スパーンと良い音をたてて、久々にハリセンの一撃を食らった。

 く、固定ダメージ1の武器だけあって、これだけの重装備でもしっかり痛いぜ!

 そのうちどういう仕組みか解析して防御無視の武器を開発してやるんだ。

 余談だがハリセンの攻撃力を上げても、ただの鈍器になってしまい夢の武器にはならなかったことはいまだに悔しい。


「もきゅ!(ご主人! 抜けたみたい!)」


 マルがもきゅっと叫ぶと、まるでそれが合図であったかのように、一気に視界が開けた。


「また青空か……」


「空なんだから、またもなにもないでしょ。 極彩色の空とか期待してたの?」


 もし極彩色の空だったら、チビリながら魔晶石爆弾投げまくる自身があるぞ?

 うん、普通の空で良かった。


「とは言え明らかに雲の上ね。 ここは今、冬なのかしら? 結構寒いわ。 早く降りて暖まりたいわね」


「上空ほど気温が下がるんだよ。 だから多分降りれば大丈夫なはずだ。 そうそう、スロットルの先っちょに目盛りがあると思うんだが、そこの目盛りを50くらいにしてみるといいぞ」


「目盛り? あ、これね。 うわ、湯気が凄い!? あ、暖かい!」


 このジェットパックは勢いの強い給湯器がペットボトルロケットの原理で飛んでるだけだからな。 当然のように温度調節が出来るのだ。

 もちろん熱湯にすることも可能だが、一応体に水がかからない設計になっているとは言え蒸し風呂状態になってしまい暑いのだ。

 湯気も比較にならないほど多くなり視界も悪くなってしまう。

 高速移動すれば後方に熱水が流れるので問題は無いが、攻撃に使ったりするには使い勝手が悪いので、凍結防止以外にはあまりメリットは無い。


「早く動いたり風が強いと熱気が飛んで結局寒いから、さっさと降りようか」


「じゃ、このまままっすぐ降りていくわね」


 俺は大分着込んでいるから、それほど寒くないが、わざわざ急降下してアリーセに寒い思いをさせる理由もないので、ゆっくりと降下していく。


「これ湯気を避けるように動くと寒いし、寒くないようにすると視界が悪いんだけど!」


 まあ、暖房器具じゃないから仕方がない。

 とは言え、上着を渡そうにも、ジェットパックを背負って飛んでいる状態じゃ着ることも出来ない。

 少しの間なんとか我慢してもらうしかないな。


「もきゅーん(バイオメンタルアレンジメント)」


 マルが一声鳴くと、周りの空気がフワッと暖かくなった。


「あ、暖かいわ! なにこれ、マルの魔法なの?」


「もきゅ!(そーだよ!)」


 そーいやマルって初級魔法が使えたっけ。


「そっか、魔法まで使えるんだ? ありがとうマル。 イオリより断然役に立つわね。 ……私なんかよりもね……はぁ……」


 最後なんて言ったかよく聞き取れなかったが、俺だってその位の魔法は使えるぞ!

 ただちょっと、調整がうまくいかないだけだ!


 何故か微妙に落ち込んでいる雰囲気のアリーセを促して、降下を続ける。

 これ、落下してたらあっという間下に着くんだよなーとか思いながら降下して雲を抜けると、眼下に青々とした海が広がっていた。


「俺には、この高さから見ても陸地が何処にも見えないのだが、何か見えるかー」


「もきゅ!(海!)」


「うーん見渡す限り海しか見えないわね。 飛んでいるモンスターの気配も無いわ」


 太平洋ど真ん中みたいな感じかもしれないが、もしかして海の世界とかで陸地が無いとかなのか?


「何にせよ、このままだとずっと飛んでないといけなくなっちゃうわね」


「次の目的地がどっちかわかるか?」


「もきゅ(わからないの、多分飛んでるとだめ)」


 そいつは困ったな。

 闇雲に飛んで目的地遠くなってもめんどくさいし、陸地があろうと無かろうと延々飛び続けるというのも現実的ではない。


「うーん流石にボートまでは常備してないわね。 海面に足付ければどっちに行けば良いかわかるかしら?」


「大丈夫だ。 こんな事もあろうかと、船を用意してある!」


 いいな、このセリフは好きだ。 常に言うタイミングを狙っていきたい。

 用意してあると言っても想定していたというより、チートツールのコードを少しずつずらしていってアイテムボックス内のガラクタを船に変換したものである。

 とは言え、デザイン重視のゲームの船だ。 まったく水に浮かばなかったり、バランスが悪くて転覆する可能性もあるので、ちょっとドキドキだ。

 まあ、沈んだら沈んだで他の船もあるから、全部沈むって事は無いだろう。 多分。


 海面近くまで降たところで、アリーセに海の中にモンスターが居ないかどうかを確認してもらい、アイテムボックスから船を取り出した。

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