216 次に行こう
『貴様はもっぱら破壊と爆破であろうが!』
「失敬な! こんなにも新しい物を次々と産み出すクリエイティブな俺に向かって!」
『その制作物も、この世界の常識を破壊しておるであろう! って、貴様の話はどうでも良い、皆無事であるかの?』
どうでも良いとか酷いやつだな。
ひとまず、すっかりご主人様と呼ばなくなったパールに今までの経緯を説明する。
『早々に破壊活動をして、アリーセを巻き込むとは業が深いの……』
「事故だよ事故! 不可抗力ってやつだ」
『邪神の使徒どもの方がよほど慎重であるな。 やはり何かしら影響を受けているのであろうかの? 何らかの対策が必要か……』
なにやら、パールが電話の先でブツブツと考察をはじめてしまった。
「おーい、俺が言うのも難だが、これからどうすれば良いのか教えてくれー」
『ん? ああ、そうであったな。 とにかく、もし破壊的衝動に駆り立てられても、その先の結果を想像する事を忘れるでないぞ。 考え過ぎくらいでも足らぬと心得よ』
「え、あー……うん。 はい」
なんか怒られるのではなく心配されてしまって、妙な返事になってしまった。
真面目に返されると絡みづらいな!
『それで、世界を渡る方法についてだが、魔晶石はまだあるよの? 1つ電話に乗せて離れて待っておれ。 我がこちらから穴を開けるからの』
「らじゃ。 これで帰れるのか?」
『いや、まだ近い所から幾つか世界を経由する必要があるの』
そりゃめんどくさいな、魔晶石増やしたら一気に行けたりしないもんなのか?
『先に行っておくが魔晶石を増やしても近道は出来ぬからの』
「考えを読むなよ」
今のは口に出してなかったはずなのに……。
『貴様が考えそうなことだからの! トンネルを掘るのに余計な力を加えれば落盤して埋まるであろう? それと同じだの。 次元の狭間に生き埋め状態になるか、一生その作りかけの世界に閉じ込められたいなら止めぬが、その場合は貴様一人の時にでもやればよい』
「サーセン! ちゃんと1個だけにしとくので、よろしくオナシャス!」
魔晶石を1つ黒電話に乗せて、準備完了とパールに伝え、距離をとる。
「なるほど、世界を渡るのに魔晶石を使うのね。 それ位しないと世界を渡るなんて出来ないってのはわかるけど、こんなにもたくさんの魔晶石を使っているのを見ちゃうと、価値観おかしくなりそうだわ……。 一体幾つ持ってるのよ?」
アリーセが頭痛がするのかコメカミに指を当ててグリグリと揉んでいる。
「えーと、あと、きゅうじゅうきゅ……」
「100個近くも持ってるのー!?」
卒倒しそうな勢いの所すまんが99万個だ。
言ったらマジで卒倒してしまいそうなので言わないでおいた方が良いかもしれない。
しばらくアリーセとわいわいやっていると、墨壺と持ったマルが尻尾の先に墨をつけ、黒電話を中心にして何かを地面に描きはじめた。
時折黒電話に向かってもきゅもきゅ言っているので、パールの補佐か何かをしているようだ。
「もきゅ!(出来た!)」
辺り一面にミミズがのたくったような文字か何かを描いていたマルが黒電話の受話器をとって戻って来た。
黒電話本体と受話器をつなぐコードが、あり得ない長さにまで伸びている。
どーなってんだあれ?
「もきゅ(ご主人にお電話)」
「お、おう。 もしもし、私イオリカちゃん、今あなたの後ろに居るの」
『気持ち悪い裏声を使うのはやめい! 今我の後ろに居るなら、直ちに対応を停止してやろうかの!』
「サーセンパート2! 俺が悪かった、もう二度と裏声は使わないよ」
『裏声ではなく、ふざける方を辞めんか! ええいとにかく! 幾つかあるそこから近い世界のうち、比較的安全そうな世界に繋ぐからの。 岩の中等に出て行動不能にならんように高度の高い所に穴を繋ぐので、何時でも飛ぶ準備をしておくのだぞ』
なるほど、確かに埋まってしまうのは困るなからな。
イシノナカニイル とか考えるだけでも恐ろしい。
それに、もし出た先に生き物とかいたら多分トラウマ物な事態になってしまいそうだ……。
飛ぶ手段があって良かった。
「準備出来たぞ、何時でもOKだ。 アリーセも大丈夫か?」
「……魔晶石が100個とか、小国なら買えちゃうんじゃないかしら……、価値が違ったとか言ってたけど、そうだとしてもそんなに大量の魔晶石を平民が持ってるわけないわよね、そうすると、やっぱりイオリは結構身分が高……」
何やらアリーセが納得いかないといった雰囲気でブツブツと言っている。
俺の素性は所持金の話を除いて説明したはずなのだが、価値観があまりにも違い過ぎて納得出来ないのだろうか?
「おーい、戻っておいでー」
「え、あ、あー、な、何でしょうか? じゃない、何かしら?」
アレルギー反応過多でちょっと敬語なアリーセを現実に引き戻して準備を促す。
「次の世界に移動すると、空の上に投げ出されるから飛ぶ準備しろーってよ」
「わ、わかったわ」
アリーセがアイテムボックスから出したジェットパックをわたわたと背負ったのを見届け、マルを俺の背中に乗せる。
「もきゅっ(準備かんりょー)」
『では陣の端に立て。 何度も言うが、上空に放り出すからの!』
マルが描いた魔法陣の端にアリーセと立ち、中腰になりしっかりとジェットパックのスロットルを握って上空に射出されるのを待つ。
……
…………
………………
まだか!?
数分経ったが、まだ射出されない。
「出来たらカウントダウンしてくれんか!?」
『なんじゃ、人がせっかく界渡りの魔法を構築しとるというのに緊張感の無いやつだの』
逆だ! むしろ緊張に耐えられない!
『じゃー数えてやろうかの。2!』
「え、2!?」
まさかの高速カウントダウンに慌てて足腰に力を入れて踏ん張り、衝撃に備える。
『1、0!』
魔法陣が眩く光りだした。
思わず目を閉じると、足下の感触が消え、浮遊感とジュニアがヒュンとする感覚に襲われた。
「またこのパターンかいいい!?」
飛んでねえし、落ちてるだけだし!?
細かすぎて伝わらない系のアレかよ!