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213話 女子力

 散発的に虫のモンスターに襲われながらも、パールの指示する場所まで何とかたどり着いた。

 たどり着いた先は今まで見てきた浮き島と比べるとかなり大きい島で、遙か下の方に見える分厚い雲から突き出ている塔の様な形をしており、その島の頂上には、今まで見てきた浮き島と同様に草木が繁っていて、中心に近い所ほど鬱蒼としていた。


「あれが目的地って事で良いんだよな?」


「多分ね、今のところモンスターの気配も無いし、適当な場所を探して降りるわ」

 

「もきゅ(あそこに少し開けた場所があるの)」


 マルが島の端っこから天辺が平らになっている岩が少しせり出した場所を見つけた。


「おー、なんかおあつらえ向きに、天然の発着場みたいになってるな。 モンスターの気配が無いならあそこに降りてみよう」


「了解、先に降りて様子を見るから、イオリは私が安全確保したら降りてきてね」


「別に、一緒に降りても問題無さそうだが?」


「イオリだけならドラゴンのブレスに突っ込もうが噴火寸前の火口に落ちようが平気だろうけど今はマルも一緒でしょ?」


「ああなるほど……って、俺の評価おかしくね!? 俺ほどデリケートな奴は居ないって!」


「もきゅぅ……(だからご主人はデリケートっていうよりバリケードって感じなの……)」


 体はともかく心のダメージはそのまま食らうというのに酷い言われようだ。

 謝罪と賠償を要求すべきだろうか?


「はいはい、わかったから。 さあ、さっさと降りるわよ。 特に問題がなかったら呼ぶから、そうしたら降りてきてね」


 アリーセが軽やかなランディングで岩場に着地、同時にジェットパックをアイテムボックスと魔導銃をアイテムボックスに収納して前転し勢いを殺す。

 収納とほぼ同時に弓を取り出していて、前転のあとには既に弓に矢をつがえた状態で周囲を警戒している。

 確かに魔導銃を持ってる時よりも動きが良い……気がする。


「多分、弓の魔道具を作ってくれという、無言のアピールだな?」


「もきゅ……(多分違うと思うの……)」


「細けえことは良いんだ。 作る物の大義名分さえあればな」


 フルフェイスの兜のせいで見えていないだろうが、ドヤ顔でマルに言ってやる。


「もきゅ!(なるほど、さすがご主人! 後の言い訳も考慮してあるんだね!)」


「そうそう、君の為に作ったんだ! って適当に綺麗な言葉とわざと難しい計算式や専門用語で煙にま……って何を言わすんだマル。 純粋な好意だよ、好意!」

 

 今の会話、アリーセに聞こえないだろうな?

 弓を構えたアリーセが首を傾げたり、回したり、周囲の警戒に余念がない。

 様子から察するに多分聞かれないで済んだかな? 

 アリーセの五感に引っかかるような危険は無かったようで、弓をおろして手招きを始めた。


「降りて来いってさ」


「もきゅー(行こー)」


 高度を下げ両足を前に出して着地体勢をとる。

 どんな飛行物でもそうなのかもしれないが、ジェットパックは着地が一番難しい。

 勢いが強すぎれば地面に激突するし、弱すぎれば失速して落下してしまう。

 ホバリングさせて少しずつ降下させるのが安全なのだが、魔晶石を使用している時は出力が相応に強いので、ホバリングはホバリングでなかなか姿勢を維持するのが難しいのである。

 この辺り要改良だな。

 なるべく速度を落とし多少カッコつけて着地をしようとしたが、自分の今の重量をすっかり失念していて、身軽な時と同じ様に着地したことを後悔した。

 地面が思ったよりも柔らかく、着地した地面が俺の足で二本足の軌跡を描きながらドンドンエグれていき、足首が完全に埋まったところで、硬い岩盤にぶつかり足がそこで停止する。

 当然、足以外の慣性はそのまま勤勉に働いていやがるので、足以外はそのまま進んでいってしまう。


「もきゅ!(脱出!)」


「ぶべらっ!?」


 マルが俺の背中から緊急脱出だとも言わんばかりに後方に大きくジャンプして俺から離れると、自転車を思いっきり立ち漕ぎをしたくらいの速度で顔面から見事に地面に激突、兜の内側にしこたま顔と頭が押し付けられ、全体重と鎧の重量による衝撃が頭部に集中してしまい、ちょっと洒落にならないくらいは痛かった。


「だ、大丈……夫?」


「この状態で大丈夫に見えるか?」 


「見えるわ、無事で良かったわね」


「マテ、その発想おかしい」


「もきゅ(流石ご主人、だいたい無事なら、ほぼ無事なの)」


「いや、それ意味が分からない」


 取り敢えず、人を人外のように言わないでもらいたい。


「そもそもそんな動きにくそうな装備なんかしてるからそんな目に会うんじゃないの? 身の丈に合わない装備は身を滅ぼすわよ?」


「いや、どっちかと言うと、これ着てないとまともに動けないんだ」


「なにそれ? 邪神の呪い?」


 アリーセが本気で心配そうにしている。


「えーと、レベルが一気に上がって、体の動きに感覚がついていかないから、これだけ負荷をかけてやっと普通に動けるようになったんだ……」


「もきゅきゅ(これはご主人の装甲ではないの、拘束具なの)」


「相変わらず意味がわからないけど、イオリじゃしょうがないわね!」


 アリーセが考えるのを放棄したようだ。

 まあ、ここでのんびりするような話じゃないので、パールがいうポイントまでマルとアリーセの案内で向うことにする。


「なんとなく方向はわかるんだけど、不思議なことに飛んでいるとよくわからなくなるのよね」


「もきゅ(加護を通して、ここの地脈的な物から方角を感じているから、足が地面に接触していないとダメなの)」


 マルが何やらアリーセにもきゅもきゅと説明しているが、アリーセとマルは使い魔繋がりはないので、ジェスチャーで伝えられない内容までは伝わってはいないようだ。


「……だってさ」


 一応、マルの言葉をアリーセに伝えてやる。


「……地脈……? マルってそんな難しいこと分かるの?」


「それが難しいかどうかはわからんが、方程式くらいなら平気で解くし、簡単な魔道具組み立てなら出来るようになったし、料理洗濯掃除なんかも文句のつけようがないレベルだな」


「もっきゅん!(えっへん!)」


「え? かしこいとは思ってたけど、そこまでなの!?」


 アリーセのマルを見る目が変わったように見えた。


「もきゅ!(はいはい、先を急ぐの!)」


 マルが自分の事はどうでもよいとばかりに、茂みの奥に進んでいってしまう。


「わ、私も少し勉強した方が良いのかしら……、家事も練習して……それから……」


 何やらアリーセがブツブツと言い出した。

 大丈夫、君の女子力(物理)は十分に高いぞ。

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