207話 浮島調査
無事、かどうかは今後しだいだが、なんとか不思議時空からは脱出出来た。
周囲を見回してもそれらしき空間の裂け目なり、シミのようなものなりは見当たらない。
ジェットパックスロットルを緩めて減速し、ここがどういう場所であるかを改めて確認する。
足下も含め、どの方向を見ても見渡す限りの青空と、そこに大小様々な草木を生やした浮き島が漂っているという、ファンタジーではありがちだが科学には喧嘩売っているような光景が広がっている。
「なんで重力が普通にあるのに、岩が浮いてんだよ? 空から女の子がー的な石でも含まれてんのか?」
最初の感想が景色美しさではなく、まず仕組みが気になってしまうのは我ながらどうかと思うが、気になってしまうものは仕方がない。
「もきゅー……(きれー……)」
マルは素直に景色の感想を述べているな。
何処から湧き出てきているのか謎な、浮島からの滝や、小さな浮島の数々が光を複雑に反射させて、キラキラと光ってる。
恐らく何らかの輝石類が風化か何かで表面に出てきているのだろう。
「不思議物質の浮かぶ魔石か何かかもしれんな、落ち着いたら採取してみよう」
ゴーレムを飛ばせるかもしれないしな。
他にも下にも空が広がっているとか底がどうなっているのか気になって仕方がなかったり、生物の有無など気になる事は多いが、
とりあえず手近で安定していそうな浮島に着地する。
目測で縦横に200mほどの円錐を逆さまにしたような形の浮島だ。
浮いている仕組みはわからないが、形状が整っている方が安定性が高いだろうという推測だ。
「ここがどういう場所か調べる前に、また拠点を作らんといかんな」
「もきゅ(そうだね、住むとこ大事)」
「安全面がわからないから、ひとまず野営スタイルで用意して、良さげな場所が見つかったら、そこに拠点を設置。 パールの救助を待つことにしよう」
そんなに広くはないが、木が鬱蒼としているので、着地してしまうとあまり視界は良くない。
「環境的に鳥とか飛竜とかのモンスターがいてもおかしくはないか。 安全面を考えたら、この島くらいは伐採してしまった方が良いかな?」
「もきゅ?(鳥から隠れないの?)」
ふむ、マル的には木々に隠れた方が安心か。 ネズミなどの小さな生き物は、上から捕食者に狙われる為、本能的に頭上が隠れるところが落ち着くという話を聞いたことがある。
俺としてもモンスターが居るとして、頻繁に対処する羽目になるのは確かに面倒だ。
「それじゃあ、この島をざっと探索してみてから考えるか」
「もきゅ(わかった)」
探索の前に、戦闘になる事を想定してフル装備をする。
マルにマル専用魔導銃と魔石爆弾を幾つか渡し、自分の判断で使って良いと許可を与えておく。
俺の方は、上昇したステータスでも動きやすいように、異相結界内での暇潰しに作った過重スーツを装備する。
重装備すぎて、俺がゴーレムになったかのようだが、ぶっちゃけその位負荷を掛けないと自分の身体に振り回されて戦闘など出来そうにないのである。
一応、島から落ちるのも怖いので、魔晶石駆動のジェットパックも取り付けておく。
「ゴーレムっていうより、ロボだなこれじゃ。 いやパワードスーツか?」
スーツの役割りとしては、強化じゃなくてただの重りなのでなんのアシストもしていないのであるが……。
視界が恐ろしく悪くなるので、兜には拡張現実グラスの仕組みを応用した、魔導モニターと魔導カメラを仕込んで視野くらいは確保をしてある。
元の世界でこれら基本プログラムを仕事で作った事があったので、レンズとプリズムを利用したメガネ型モニターの仕組みを知っていたので応用をしてみたら上手くいったというわけだ。
今はまだ外の景色を表示するだけだが、いずれは照準や残弾数、速度や高度なんかも表示させたい。
「もきゅ!(ご主人かっこいい!)」
「ん? そ、そうか、カッコイイか」
『僕の考えた最強にカッコイイポーズ』などをとってみせる。
ゲームにあった、見た目重視な実用性皆無鎧のパーツを使っているので、見た目は悪くはないはずだ。
普通着たら重量バランスや可動範囲を考えれば歩くことすら大変そうだが、今はその動き難さと物理的な重量が大事である。
普通の板金鎧であれば、重くても40kgくらいだが、ゲー厶のデザイン重視な鎧は200kgを軽く越える。
現実的な板金の厚さは数mmであるが、これらは明らかに数cm以上の厚さがあったりするのだから重くなるのは当然だ。
これだけ負荷をつけて、やっと普通に戦えるとか、果たして苦しい思いをしてまでステータスを上げた意味があったのだろうかと悩んでしまう。
軽く屈伸運動をし、側転に飛び込み前転、反復横跳び等をして動きを確かめる。
踏み込みの時に地面に足がめり込むくらいで、特に問題は見当たらない。
武器をどうしようか悩んだが、ツムガリを左右の腰にそれぞれ装備し、左腕にいろいろいじりすぎて原型の無くなった杭打機強化版のアサルトランス改を装備、右腕には戯れに造った魔導バズーカ、肩に魔導グレネードランチャーを装備した。
「もきゅ?(ご主人は何と戦うつもりなの?)」
「何がいるか分からないからな。最悪を想定して準備したんだ」
「もっきゅー!(なるほどー!)」
マルの純粋な疑問というツッコミを頂いて、少し気恥ずかしくなった俺は、ドスドスと歩いて茂みの方へと向かった。
移動速度的にローラーやホバーで移動したくなるな。
走れば良いだけだが、ロマン的には地面を滑るように移動したいところだ。
ワイヤーアンカーも捨てがたいが、重量的にアンカーが刺さったり巻き付いた側が耐えきれないことの方が多く、ワイヤーの巻取りも高速に巻き取ろうとすると絡まってしまうため、ゆっくり巻き取る必要があるなど、もろもろの理由でミニゴーレム用の試作品を作っただけで、その後はお蔵入りをしている。
まあ、ローラーはローラーで車輪を大きくしないと、今歩いているような足場の悪い所では使えないし、ホバーも足の裏の面積を広くしないとダメなので使い所が難しいのだが……。
そんなことをブツブツと呟きながら、ツムガリをナタ代わりに使って、低木や藪をスパスパと切り払いながら進んでいく。
「もきゅ!(なにか来るの!)」
マルが警戒を発すると、正面の茂みから一抱えほどの大きさの虫が飛び出して来た。
「フン!」
俺を噛み砕かんと顎をギチギチと鳴らしながら、俺に飛んできた大きなカナブンの様な虫を右足を引き半身になってかわし、すれ違いざまに持っていたツムガリで真っ二つにする。
「おお、初めて実戦で使ったが、これ凄いな」
カナブンのような甲虫は、外殻によって体を支える必要があるので、その大きさに比例して外殻が厚く硬質になっていくはずだ。
一抱えほどもある大きさの甲虫であれば、見た目以上に防御力も高いはずだが、ほぼ抵抗なく斬る事ができた。
普通であればどんなに斬れ味を良くしたところで、すっぱりと切断する事は出来ないので、微妙に振動しているとか俺の知らない不思議な機能でもあるのだろう。
「もきゅ!(ご主人まだ来るの!)」
マルが魔導銃を構えて警戒態勢を取る。
3割くらい膨らんだだけに見えるが、たぶん毛を逆立ててるのだと思う。
「うお、いっぱい来たあっ!」
先程と同じカナブンが次々に飛びかかって来た。
慌ててツムガリ二刀流に構えて迎撃態勢を取る。
急な態勢の変化で転ばないように通常攻撃を織り交ぜながら、レベルをMAXにしたスキルの【カウンター】と【カウンタースマッシュ】を織り交ぜて、次々にカナブンを斬っていく。
重量が増しているおかげで、相対的に軽いツムガリに振り回されることなく、安定して斬り伏せる事が出来るので討ち漏らしも、今の所無い。
「しかし何匹居るんだコレ!? キリがないぞ!」
この先に巣でもあったのか、鑑定する間もなく次々と襲い掛かってくる。
「マル後退してショットシェルで制圧射撃! グレネードを使用する!」
「もきゅっ!(らじゃ!)」
マルが後方にもきゅーんと飛んで、魔導銃を乱射、カナブンの動きを抑えてくれる。
マルの制圧射撃が始まったと同時にバックジャンプをすして距離を取った。
流石に負荷が大きいからか、膝がビキっとなって痛かったので、着地をする前にジェットパックのスロットルを開いて着地の衝撃を和らげる。
次にジャンプする時は最初からジェットパックも併用しようと思う。
ズシン膝をついて、肩に背負ったグレネードランチャーを連続でぶっ放す。
仕組み的には以前ミルカさんとの手合わせで使ったポーションランチャーとほとんど同じ物だ。
飛ばすものがポーションを飛ばすか衝撃で爆発する様にしてある魔石爆弾を飛ばすかの違いというだけである。
射出された魔石爆弾は次々と火柱を上げ、木々と一緒にカナブンをまとめて焼き払っていく。
「あ、属性間違えた……」




