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幕間 ある古き竜の回顧録

ある古き竜の回顧録


 我の今の名はパール。

 創世よりこの世界に存在する古き竜の一柱である。

 この名は使い魔の契約によって名付けられた名前ではあるが、調和の女神リーラ様より呼ばれし愛称でもあるので、ある意味祝福されし名とも呼べる名だ。

 創世より転生を繰り返し、神の使徒としてこの世界を、時には見守り、時にはリーラ様の手足となり管理を行なって来た我にとって、名を頂く事も、使い魔の契約が出来る生物と出会うのも初めての事であった。

 使い魔の契約によって主人となった者は、邪神によって異世界より召喚されし者で、魔力の塊である魔晶石を、神が慌てるほどの膨大な数を所持している者であった。

 この膨大な魔晶石や異世界の知識を持つ者が邪神の使徒となれば、ここの世界の調和は乱れる事は明白である為、調和の女神の使徒である我が見張りと護衛につくこととなったのだ。

 他の短絡的な古き竜であれば、この様な厄介な者は排除するべく動いたであろうが、この異世界より召喚されし者は、我ら古き竜に対抗出来るだけの力を持っておると我は思っている。 もし敵対したとするならば、神の威光感じぬこの者は自身を守る為に、いずれ神の敵となり新たな魔王となって、神々を脅かしうる存在となっていたであろうの。

 

 使い魔の契約を持ちかけたのは、魔力的な繋がりを持ち監視をする意味合いと、記憶を覗く意味合いがあった。

 この契約魔法には、種族の違う知性体同士でコミュニケーションを円滑に取れるよう、最低限の知識の共有が主となる側から行われる術式が組み込まれているので、我の目的と相まって都合が良かった。

 右左の概念がないのに、右向け左向けと言って通じぬ、となると支障しかないからの。

 この時に得られる知識は従の側の魔力の受容限界に比例するが、主側が累積的に魔力を消費する。

 従の側が良しとするまでの知識の共有がなされ、その上でその記憶から伺える人物像を知り、了承が成されれば使い魔の契約は完了するのである。

 共有をした異世界の知識は、我が広く浅く求めたために断片的ではあったが非常に興味深いものであった。

 この者は、非常に高度な教育を受け、こちらの世界で言うところの魔道具の術式を作成する術師であったようだ。

「ゲーム」呼ばれる危険地域で、幾度も竜やモンスター共を打倒する仕事もしておったようであるし、「テレビ」や「映画」という様々な記録や「ラノベ」という英雄譚等を閲覧出来る知識階層の立場でもあったようで、異世界の様子を伺いしれたのは僥倖であった。

 その記録を閲覧した記憶によると、頻繁に侵略を受け、その度に超勇者と呼ばれる超常の力を持った英傑達が戦っているといった国に住んでいたようだ。

 超勇者は身体にピッタリとした色彩のハッキリとした特殊な装備を身に纏い、様々な武装と巨大なゴーレム用いて戦う超勇者や、手から糸であったり硬質な金属の爪、目から放出される光線などの特殊能力を用いて戦う超勇者等、実に多種多様な強者が居たようだ。

 しかし、それほどまでに戦いの多い世界にも関わらず、当人は非常に平和な国に住んでいるという認識を持っていた。

 自身も「VRゲーム」という地域で数々の戦闘を行なっていたにも関わらず平和であると認識している事は非常に不可解であった。


 思わずその辺りの知識を得る為に、少々長く魔力消耗させてしまった。

 我々古き竜は長き時過ごす為か少々生き物としての成熟が非常に遅い。 我も少々自制が足らずに自身の興味を優先させすぎてしまったようで、うっかり、我が受容出来る最大限まで共有を行なってしまったようだの。

 まだまだ知りたい事は尽きなかったが、致し方あるまい。

 ふむ、普通の生き物であったら数百回は枯死しておっても不思議はないほど魔力を使わせてしまったようだの。 

 この者の知識によると「テヘペロ」という状態だの。


 ともあれだ、種族が違うどころか居た世界までも違うのだ。 我にとって不可解なことでも、何か理由があることなのであろう。

 一緒に過ごすうちに、理解も進むであろう。





 先に結論をのべよう。

 前言撤回だ。

 要らぬ騒動を起こして調和を乱さぬ為、使用人と主人という関係を装い、あれからしばし時をトモニ過ごしたが、我の理解が進むことは無かった。

 いや、異世界の魔法や文明的なもの、この世界の人の子等についての理解は進んおるが、生物的にはすでに十分成熟しておるはずなのに、まるで童子のようなこの者が我には理解できない。

 合理性よりも浪漫とやらを選び、痛い目にあっても懲りるということを知らぬ。

 少なからず邪神の影響を受けている為、既に邪神の眷属になってしまって、人格が破綻しているのでは無いかと疑ったりもしたが、その邪神に対して非常に陰険な嫌がらせを実行しているので、ますます理解ができぬ。


 放っておけば、日がな一日怪しげな魔道具を作っておったり、検証だ!といって出かけてはボロボロになって帰ってくるといった事を繰り返しておる。

 目を離せば、リーラ様より賜りし剣をへし折ろうとしたり、素材にしようとしたりと、碌な事をせぬし、邪神狙われておるというのに警戒心も足りておらぬ。


 そして案の定、邪神の使徒に囚われたのか、存在が感じられなくなった。

 どうやら結界か何かに閉じこめられおったようだの。

 すかさず反撃は行ったのか、巧妙に隠れておった邪神の使徒らしき反応を各所で感じ取ることが出来た。

 何をどうやったかまでは解らぬが、潜んでいた邪神の使徒の暴き出しと、無力化を同時に行っておるようだの。

 完全に隔離された状態から、その様な事ができるとは恐れ入ったが、囚われたならさっさと脱出する方に労力を使えと我は言いたい。


「まったく、仕方のないご主人様だの」


 使い魔の契約による繋がりを利用して、連絡を取るための魔法を構築し実行する。


『はい、こちら大人電話相談室、相談員の猫柳田イオリカ雄です。 今日の相談は何でしょう?』


「そんな怪しげなところには連絡しておらぬぞ。 なんじゃ、急に存在が消えたから心配してなんとか連絡を取ってみたら、随分と元気そうだの。 ご主人様よ」


 無事連絡が取れたと思ったら、異相結界に閉じ込められているという。

 自力で脱出させると碌な事にならなそうなので、我が手繰り寄せることにする。

 異相結界内は時間の流れが異なるので、使い魔の特性である魔力の繋がりを利用して当面の食料を送ってやる。

 時間をかけると何をしでかすかわからないので、ここからは時間との勝負となるかの。

 座標を特定し、結界に仕掛けられてるであろうトラップを回避し、こちらの空間に歪みが出ないように魔法の術式を構築する。

 魔力の減衰率を計算し、なおかつ余計なものまで引っ張ってしまわないように強過ぎないよう繊細な調整をしていく。


「おとなしくしておれば良いが、万が一に備えて、魔法強度を上げる術式も組み込んでおこうかの……。 それと、確かビーコンだったかの? その働きをする術式も必要そうだの」


 術式が組み上がり、魔法を発動させる。


「おっと、その前におとなしくしておるように連絡をせねば」


『はい、こちら119番消防指令センターです。 火事ですか? 救急ですか?』


「我の心理状況が大炎上中で、この電話の相手が頭の病かの!? 普通に出れんのかご主人様は!?」


『出れんな!』


「断言するでない! 間もなくこっちに引っ張り出すのでな、くれぐれも余計な抵抗をするでないぞ!?」


 こやつは人をイラッとさせる天才だの……。

 保険をいくつも盛り込んだ魔法を発動させる。

 ぽっかりと目の前に異なる空間の裂け目ができ、余剰魔力によって発光する粒子がスルスルとその裂け目に吸い込まれていく。

 吸い込まれていく粒子は徐々に光を増していき、脈打つように明滅をはじめた。


「いかん! 崩壊しおった! あやつ何をした!?」


 かなり余剰をもたせて術式を組み上げた魔法だったが、その想定を遥かに上回る負荷がかかり、異相結界を巻き込んで崩壊してしまった。

 我は慌てて、魔力を空間の裂け目に叩きつけるように送って連絡をつける。


『ナ○ダイヤルでお繋ぎします。 この電話は20秒ごとに、10円掛かります。 イオリ君に御用の方は1を、マル君に御用の方は2を、案内をもう一度お聞きになりたい場合は3を押してください』


「ええい、緊急時くらい真面目に出れんのか!?」


 問いただしてみれば、やはり余計なことをしておったようだ。

 こうなってしまっては何処に飛ばされるかは神ならぬこの身には到底解らぬ。




 目の前の空間の裂け目が閉じ、連絡つかなくなった。


「使い魔の繋がりはか細いが、まだ感じられておる。 死んではいないようだの」


 幸い、万が一の為に魔法に組み込んだビーコンが上手くマルにしっかり付いているようだ。


「はあ、場所は特定出来たが随分と遠い世界に飛ばされたようだの、これは骨が折れるのぉ……」


 少し考えれば、何かやらかしていることは容易に想定が出来た筈だ。 魔法で引き寄せるのではなく、我が直接そばに行っておれば良かったの。

 コレは童子をしっかり見ておらなかった保護者である我の責任である。

 ひとまず、リーラ様に世界を渡る許可を頂いて、今度は直接迎えに行くとしよう。

竜か龍か統一せねば……orz

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