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幕間 ある領主の子女の回顧録

ある領主の子女の回顧録


 私はコリンナ・ローデンヴァルトと申します。

 王都で魔法について学んでおりましたが、諸先輩方を差し置いて、早々に課程が修了してしまいました。

 なんでも学園開校史上、最短、最年少での修了だそうです。

 これもイオリ先生とエーリカ先生のおかげだと思います。

 とは言え、流石に1年未満での卒業というのは前例がなく、卒業の手続きが進まないのだそうです。

 手続きが進まずに待たされるというのは、お父様いわく「よくある事」で、イオリ先生いわく「大人の事情」なのだそうです。

 よくある大人の事情というのは正直よくわかりませんが、貴族の子女としては理解している振りをしてすまし顔でいなければなりません。


 在席しているのでどの講義に出席するのも自由なのですがイオリ先生の講義以外の講義に出席すると、先生方が微妙な顔をなされます。

 特に実技系の講義で、設備が壊れるからとそれが顕著でした。 

 仕方なくイオリ先生に教わった内容の実証実験をウィル王子と一緒に行ったりして過ごしました。


「そのアンペールとかフレミングとかローレンツ? というのは何なのだ?」


「イオリ先生のお国の偉い魔法使いのお名前みたいですよ? レールガンという魔法を使う為にその方々の発見した法則が必須だとか」


「れーるがん? どんな魔法なんだ?」


「矢の100倍以上の速度で金属片を飛ばす魔法だそうです」


「ひゃ、ひゃくばい!?」




 そんな最中。 イオリ先生の元に女神様がご降臨され、王都や学園中がその話題でもちきりになりました。

 混乱を避けるためとはいえ、イオリ先生講義休講してしまったのは非常に残念でした。

 国としてはイオリ先生を勇者として迎えたいようで、一番弟子という扱いでもある私の元へも、毎日のように様々な方に面会を求められてその対応に追われました。


 それから少し経って私の留学のお話が持ち上がりました。

 王都の魔法学園よりも、魔法により精通した

エイヴィヒバウムというエルフの国への留学だそうです。

 貴族の子女である私が留学をするということは、純粋に教養を身に着けるだけが目的ではありません。 そこに何らかの政治的判断があったのだと思います。

 イオリ先生の講義受けられないストレスから、自習と称し学園にある魔法の的や結界を端から穴だらけにしたり、私を訪ねて来られた高官の方々にイオリ先生に教わった魔法の数々を披露して、修練場半壊させてしまったことと何か関係があるかもしれません。

 エルフの国は極端な実力至上主義だそうですので、イオリ先生の論理実証流の魔法が馬鹿にされないようにより一層気を引き締めていかねばなりませんね。


「粉砕の君がエイヴィヒバウムに留学するらしいぞ」

「まじか、森とか無くなるんじゃね?」

「エルフの結界も穴だらけにすんのかな?」


 平民のクラスメイトが何か言っていましたが、どうやら私以外にも留学する人が居るようです。 どのような方なのか気になりますね。





 エイヴィヒバウムへの道中、盗賊に襲われたりもしましたが、優秀な護衛の皆さんがいらっしゃいますので、恙なく進むことができました。

 船の旅と違って、馬車が先生達と別々なので、少し退屈な旅でした。

 国境を越え、エイヴィヒバウムの首都に該当する世界樹という、それはそれは大きな木がありました。

 事前に聞いてはいましたが、その木の上が街になっているというのがビックリです。

 木に登るためにゴンドラに乗っていく事になりましたが、登っている途中で虫のモンスターの襲撃がありました。

 同行してくれているエルフの兵士の方達が対処してくれるということでしたが、後から登ってきているゴンドラからアリーセさんの矢が飛んでいき、続いてエーリカ先生の魔法の軌跡も見えました。

 まだまだ豆粒みたいな距離に居るのに、次々にモンスターが撃ち落とされていくのが見えました。 流石です。

 せっかくですから私もお手伝いをしましょう。


「ドングリ型の銅で被覆した鉛を45g 右回りに高速回転、内接する長さ2m六角柱状の筒を発動体の射線上に追加、発動体を空間に固定して反動軽減、爆発物質180平方mm トリガーに合わせて発火。 ……メタルバレット!」


 ゴンドラ縁にライヒトリーリエの先を乗せ、照準器を覗いてよく狙って魔法を発動しました。

 ドン、という音と共に私の魔法で作り出した金属の弾丸が目にも留まらぬ早さで飛んでいき、パッと1体のモンスターが塵になりました。


「やった、当たりました!」


「お見事です。 コリンナ様」


 グレイが褒めてくれました。


「あんな年端もいかない少女がドリルビートルをこの距離から一撃!?」

「俺の知ってるメタルバレットっとちゃう!?」

「是非手合わせを……」


 同乗しているエルフの方々に注目されて少し恥ずかしいです。

 先生達ならもっと効率よく出来るのでしょうが、私の魔法は、まだまだ無駄が多く未熟だからです。

 エーリカ先生なら10は同時発動なさるでしょうし、イオリ先生なら1回の魔法で一網打尽にされる事でしょう。


 こちらの被害も無く、モンスターの撃退をして、世界樹の上に辿り着いた所で、エルフ方々に手合わせをしないか?と持ちかけられました。

 どんなに不可解な事でも、住んでいる地域や種族が違えば考え方が全く異なる。 と言う事は小さな頃から叩き込まれております。

 負けてしまう事よりも、手合わせを受けない事の方が評価を下げてしまう結果となるそうですので、ココは笑顔で快諾するのが正解となります。

 こちらに外交で来る方は大変そうですね。


「お手柔らかにお願いしますね?」


 快諾しなければならないとはいえ、万が一と言う事がありますので攻撃魔法を人に向けるには些か抵抗があります。

 不意打ちのようになってしまいますが、イオリ先生に教わった相手を傷つけずに無力化するという魔法をそのまま使わせて頂く事にします。

 何かあった時に最低限身を守る為の訓練はしておりますが、大人の方と対峙するのはドキドキします。


「180デシベル、100万カンデラ、眼前30mの位置、瞬間。 ……フラッシュバン!」


 詳細は存じませんがデシベルは音の大きさ、カンデラは明るさの単位なのだそうです。

 発動させたい場所をよく確かめてから、そこに顔を向けないようにして、手で耳を塞いで口をあけ、目を閉じてから魔法を発動させました。

 一緒に居るグレイやヘンリエッテも、ちゃんと同じ体勢を取っています。


 凄まじい音と光が手合わせとして挑んで来たエルフを襲い気絶させる事に成功しました。

 ただ大変困った事に、その後も次々と手合わせを挑まれてしまいました。

 すぐに後続の皆さんが到着して、そちらに対象が移ってくれたことと、グレイとヘンリエッテが上手く捌いてくなければ、ちょっと大変だったと思います。



 手合わせを上手くこなせたからか、事前に聞いていたよりも非常に丁寧に対応をしていただけました。

 外国からの来訪者には、身分に関係なくこちらの国の様式で対応される筈なのですが、ロットラント王国の様式に最大級配慮がなされた対応をしていただけました。

 滞在中生活の場となる邸宅に到着したその日にイオリ先生が牢に入れられたと聞いた時にはビックリしました。

 心配でこっそり様子を見に行くと、私の部屋よりも豪華な内装の部屋に様々な実験器具や鍛冶設備が置かれた工房でイオリ先生が楽しそうに魔道具を作っていました。

 どうやら牢に入れたれたと言うのは間違いで、研究開発の為に工房に籠もっているだけだったようです。

 お邪魔になってはいけないので、そっと戻りました。



 留学という名目で来てはいますが、貴族である以上、国の代表として来ていることに変わりはないので、各所への挨拶まわりはしなければなりません。

 この国の謁見の作法として、王に向って攻撃魔法を打ち込むというものがあります。

 とてもふるがわりな作法ですが、世界最高峰の魔法結界が張られている為、個人では到底打ち破ることは出来ないそうなので安心です。

 私だけでなく国の評価にもつながるので、どんな魔法を披露しようかと悩みますね。




「王に対し、全霊を持って力を示されよ」


「毎度ロットラントの大使は拍子抜けな魔法ばかりだ、まだ年端もゆかぬ子供故期待はしておらぬが、結界に波紋を立てる程度はしてほしいものだ」


「はい、それではご照覧ください」


 ライヒトリーリエにバイポッドという二脚を取り付け、床に寝そべります。

 私の体勢を見て、傍聴の方々から忍び笑いが聞こえますが、これが一番安定した体勢なので仕方がありません。


「絶縁耐熱シールド展開、シールドにアース、電極2m2本、外側を絶縁体で被覆、弾頭伝導体3g電極に接触する幅でコの字型、装填、直流30メガワット……」


 ふと、論理実証流の物質を発射する魔法は、飛んで行く物質に魔力的サポートを必要としない為に物理攻撃になるとイオリ先生がおしゃっていた事を思い出し、失礼を承知で狙いを少し外す事にしました。

 世界最高峰の『魔法』結界ですからね。


「レールガン!」


 独特の振動音と甲高い破裂音と共に火花が飛び散り、王が座っていた玉座の装飾品が破裂しました。

 魔法結界には親指程度の穴と貫通した際に飛び散った結界の残糸がキラキラと発光していてとても綺麗に見えました。


 場内が静まりかえっています。

 制御が難しいので、飛ばす物を小さくたせいで地味だったからでしょうか?

 静かになって固まってしまったエルフの皆さんがもとに戻るまでしばしの時が必要でしたが、その後は傍聴の方々からの質問攻めと手合わせの申し込みが殺到してしまいました。

 ロットラントの感覚では、王を差し置いてすることでは無いように思いますが、これも文化や作法の違いなのでしょう。


 この時にイオリ先生の話をしすぎたせいか、後日イオリ先生が呼び出される事になってしまいました。

 イオリ先生はずーっと魔道具の研究でお忙しいようなので、余計な時間を取らせて仕舞って申し訳なく思います。

 帰って来たら遊びに……ではなく、謝りに行くことにしましょう。



「館内の警備責任者がいきなりスライムになっただと!?」

「班長も数名スライム化しました!」

「何かの奇病かもしれぬ、付近を早急に閉鎖して、魔捜研を呼べ!」


 はて、外が何やら騒がしいようですね。

 何かあったのでしょうか?

リクエストが多かったので再びコリンナパートです。

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