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206話 異なる世界

すこし遅れました。

 ボッシュートされ、落下していく俺とマルだが、空気抵抗の問題かマルの落下速度が俺よりも遅くだんだんと距離が離れてしまう。

 マルがもきゅもきゅと空中を泳ぐように俺に近づこうとするが、モフモフな毛の抵抗が大きく、焼け石に水なようだ。

 少しでも落下速度を遅くしようと、スカイダイビングのポーズを思い出して手足を広げる。

 ステータスと身体制御のスキルのおかげか、それほど振り回されることも無く、姿勢を安定させられた。


「まらばばばっだっだだだぶっ!」


 マル大丈夫か!と言おうとしたが、とてもではないが声を発する事が出来ない。

 目も物凄い風圧で乾いていってしまい開けているの辛い。

 急いでアイテムボックスから、ゴーグル的な物を探しだして装着すると息苦しさは変わらないが、視界はクリアになった。

 魔法で何とかしようと、咄嗟に風で逆噴射をかける。


「おふっ! あぶっ! あばばばばばば」


 慌てて逆噴射したせいで、重心が偏りくるくると体が結構な勢いで回ってしまう。

 この方法は相当練習しないと、魔法だけで自由に飛ぶとか難しそうだ。

 あ、そうだ、良い物があったじゃないか。

 アイテムボックスからワトスン製ジェットパック型給湯器を取り出して、わたわたと装備する。

 落下中の不安定な状況では、背負うだけとはいえなかなか難しい。

 なんとかジェットパックを背負い、慎重に姿勢を制御して、スロットルを開いていく。

 

「マルどこだ!?」


 降下速度が落ちてきて、余裕が出てきたところで、マルを探して周りを見回す。


「もっきゅうぅぅぅぅぅぅ」


 俺の顔めがけて、白い毛玉が突っ込んで来た。

 あ、コレかわせない流れじゃね?


「もきゅっ!」


「うわあ、もっふもふーって、痛たたた!」


 もふっと顔に、柔らかなもふもふが張り付いたと思ったら、マルが爪を立てて必死に掴んでくるので、顔を引っかかれまくった。


「マル、大丈夫だ。 ハーネスを渡すから落ち着いて俺と自分を繋げ」


「も、もきゅ!(ら、らじゃ!)」


 マルがもきゅもきゅと背中の方に移動してハーネスを繋ぐ。

 もふもふがこそばゆい。

 後頭部に収まりの良い場所を見つけたのか、もきゅりと張り付いた感じが伝わってきたが、やっぱり爪が食い込んで痛い。

 多分ジェットパックに腰掛けて頭にしがみついているのだろう。

 まあ一生懸命捕まっているわけだから多少は仕方がないので、ジェットパックのスロットルを吹かして落下速度を0にする。


「いや、焦ったわー、このまま落ちて行って良いのかわからなかったから取り敢えず飛んでるけど、このあとどーしたもんかな……」


「もきゅぅ?(さあ?)」


 どうしたら良いかわからいので、微妙に途方にくれていると、頭上から黒電話のベルの音が聞こえてきた。


「アレどう見ても俺に向かって落ちてきてるな!? ま、マル! 黒電話キャッチ!」


「も、もきゅっ!(ら、らじゃ!)」


 マルが俺の後頭部から手を放し、黒電話をキャッチしようと背伸びをする。


「ぐがっ!?」


 マルの奮闘むなしく、鈍い音とともに黒電話は俺の頭頂部にクリティカルヒットした。


「もきゅっ!(キャッチしたの!)」


 しばし痛みに耐えながら、マルの報告を聞いた。

 確かにキャッチはしたようだ、俺の頭にぶつかってからだが……。


「ウ、ウン、ソーダネ アリガトウ オカゲデ オトサナイデ スンダヨ……」


「もきゅ!(ど~いたしまして!)」


 俺の頭の上で、けたたましく鳴り続ける黒電話の受話器をマルが器用に取って俺の耳に当ててくれる。


「ナ○ダイヤルでお繋ぎします。 この電話は20秒ごとに、10円掛かります。 イオリ君に御用の方は1を、マル君に御用の方は2を、案内をもう一度お聞きになりたい場合は3を押してください」


『ええい、緊急時くらい真面目に出れんのか!?』


「ちょっと、思わぬダメージ受けたんでな、心に余裕が無かったんだ……。 って、緊急なのか!?」


『余裕しかなかったではないか……。 いや、それはいい。 何もするなと言ったはずだが、おヌシは一体何をした!?』


 パールも余裕が無いのか、ご主人様呼びじゃなくなっている。


「な、何もしてないぞ、慎ましくマルと暮らしていただけだぞ!」


『そんなはずがあるわけなかろう! おヌシが位相結界に閉じ込められた時点と今では随分と魔力量が違うではないか!』


「もきゅ(そういえば、ご主人、ステータス上げてたの)」


 受話器を持っていたマルが、パールに告げ口をする。

 あー、確かに覚悟を決めてステータスを上げたから、当然MPも増えているな。


「魔晶石さえ使わなければ問題無いと思った。 今は反省している」


『くっ、これは大人しくしておれぬ童子から目を離した我が悪かったというのか!?』


 受話器越しにぎりぎりと歯ぎしりの音が聞こえてくる。


「テヘぺ………。 あ、ま、まあなんだ、その……スマン……。」


 何となく殺気を感じて素直に謝っておく。


「で、俺この後どうなるの?」


『わからぬ。 その空間からこちらに引っ張り出す際に、魔力が負荷になるのだ。 そうさの、こちらから引っ張り出す物が釣り竿、ご主人様が魔力分の大きさ魚で、空間に作用する魔力が川の流れと例えようかの……』


「えーと、もし魔晶石の実験してたら、川の流れが濁流になって、針が届かなくなった。 で、針は届いたけど、魚が重すぎて糸が切れたってことか?」


『大分強化したのに糸どころか竿がヘシ折れたわ! もはや何処へ流れてゆくかわからぬ、覚悟だけはしておけ』


「それって、イオリ君の冒険は終わってしまった! 的な展開に?」


『知らぬ。 幸いマルへの糸は千切れておらぬ、これから何処へ飛ばされるか解らぬが、我がなんとしても、その糸を手繰ってみせる! 良いか、何があってもマルを守り抜くのだぞ!?』


「お、おう、任せろ!」


「もきゅーん(ご主人を守るのは僕なの)」


『そうだマルよ。 お前だけがたよりなのだ、コヤツが戻ってこれるかはお前にかかっておる。 決して離れるでないぞ! 』


「もきゅ!(わかった!)」


 あれえ? 俺信用されてないなー、あれえ?


『そろそろ、圏外に入りそうだの。 どうせ大人しくは待っておれぬだろうから、こちらもそのように動く。 必ず繋ぎ直すからマルと、この電話を手放すでないぞ!?』


 黒電話なのに待ちあわせが上手くいかなかった時に携帯電話で話すような調子で話され、プツリと切れてしまった。


「なんか、状況もっと慌ててしかるべきなんだろうが、随分落ち着いてるな」


「もきゅ?(どうするのご主人?)」


 周りを見回すと、真っ黒空間から真っ白空間にすっかり様変わりしている。

 はるか上の方に僅かに空っぽい物が見える。


「なんとなくだが、底がある様に思えないし、あの空から離れる程、帰り道が遠くなるような気がするから、なるべく上昇しよう」


「もきゅ」


 ジェットパックのスロットルを吹かし、上昇する。

 肌に感じる空気抵抗から、それなりの速度で上昇しているはずだが、空が近づいてくるようには見えない。

 空間が歪んでいて、上昇しているつもりなのに同じ所に留まっているだけでは無いのか?

 と若干不安に思いつつ上昇を続ける。


 背中が一瞬ぞわりとした。

 ずっと上を向いていたが、ふと下を見てみると、真っ白空間がジワジワとサイケデリックなウニョウニョとした空間に変わって来ていて、それがだんだんと迫って来ていた。


「あれ絶対怪人が巨大化したりする何とか時空的なヤバイやつだろ!?」


 本能的な嫌悪感を感じ、流石にまずいと思い、ジェットパックをフルスロットルにする。

 何となくだが、アレに追いつかれたら邪神とご対面してしまいそうな予感がして変な汗が吹き出る。


「駄目だ、逃げ切れん! 背に腹は代えられないな。 マル! コイツをジェットパックに使え!」


 アイテムボックスから魔晶石を取り出し、マルに渡す。


「魔石交換時に一旦スロットルを切るぞ、魔石は捨てて構わない! タイミングを合わせろ! 3、2、1、今!」


「もきゅ!(投入完了!)」


 スロットルを切り、一瞬加速が止まった数秒でマルがジェットパックの魔石と魔晶石を交換する。


「GJマル! ぶっ飛ばすぞ! しっかり捕まってろよ!」


「もきゅっ!」


 再びジェットパックのスロットルを開くと、轟音を発しながら凄まじい加速で上昇を再開した。


「どうだマル! 振り切れてるか!?」


「もきゅきゅ!(駄目なの、どんどん追いかけて来てるの!)」


 くっそう、これでも駄目か。

 魔晶石幾つかぶち込むか?

 いや、ジェットパックが壊れるか、マルが加速に耐えられなくなる。

 どうすれば良いか考えろ!

 どうする、どうする!?


「……あっちの空間をぶっ飛ばそう」


「もきゅっ!?(え!?)」


 アイテムボックスから、魔晶石と魔石爆弾を取り出しマルに渡す。


「マル。 それの魔石捨てて、魔晶石を詰められるだけ詰めて俺に返してくれ」


「も、もきゅっ(ら、らじゃっ)」


 本当にやるの? という言外の言葉が聞こえたような気がするが、マルは足場が悪い中もきゅもきゅと作業をしてくれた。


「もきゅ!(出来たの!)」


「よっしゃ!」


 マルが魔晶石を詰め込んだ爆弾をアイテムボックスに収納し数量をカンストさせる。

 自分とマルにありったけの防御をして、アイテムボックスから、魔石爆弾改め魔晶石爆弾を雨あられとばら撒く。


「光になれええええええええい!」


「もっきゅーっ!(きゃああああ!)」


 一瞬目をつぶっても無意味なほどの強い閃光が走り、サイケデリック空間に飲み込まれた魔晶石爆弾が、爆発するのではなく何かと反応しているのか七色に発光して、空間を上書きしていく。


 サイケデリック空間が七色空間に上書きされて行くと、ズボっと何かを突き破った様な感覚があり、風景がいきなり現実味を帯びた。

 上昇を続け上空から見た風景は、一面の青空と、浮遊する数々の島や岩が浮かぶ世界だった。

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