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205話 女子力高い鼠

 真っ黒な空間にポツンと存在する、昭和なアパートのような和室風拠点に、吸排気の音を響かせ、動作試験用のミニチュアゴーレムが動き回っている。

 ミニチュアゴーレムは確パーツのジョイントを規格化して、好きなように君合わせをが出来るように作ってあるので、マルでも組わせて遊ぶ……もとい、試作が出来る。

 流石に何百とパーツを作ってはいられないので、各パーツの肝となる部分等は、ベースパーツを作っておいて、その都度錬金術のスキル使って作り込んで行く。

 技術的な面でミニチュアを自由に空を飛ばす事が出来ないため、形だけ円盤状にして動作確認用にとりあえず車輪を付けてあるマルからのリクエストパーツは、実際に組んでみて、俺が組んだ物とマルが組んだものでは、全く様相が異なった。

 俺が、円盤中央部分に二脚型のゴーレムを合体させ、高速な遠距離移動をするユニットとして試作をしていたら、マルは円盤下部に窪みをつけ、ガトリングガンを取り付けようとしていた。


「まさかロマン部分を捨て、より実用的な対地用のドローンを作るつもりか!?」


 空を自由に飛べるモンスターよりも大多数のモンスターは飛べないのだから、空中から一方的に攻撃が可能な対地特化のゴーレムは、有効であろう。

 ゴブリン程度なら、ミニチュアのままでも制圧出来しまいそうだ。

 ドキドキしながらマルの作るミニチュアゴーレムを見守っていると、作ってみたは良いが、実際にどう使って良いか困って放置していた円錐型のドリルアームをもきゅもきゅ取り付け始めた。


「そこにロマンドリルをぶち込むだと!? もしや近接攻撃も可能にしようと?」


 円柱型の腕をなるべくフォルムを崩さずにスムーズに曲げる為のボールジョイントを試作していたのだが、マルが組んでいるミニチュアゴーレムが気になって仕方がない。

 最終的にのゴーレムは、6mのサイズを想定しており、ミニチュアゴーレムは、だいたい20cm程度の大きさになっている。

 しかし、マルが欲しいと言った円盤のサイズは直径が35cmの物だった。

 縮尺がよく解っていない可能性も考えたが、他のミニチュアを見ているので、大分大きいという事は解っているはずだ。


「もしや、積載量か安定性を求めて?」


 もし、原寸でこの円盤を作ると直径10m以上のサイズになるので、サイズ的にゴーレムの頭を出すことなく、完全に収納が可能になる。

 空気抵抗や積載量を考えると、俺が今は作ろうとしているものより、現実的な設計かもしれない。


「もきゅ!(できたの!)」


 俺が考察に時間を割いている間に、マルはミニチュアゴーレムを完成させたようだ。


「もっきゅーん(すいっちおーん)」


 円盤の中央にあるスイッチをマルが押すと、スイッチ付近に設置した魔石から魔力が消費されほのかに発光する。

 吸排気の音が大きくなり自走を始める。

 よく見ると、取り付けたドリルの先に刷毛がついていて、せわしなく回っている。

 円盤のミニチュアゴーレムは、そのまま真っすぐ部屋の中を進んで、壁にぶつかると、くるりと方向転換した。


「ル○バじゃねーかー!? え? まさかのお掃除ゴーレムって事!? ガトリング何に使ったの!?」


 ル○バを捕まえてひっくり返すと、ガトリングの砲身にも刷毛がつけられており、砲身の回転でゴミを搔き込むようになっていた。


「もきゅ(お出かけしている間にお掃除してくれるの)」


 ミニチュアではなく、まさかの完成品である。 しかも平和利用な上に、明日からすぐにでも売りに出せる実用品だった。

 何だろう、戦闘ばかり考えていた俺は、人としてマルに負けた気分である。

 それも、もの凄くだ……。


「……」


「もきゅーん?(どーしたの?)」


 マルをひょいと持ち上げて、ル○バの上に乗せた。

 そのまま、ル○バはぶぉーっという音を響かせ、ときにくるりと方向転換しながら、掃除を開始した。


「……マル○バ……」


「もきゅー!(ご主人、これ面白いの! 面白いのこれ、ご主人!)」


 部屋の隅々まで、部屋を掃除すべく、颯爽と進んでいくマル○バの背中を見送り、今日のところはもう切り上げて寝ようと決めた。

 断じて不貞寝ではない。

 真っ黒空間から出られたら、女性陣の居るところで、マルにごはんの支度をしてもらおう。


 寝る前にマルが作ってくれたデザートは生クリームたっぷりのとても優しい味のケーキだった。


「やべぇ、なんだこれ、なんか涙が出るような美味さだ……」


 しっとりとしたジェノワーズ、酸味の強い苺に似た果物が、甘い生クリームと絶妙なバランスで口の中に入ってくる。

 久々に食べたケーキは、非常に美味かったが、パールが送ってくれた食材にミルクはあってもクリームなんて無かったはずだ。

 曖昧にしか覚えていないが、生乳からクリームを作るのも、クリームをホイップするのも手作業では時間もかかるし、大変だったように思う。

 そんな苦労をしてまで、このケーキを俺の為に作ってくれたというのか!?

 思わず、マルをモフモフしてしまう。


「もきゅ!(ご主人、あれを使ったからそんなに大変じゃないの!)」


 マルが指し示す方をみたら、ミニチュアゴーレム用のガトリングガンの先に泡立器が取り付けられた物と、ガトリングガンの銃身に水袋が二つぶら下げてあった。


「……自動回転泡立器に遠心分離機だと!?」


 確かにミニチュアゴーレム用のガトリングガンの銃身はちゃんと回転をするように作ってあるし、戯れにホーリーメタルで作っているので、強度もバッチリだ。

 いや、発想はすばらしいが、それガトリングガンで作る必要があったのだろうか?


「マル、泡立器も遠心分離機も普通につくるから、欲しいものがあったら遠慮なく言って良いんだぞ?」


「もきゅ(ご主人のお邪魔したくないの)」


「マルが邪魔だとか思った事ないぞ。 お前はもっとわがまま言って良いんだぞ?」


「もきゅきゅ(十分ご主人には良くしてもらってるの、美味しいご飯もいっぱい食べられるの)」


 だから、ご主人はご主人がやりたいコトをやって良いの! と言ってくれたマルに、心の中で便利家電に成り代わるマル用の魔道具を一式作ることを誓ってモフった。


 翌日。

 魔石で回る回転ユニットと素材となる金属類を用意し、回転速度が選べる泡立器、フードプロセッサー、ジューサー、ホーリーメタル製のフライパンと圧力鍋、オリハルコンの三徳包丁、オーブン、食器洗浄機をすべてマルが使いやすいサイズで作り、さらに拠点を拡張してマルのサイズにあわせたシステムキッチンを作ってみた。


 やりたい事をやれと言われたのでやった。

 妙に清々しい気分だな。


「もっきゅーん(ありがとうご主人ー! 大好きー)」


「そーかそーか。よしマル! 結婚してくれ!」


「もきゅ!(や!)」


   

 まあ、そんな感じで過ごした真っ黒空間でのマルとの蜜月は過ぎていって、幾つもの試作品を作り、残骸を積み上げ、ミニチュアゴーレムはミニチュアゴーレムで、このままのサイズでも結構使えるという事と、原寸にした時に2足歩行が非常に困難であるという結論に達したあたりで、拠点の黒電話が再び鳴った。


「はい、こちら119番消防指令センターです。 火事ですか? 救急ですか?」


「我の心理状況が大炎上中で、この電話の相手が頭の病かの!? 普通に出れんのかご主人様は!?」


「出れんな!」


「断言するでない! 間もなくこっちに引っ張り出すのでな、くれぐれも余計な抵抗をするでないぞ!?」


 受話器越しにツバが飛んできそうな勢いでパールが怒鳴ってくる。


「おお、やっとか。 それでこっちは何もしなくて良いのか?」


「そこに残っておるものは、回収出来んから、要らぬもの以外はアイテムボックスに収納しておくと良い。 ただし、不要でも空間に何らか作用を及ぼす魔法や魔道具、魔晶石や大量の魔石などの魔力を多く含んだ物などは収納しておくのだぞ?」


「わかった、片付けの時間をくれ」


「2時間で支度せよ、こちらでは瞬く間しかないので連絡は出来んから、余裕を持って待機しておるのだぞ?」


「りょ」


 電話をチンと切って、振り返りマルに告げる。


「マル! 帰り支度だ!」


「もきゅ!(らじゃ)」


 ぶおーっとゴミを吸い込みながら、発進するマルン○と約一ヶ月程過ごした拠点を片付けていく。

 拠点構築に使ったアイテムは木材が使われているのでアイテムボックスには入らない、その為ココに放置していくしかないが、マル用の家事魔道具類はオール金属製なので、すべて回収していく。

 試作ゴーレムを作ったときに、失敗したパーツ類やテストでぶっ壊したパーツの残骸も、魔石をけっこう使っているので最後にそれらを回収をして撤収作業を完了する。


 家具は少し残っているが、がらんとした部屋で、マルと待っていると地震のような揺れがあった。


「始まったのかな?」


「もきゅー?(かなー?)」


「揺れるとなると、外で待機しといた方が良さそうだな。 耐震でもなんでもないから」


「もきゅ(ひなーん)」


 マルと外に出て、倒壊しても大丈夫なように拠点から少し離れると、さっきよりも大きな揺れを感じた。

 揺れに耐えられなくなった拠点が、コントのセットのようにパタパタと倒れた。

 まあ、実際セットみたいなものだったけど、外に出といて正解だったようだ。


「もきゅ(ご主人、あれ見るの)」


 マルが上を指差しているので、見上げてみると、黒い空間に白いヒビが入っていた。

 ヒビは徐々に広がり、中央付近から黒い破片が羽の用にヒラヒラと飛んでいき、その向こう側に青空が見えた。


「おー、なんかカッコイイな。 40万以上するサードパーティのプラグインを使った映像みたいだ」


「もきゅーん?(さーどぱーてぃ?)」


「なんでもない、ただの職業病だ」


 空を見上げていたら、ふっと浮遊感を感じた。


「そっち注目させといて、落ちるんかーい!?」


 見上げて居たら地面が無くなって落とすとか、そんな仕込み要らんだろ!?

 落下速度が加速度的に上がるにつれ、地面だった物だと思われる黒い破片がベシベシと当たって痛い。

 

「もっきゅー?(コードレスバンジー?)」


「それはただの飛び降りだー!」

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