200話 罠
いつ頃から王が入れ替わってるのかは不明だが、俺への対応が従来通りだったらしい所をみると、そこまで前から入れ替わっていたわけではなさそうだ。
五体投地と転がり挨拶でごまかしている間に、コイツのコードはゲットしたので、サイドの傍聴席だか観覧席だかに座っているヤツらも素早く確認をしていくと、その内の1人もシェイプシフターが混ざっているのを確認した。
3人目が見つかったことで、内心ではニヤニヤが止まらない。
普通に礼をしたのでは悠長に周りを見渡せないからな、別におちょくる目的で転がってるわけではなく、全体を見渡すのが目的だったのである。
……まあ、全くフザケる気が無かったのか? と問われたら、ちょっとはあっけど。
しかし、これだけ短時間でコードがゲットできたのは、くっころのカーミラと、下4桁以外の部分が全く同じだったからだ。
偶然が重なっていなければ、末尾4桁は4の倍数だったので、あとはコードを4ずつ足すか引くかしてやれば、一網打尽に出来るというわけだ。
邪神の使徒が全部シェイプシフターかどうかは、まだ判断出来ないが、少なくとも面倒くさい能力を持った使徒を無力化出来るというのは大きい。
3回ほど五体投地お呼びコロコロを繰り返し、いつでも変更出来るようにして、礼は終わりましたよーと、ジェスチャーで示すと、あからさまにホッとした表情になったじーさんエルフが、偽王になにやら耳打ちをした。
終わったようだと伝えたみたいだな。
何を企んでいるのか解らないから、とりあえずは話を合せて、しばらく様子見だな。
「なかなか、興味深い作法であったが、何処の国の出身か?」
第一声がそれかよ、って邪神の使徒なら俺が異世界人だって知ってるんじゃねーのか?
まあいい、本物の王なら聞いてきそうな事を言っているだけかもしれないし、普通のエルフも居ることだしなんて言うのが良いかな……。
「恐れながら申し上げます。 私、イオリ・コスイは、ここより遥か遠い、天の川銀河太陽系第三惑星地球より、転移事故によってこの大陸へとやって参りました。 先程の礼は五体投地礼と申しまして、両手両足と頭、即ち5体を地につけ、これ以上下に下げる事が出来ない所まで身を下げるという最高礼なのです。 何分貴国での礼儀作法を存じない田舎者ゆえ、ご容赦くだされば幸いに思います」
どのように翻訳されて伝わるかわからないが、嘘を判別する魔法や魔道具的なものを警戒してこの様に言っておく。
王に嘘をついたので死刑! とか言われても不思議はないしな。
正しく伝われば自分は宇宙人だと言った事になるが、伝わらなければそういう名前の国として勝手に解釈するだろう。
何でも知っているエーリカも銀河とかは知らなかったので、たぶん後者として伝わっているはずだ。
ぶっちゃけ五体投地の作法なんて知らないので、抵当にやっているし、由来的なものもそれっぽく適当に言ってはいるが、五体投地が最高礼である事は間違いなく本当のことなので嘘ではない。
じーさんエルフがまた偽王に耳打ちをする。
そーいやレベル1だけど聞き耳スキル持ってたな。 ちょっと良く聞いてみようか。
『……につい…は、嘘は言っていないようで御座います』
お、うっすら聞こえた。
警戒しておいて良かったな、魔法か魔道具かはわからないが、じーさんが嘘を判別しているようだ。
今後の会話は気を引き締めていこう。
「よい、作法については他種族であるそなたに言及するほど狭量ではない」
偽王に許可は貰ったので、いきなり無礼討ちって事は無くなったか。
一瞬全裸になって、急所を晒す事が最大限の服従の証です! とかやろうかと思ったが、何かあって脱出する時に流石に困りそうなので自重した。
「そなたには、今代に入り作り上げられた、我が国最高峰、いや世界最高峰の結界を、ごく小さな穴ではあったが見事に魔法によって穿った、コリンナ・ローデンヴァルト嬢の師であるそうだな?」
簡単に穴が開いてる時点で、何が世界最高峰なのか解らないし、その程度ならば魔晶石放り込んだなんとかラートアーの方が強そうだ。
少しビビらせとくべきか?
「はっ、弟子と称するには身分が違いますが、教師として教鞭をとらせて頂きました。 まずは、王に向かって攻撃魔法を放ち、力を示さねばならないと聞いておりますので、私も早速、やらせて頂きます。 師として恥ずかしくないよう結界接触時の威力を、コリンナ様の放った魔法の約1000倍程度の魔法を放ちますので、世界最高峰ならば問題は無いかと存じますが、万が一が無いように結界は最大出力にて受けて頂くよう、お願い致します」
とりあえず、話は聞かない方向で行こう。
「え? 1000倍?」
「こ、この者、本気で言っております!」
「えー、ご尊顔の辺りを狙うのが通例でしたよね? コリンナ様が使われた魔法は、簡単に言えば木の実程度の重さの礫をローレンツ力によって高速発射する魔法です。 ですので、木の実ではなくレンガを発射させて頂くイメージで想像していただけたら、わかりやすいかと思います」
言っといてなんだが、これ実行したら自爆要素満載だな。
大分頑丈なシールドが必要そうだし反動も過ごそうだ。
適当に飛翔体の重量が1000倍だから嘘じゃないけど1000倍の運動量ってなると、どの位電気流せば良いか流石に暗算じゃ算出が出来んな……。
あーそうか、無理してレールガンにすることもないか、滑空砲とAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)あたりで後の壁でもぶち抜いてやれば良いかな?
いや、駄目か偽王はモンスターだから平気かもしれんが、じーさんが音と衝撃波でぽっくり逝ってしまうかもしれん。
大分威力は下がって面白くないが、サンダーボルトの魔法ってことで30mm徹甲弾あたりを毎秒65発くらい撃ってお茶を濁すか?
「ま、待たれよ! その通例は外交上の場合のものだ。 本日はその魔法の理論などについての学術的話をするだけだ、だから、待たれよ! 非常識な量の魔力を練るでない!」
なんかじーさんが、必死な様子で待ったをかけた。
魔力も見えるのかこのじーさん。
法螺話だと思って、やれるもんならやってみろ的な展開が理想だったのに、嘘を判別されるとなると、逆に本気だと言うこともバレてしまうのは厄介だな。
今何か偽王にすると、俺が疑われるってわけだな。
「では、論理実証流の魔法について、概要の解説をさせて頂けばよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、それで構わぬ」
黒板も実験用具も無いので、口頭で説明するだけになってしまうが、謁見って王を放置して横のじーさんと話す所なのだろうか?
なんか、俺の知ってる謁見と違うな。
こういう話をするなら会議室的な所の方が良いんじゃなかろうか?
偽王が稀に口を挟んで来るだけで、ほぼじーさんと話をしているような感じで、時間が過ぎてゆく。
しかも、だんだん口頭試問っぽくなってきてるし、立ちっぱなしなのにじーさん元気だな。
敵方に手の内を明かしているような物でもあるので、踏み込んだ所までは話していないが、気がつけば、1時間ほどじーさんと話し込んでいる。
傍聴席っぽい所にまばらに居たエルフも邪神使徒奴以外いつの間にか居なくなっていた。
「……では、我々にはハッキリと見えており、力を貸してくれる精霊の存在を否定するのかね?」
「否定はしていません、足りないと申しただけです。 例えば既存の精霊の扱い方では水の精霊で火をつけることは出来ませんが、水を水蒸気にし、物体の発火点まで温度を上げれば、水で火をつけることが可能なのです。 また、各精霊の扱うものの質量の差も問題が……」
「もうよい。 そこまでにせよ」
偽王からストップがかかった。
「十分に理解出来た。 そこなる者、精霊を否定する危険思想の持ち主であり、禁呪を使用する邪術師である。 よって、我が国の法に照らし合わせ身柄を拘束、追って沙汰を出す。 捉えよ」
「え、禁呪? あ、そういう口実か! え、ってことは、また牢屋に入るん?」
予想はしていたが、最初から難癖つけて俺をとっ捕まえるつもりだったのだろう、明らかに待機していたと思われる立派な鎧を着た衛兵がドヤドヤとなだれ込んできて、あっという間に取り囲まれた。
「奴は、禁呪を使うぞ、異相結界の最大使用を許可する! 人とは思うな、こちらがやられるぞ!」
異相結界? 何その胸熱ワード! ちょっと解析させてー。
等と思ってしまったのが仇となった。
余裕でトンズラ出来たのだが、それに気を取られたせいで、初動が遅れてしまった。
「第一から第七術式解放! 略式起動最大出力! 総員発動に備えよ!」
一糸乱れぬ動きで、衛兵達が手に持った銀色のルービッ○キューブの様な魔道具を、縦に引っ張る。
キューブが半分に分解され、中から、うにょーんうにょーんと発光する何かが出てきた。
その次の瞬間、そのうにょーんうにょーんが俺の周りを取り囲み、1秒と掛からず、ソレが球体になってとじこめられた。
「あばばばばばばばば」
「もきゅきゅきゅきゅ!?」
電撃とは違うが、それに似たような衝撃が全面から走った。
ぐっすり寝ていたマルもビックリして起きてしまった。
ただ、痺れはするがダメージ的なものは感じない、肩こりとかが治りそうなくらいだ。
これなら別段耐えられるかな? とか思った矢先。
ふわりと身体が宙に浮いて、うにょーんうにょーんが高速回転し始めた。
「うおえぇぇ、気持ち悪い」
「もきゅぅえぇ……」
視覚情報と体が受ける力情報が一致しないせいで酔うというやつだな。
とりあえず、マルだけでも守ってやらねば……。
アイテムボックスから課金アイテムの効果の高い防御力を上げるポーションとお馴染みハイコンディションポーション、全快アイテムのエリクシールを取り出してマルと自分に使用する。
ハイコンディションポーションのおかげで気持ち悪るさも緩和される。
「もきゅーぅ」
マルも落ち着いたところで、外見えないし、この取り囲ん高速回転している謎の発光物体を解析するか。
「うわたっ、今度はなんだ!?」
解析しようと思ったら、ふわふわ浮いていたのに、突然地面に落ちて、尻餅をついた。
悪態をつきながら周りを見回すと、ついさっきまであった謎の発光物体はどこにも無く、真っ暗な空間が広がっていた。
200話なので何か特別な事をーとか思いましたが、そこまでお話が進みませんでした
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