196話 そんな事より
元の世界にいた頃の自分の考え方や行動を思い出し、今の自分と比較をしてみたが、そこまで違いはないと思っていたが、それはVRゲームをやっているときのプレーヤーとしての行動であったということに気が付いた。
リーラ様は調和を司っているだけあり、七つの大罪的な欲を認めている。
これらはバランスの問題で、生き物が生きる上で必要なものと考えていて、適者生存の観点から悪いものとはしていないということだった。 寛大だな。
そのリーラ様からすると、今の俺は生き物としてずいぶんと歪だそうだ。
痛みを伴う為、多少は慎重になっているが、実験する自身の危険性をあまり考えていない、スキルの検証や安全性皆無な魔道具や武器の作成等々、言われてみればVRゲームをやっているときの感覚の方が近いように思える。
それに加えて、その気になれば1週間程度徹夜も苦ではないし、食事に関しても、この世界に来てからだんだん執着が無くなってきたと思う。
チートによりHPもスタミナも減らないからこそ、そう言った面が出ているのだとも言えなくもないが、こちらの世界にくる前の自分と比べると変わりすぎである。
何より違うのが、アリーセを含めてある意味可愛い女の子に囲まれた状況であるというのに、あまりムラっとしないという点であろうか?
そもそも、子供じゃあるまいし、ちょっと胸が当たったとかスリーサイズがわかった程度で満足してしまったりするのもおかしい。
健全な成人男子であれば、本来もっとイヤーんでアハーンなことを望んだり、それが叶わなければ悶々としたりする筈だ。
そのくせに、魔道具の作成であるとか、魔改造であるとか、今やっているゴーレムの解析等は、寝食を忘れる程やっていたりするし、嫌がらせ等は徹底してやらないと気が済まない時がある。
ふむ、改めて確認してみると確かに歪だな。
リーラ様に指摘されるまで、このことに全く気が付かなかったこともおかしい。
俺の召喚が最後まで失敗せず、邪神の思惑通りになっていたら、と思うとゾッとする。
「自覚はできましたか? あなたにとっては酷な話かもしれませんが……」
「あ、はい。 で、コレって治ります?」
「否です。 下手に治しますと、良くて欲望が抑えられないダメ人間、高確率で廃人、最悪の場合死に至ります。 ですが、どうしても、という事でしたら治しますが、どうしますか?」
「治さなくて結構です!」
流石に一時的な意味での廃人にはなりたくない。
「さて、そろそろ時間ですね。 最期になりましたが、この国の王にはくれぐれも注意をしてくださいね」
「え、ちょ、そんな尻切れトンボみたいに!? ってか、ちょっと待ってください、今言った話の詳細を……」
言い終わらないうちに目が覚めた。
いや、もちろん二次的な意味ではなく物理的に目が覚めた。
最期にしれっとリーラ様が何やらフラグを立てて行ったような気がしたが、今のところエルフの王とかに会う予定は無いから、機会があったらその時に考えよう。
わざわざリーラ様が言ったってことは、どうせ邪神絡みだろうし。
「腹いせにもろもろの原因を作った邪神への嫌がらせは随時考えておこう……」
ふむ、客観的に考えれば、今の自分の状況は、恐れるなり拒否感なり怒りなりの感情が湧きそうなものだが「何となくムカつく」程度にしか思わないな。
自分のことなのに、ゲームや映画の登場人物の話を聞いているような感じで受け止めていると再認識をした。
「そんな事よりリーラ様が何をくれたのかが気になって仕方がないというのは、我ながら終わってるな」
ゲームをしていて主人公の不幸話があった後に、レアアイテムをゲットした時の気持ちと一緒だなこれ。
改めてベッドの周囲を見回すと、枕元に無色透明のガラス玉のような宝石が落ちていた。
「レアアイテムキター!!」
ついさっきまでの、憂鬱なようでちっとも憂鬱に感じない話の事など、すぐにどうでも良くなってしまった。
神にもどうしようも無いことなら、考えるだけ時間の無駄だし、自分がどんな人間か? なんて、何も無くてもどの道一生のテーマだろう。
別に今困っていないのだから、今の自分は今の自分として割り切って受入れた方が建設的だと、俺は思う。
悩んでも禿げるだけだし、気にしない、気にしない、毛にしない……。
「よし、毛を……、じゃなかった気を取り直して、さっそくコレの鑑定と解析だ!」
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ホーリークリスタル
神秘の力を秘めた聖なる結晶。 神輝石とも呼ばれる純粋な聖属性の魔石の一種。 自然界やダンジョンで見つかることは無く、稀に教会や神殿で神々より賜ることができる貴重な結晶。
完璧な球体をしており非常に硬い。
破壊は不可能とされている。
「邪」を寄せ付けない強力な効果がある。
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(エラー コード、4、9、8、9)
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「うお、解析ツールがエラー吐きやがった!?」
デン! という効果音とともに、解析ツールのウインドウに、ポップアップでエラーのダイアログが出てきた。
これは「邪」を寄せ付けない効果とやらで、解析ツールを弾いたってことだろうか?
となると、パラメータを弄ることも、増やす事も出来ないってことか……。
レアアイテムで一気に上がったテンションが、急降下である。
「そういえば、俺の身体って、ある意味邪神ナイズされてるんだよな? これ、持ってて大丈夫だろうか? 持ってるだけで、だんだん衰弱とかしないかな?」
恐る恐る、ホーリークリスタルを指先でつつくが、そのくらいでは特に何も起こらないようだ。
よく見るとほのかに発光しているようにも見える。
「とくに苦しくなったりとかも無いな……。 アイテムボックスに収納できるかも試してみよう」
宝石類ならば無機物のはずなのでアイテムボックスに収納が可能なはずだが、一部の珊瑚や真珠、琥珀等は有機物なので、もし生物由来の物だった場合はアイテムボックスに収納が出来ないのである。
そもそも、神様がくれるものとか、なんの物質で出来ているかもわからない。
「ああ良かった、アイテムボックスには収納出来たか……」
邪神とか、その使徒とかには絶大な効果がありそうだ。
魔石の一種なら、使いみちはいろいろありそうだが、一つしかないとなると何に使うかが悩みどころだ。
数の確保に関しては、パールを通して魔晶石と交換が出来ないか交渉してみても良いかもしれない。
「とりあえず、アイテムボックスの肥やしにしても仕方がない。 安直だがホーリーメタルで台座作って身に着けられるように加工しておくか?」
実験が必要だが、解析ツールを弾くくらいなので、持っているだけで邪神関連に対するバリアみたいな使い方が出来そうな気がする。
世界にこれ一つだけってわけでも無さそうだから、あとでエーリカにどう使われているのか聞いてみよう。
「ああそうか、破壊不可じゃなくて、破壊は不可能とされているってだけか。 じゃあ、コイツを半分に割……」
「なにをするだぁー!!ご主人様よー!」
バーン! とドアを勢い良く開け、パールが突っ込んできた。
「うわあっ!? ビックリしたぁあ! って、なにをするだぁーって、おま……」
「そんな予感がしたので来てみれば、神より賜りしものをさっそく壊そうとしておるとは何事か!」
「え? えーと、邪神のせい?」
「自覚が出来たのならば、巳自身の問題であるわ! 良いかご主人様よ、5歳の童子でもあるまいし、なんでも壊そうとするのは……」
この後数時間ほど、パールにがっつり説教をくらった。
当然床に正座である。
「それで、ホーリークリスタルをそんなにたくさん欲しいとか、何に使う気だったのだ? 怒らぬから申してみよ」
「え、真球で硬いとか、耐摩耗性に優れたボールベアリングに……」
この後更に説教が半日追加されたのは言うまでもない。
機械も道具も無い状態で真球作るの大変なのに……。




