194話 ドン引かれ
「一体どういう仕組みになってるのよそれ!?」
アリーセが邪神への嫌がらせ魔道具について叫ぶように聞いてきた。
「いや、そう難しい物は作ってない。 基本的な構造は同じだと聞いたので、ば……ゔぁ……、えーと、なんとかラートアーみたいな結界発生装置の攻性特化超小型結界付加装置をワトスンに作ってもらって、俺が魔改造、量産、そこからパールに頼んで世界結界の結界部分にくっつけてもらっただけだ」
パールがどの様に世界結果くっつけたのかは不明だが、当然性能面ではチートを行ってバッキバキに高性能化しているし、量産もアイテムボックスを使っているので作ったのは実質一個だけだ。
増殖機能をもたせようとしたのだが、際限なく増えて世界が崩壊してしまいそうなのでそこだけ自重して、合間合間にアイテムボックスで64個ずつコツコツと増やしている。
「一個の強力な物を作るより、細いのが大量にある方が対処が難しいので、この様にしてみた。 自爆装置や停止スイッチを付け忘れたので、何か問題が起きても除去も対処不可能というのが最大の欠点だな!」
「ええ!? それって大丈夫なの!?」
「邪神とか異界の神とかにしか反応しないから、困るのはそいつらだけで基本的に問題ない。 それに問題があっても神なら根性でなんとかしてくれるだろ。 まあ、刺すような虫がプールに溢れてて、そこに飛び込んで泳げって言われるようなもんだから、俺だった全力で拒否するな」
アリーセが虫いっぱいのプールを想像したのか、顔色が悪いようだ。
神なんて存在は痛みを感じる経験が極端に少ない為、有効性は非常に高いだろうというパールのお墨付きを頂いている。
眷族や使徒は正直な所、素通りしてしまうので、ちょっかいは今後もかけてくるだろうが、ただの嫌がらせなので、今回はこれで良しとしている。
それに万が一暴走したとしても本体に停止スイッチは無いが、コードはしっかり記録してあるので、トラブルがあったら耐久を0にしてやれば全部壊れて無効化させることが可能だ。
記憶を覗くようなスキルがあることがわかったので、この事を知っているのは俺とパール、をしてリーラ様だけである。
「邪神ともなれば、時間の感覚が俺らと違うだろうから、長ーい時間をかけて地道に使徒が1個ずつ撤去作業をするかもしれない。 その可能性も考えて、自己防衛装置に状態異常無効解除、鈍足と不器用、HPにMPドレインの状態異常をSランク並の強さで秒間3回程度放ち続ける仕様にもなってるんだ。 ずっと留まらない限り死にはしないだろうから、これも嫌がらせだな」
状態異常はドワーフが一晩かけても酒の瓶の蓋が空けられなくなる程度に遅く不器用になって、ドレインも死ぬまでには何時間もかかってしまう程度の状態異常だからかなり省エネでもあるんだ! と説明したら、アリーセは引くだけなく、距離まで取られた。 解せぬ。
「いや、ほら。 倒す! とか倒せなかったか封印だ! とかしなくてもさ、もう二度とくるもんか! って思わせたり、何かしてくる回数が極端に減れば結果として一緒だろ? 誰も生命をかけて何かする必要もないし、片手間で邪神の対処が出来るなら万々歳じゃないか!?」
「片手間って……神相手に……」
ちょっと空気が悪くなった気がしないでも無かったので、取り繕うようにそう言ったのだが、曖昧な笑みを浮かべたアリーセは、更に俺から離れた。
「アリーセだって、言ってたじゃないか、私達は勇者や英雄じゃないって。 冒険者らしく効率重視しただけだぞ。 完全に対処不可能ならば諦めもつくところを、対処が不可能ではないという点もポイントなんだ」
「……育て方間違ったのかしら……?」
失敬な奴だな!
「そ、それはそうとして、あの逃げた使徒が居たじゃない? イオリのことだから何かしたんでしょ?」
「ああ、くっころのカーミラとかいう奴なら、大した事出来ないだろうから大丈夫だぞ」
「く、くっころ? 大した事出来ないって何したのよ?」
流石にくっころネタはパールにしか通じないか。
「以前マックスにした事と一緒だよ、スキルレベルを0にして、ステータスをレベル1の一般人並にしてやったんだ」
ドヤ顔で言ってやるが、アリーセの顔色は優れない。
「え、どうやって……?」
あ、他はともかくチートツールの存在については、俺自身が人を信じられなくなりそうだから、詳しくはアリーセにも伝えていないんだった。
お金や魔晶石をカンストするほど持ってて、更にいくらでも増やせるなんて言ったら、白目剥いて倒れる可能性もあるし、アリーセのそんな姿は見たくはないし……。
「えーと、アレだよアレ! ほら、なんだーその、そう! 邪眼だよ!」
かろうじてマックスに言った設定を思い出したので、その設定を使う。
まあ、嘘くさいことこの上ないがはぐらかすにはいいだろう。
「じゃ、邪眼!?」
「そ、そうそう、別に隠していたわけじゃないが詳しく聞かれなかったらさー、あははは」
ツッコミを受ける覚悟を決めて、取ってつけた邪眼の設定をアリーセに語って聞かせる。
怒りで暴走しそうになって、必死に鎮めたりしないといけないとか、冗談っぽく中二病な設定たっぷりで説明してみた。
「そ、そんな邪悪な力を秘めていたなんて……」
おや? はぐらかすつもりだったが信じてる風味だぞ?
「まあ、俺くらいの邪眼使いになると、見ただけで殺す事も難しくはないな! ほら、エンシェントドラゴンやベヒーモスも一瞬で倒したろ? 邪神の使徒とやらは情報が欲しかったから、生かさず殺さずにしといたんだよ、はっはっは」
言ってから気がついたが、信じられたら危険人物だし、デマカセがバレたらただの痛い人だなコレ……。
「そ、その呪い? ってどの位の期間有効なの?」
「有効期間? たぶん永久に変わらんから安心してくれ。 こっちの命を狙ってきたんだから、もとに戻してやる義理もないしな」
通常チートツールでアイテム数やステータス等の数値をいじった場合、そのままセーブすると、ツールの効果を切ってもそのまま残る。
俺のHPやスタミナ減らない的なものは、ツールの効果を切ればその時点で効果が失われるのである。
俺がいじったくっころのカーミラのステータスは、俺が元に戻さない限り、経験値を稼いでもずっとそのままで、効果を切ってもそこからレベルアップのし直しとなるのだ。
「……というわけで、万が一俺が死んでも、1からやり直しになるだけだな。 放置しても脅威は無いだろう。 それに、どこに居ようがヤツの生殺与奪権は俺が握っている状態だから、まともな頭があれば、次に来るのは別の使徒だと思う」
むしろ少しでも情報が欲しいので、別の使徒があと2人くらい来ないかな? なんて思っていたりもする。
レアスキルとかも持ってそうだし、もし使徒繋がりでコードに共通部分があったりすれば、一気に掌握することも不可能では無いと思うからだ。
例えば共通部分以外の数値を総当たりして「邪神の使徒」の称号を「露出狂」にしてしまう等が可能になるのである。
全く関係の無い何か他の生物なりなんなりの称号も変わってしまうが、今までの傾向的に共通部分の数値を固定しておけば、遠からず邪神関係の何かなはずである。
あ、アリーセがものすご引きつった作り笑いで、後ろ手に出入り口のドアノブを握っている……。
「と、とと、とりあえず、こっち見ないでくれる? あ、も、もう帰るから!」
アリーセが慌てた様子でドアを開け、逃げるように帰って行ってしまった。
こっち見るなとか、ちょっと……いやかなりショックである。
中二話が信じられてしまった事も痛いが、そこそこ長い時間一緒にいて、あの態度をされるのは流石に心に来るものがあるな……。
本当の事を打ち明けた場合とどっちが良かったのかとか、追いかけて釈明した方が良いのかと自問自答をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
こんな時に誰だよもう。
「イオリ、居るー? 入るわよ」
あれ、アリーセが戻ってきたぞ?
まあいい、取り敢えず中二話はジョークだったって言っておこう。
「あ、アリーセ、さっきの話なんだが、アレはその、違うんだ……ジョークと言うか、そのー……」
「さっき? なんの話?」
「え、ついさっきアリーセに言った邪眼ってのが作り話だーって……」
何だか様子がおかしいな?
「私は今来たばっかりなんだけど、さっきっていつの事を言ってるのよ?」
「!?」
俺は慌てて解析ツールを起動して目の前に居るアリーセに向けた。
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名前:アリーセ・ベルガー
性別:女性
種族:鴟梟族
年齢:16歳
身長:155cm
体重:48kg
B:85
W:57
H:88
ジョブ:コンバットレンジャー
レベル:52
HP:980
MP:245
スタミナ:1027
筋力:512
敏捷:654
知力:285
器用:427
体力:628
魔力:203
頑健:379
精神:187
物理攻撃力:714
魔法攻撃力:82
物理防御力:378
魔法防御力:105
称号:英雄の娘 フェルスホルストの英雄 小市民 イオリの保護者
スキル
パッシブ:警戒 LV5
:危険感知 LV5
:夜目 LV3
:気配察知 LV8
:アイテムボックス(x6)
:空間把握 LV4
アクティブ:弓術 LV9
ファストドロウ LV8
ファストショット LV8
マルチショット LV6
エイムショット LV10
チャージショット LV5
ロングショット LV9
アクロバット LV7
登攀 LV5
忍び足 LV8
追跡 LVMAX
捜索 LVMAX
身体強化 LV9
身体制御 LV6
集中 LV1
徒手格闘 LV8
立体戦闘 LV6
各種コード〜
………
……
…
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ジョブとか、称号とか、ステータス上がり過ぎとか、スキルとか、ツッコミ部分はイロイロあるが、アリーセ本人のようだ。
つまり、さっきまで居たアリーセはくっころのカーミラだったということだろう。
よ、良かった、中二話をしたのがアリーセ本人じゃなくて……。
「いきなりなによ!? って、そ、それ鑑定スキルじゃない!」
「あ、いやスマン、実はさっき……」
「忘れて! 乙女の秘密よ! 今見た内容を記憶から抹消するのよ!」
「ちょっ、ま、へぶっ! おごっ! タイム! あがっ!」
カニバサミからマウントを取られ、グーでいしこたま殴られたあと、思わずうつ伏せになって逃げようとした俺を背後から掴み、見事なアーチを描いたジャーマンスープレックスをくらい、俺の意識は刈り取られたのだった。
「ば、バスト2センチ……アップ……がくっ」