191話 そうなる理由あれこれ
「つか、邪神が出てきたってのに、なんでこうのほほんとしてられるんだよ?」
マックスが困惑気味に聞いてくる。
「なんといいますか、エンシェントドラゴンのパールさんがいて、リーラ様から神剣を授かったイオリさんがいる時点で、何となく大丈夫だという気持ちがあるのは確かですわね」
「いや、その発想はおかしい」
思わずエーリカにツッコミを入れてしまった。
神様ガチャでパールとツムガリを手に入れたというだけで、俺は別に勇者で何でもないのだ。
実際はガチャで出てきたのは神様本人、本柱? だったけどな……。
「別におかしくは無いであろう?」
「なんだ居たのかパール」
一緒に移動した記憶は無いのだが、いつの間にかソファーに座っていて、お茶菓子を貪り食っていたパールが口を開いた。
「リーラ様の降臨を身近に感じ祈りを捧げたのであれば、無条件に安心感を得られておるはずだしの」
「それって、実際は安心でも安全でも無いって事なんじゃ?」
「その通りだが、人の子が何をしたところで、神々がすることなど、どうこう出来る問題ではないからの。 不安や恐怖に駆られての行動は邪神に益となるばかりで、人の子にも世界にも良い事はないのだ」
それって、どうなんだろうか?
心を操られているような状態と同じじゃないのか?
パニックにならないので、その方が良いのだろうとは解るが、何にせよあまり気分の良いものではないな。
「別に心を神々が操っておるわけではないぞ。 信仰心に関係なく、この世界の人の子は等しく神々の子でもあるのだ、安心してしまうのは別に不思議では無かろう。 ほれ、幼子が母親の手に抱かれて安心するのと全く同じと考えれば良い」
なんだろう、実際に神がいる世界だからおかしくは無いのかもしれないが、日本人としては非常に胡散臭い話に聞こえてしまう……。
「それに、ほれ母性に溢れた我もここに居るからの」
ふふんと胸を反らすパールだったが、残念ながら、慎ましいソレにはあまり母性は感じなかった。
そもそもドラゴンって子育てするのだろうか?
「じゃー正気を取り戻して、状況説明とかしていくねー」
皆が何やら「うーむ」と考え込み始めたので、ワトスンが、話を変えようとばかりに、俺に座るように促してきた。
お茶も用意してくれたので、ありがたくいただき、一人掛けのソファーにどっかりと座る。
この世界に来る前なら位置的には上座のはずなのであるが、どういうわけか取り囲まれるように皆が座るので、まるでこれから尋問されるような雰囲気である。
「ひとまず、イオリさんが投獄……、謹慎されていた間に起こった事を説明いたしますわね」
と、俺が近接武器……じゃなくて指輪の制作に勤しんでいた間の事をかいつまんで教えてもらった。
それによると、まずギャスランさんが来てくれて、ゴーレムの取り扱いについて、この国の法律に法って説明してくれたようだ。
ゴーレムについては、実用レベルになったのが最近で、世界樹から離れると動かなくなる仕様なうえ、有機物で構成されているのでアイテムボックスにも入らず、各パーツの重量も重いため輸送が非常に困難であることから、どうせ持ち出せないだろうという大雑把な判断で、国外への持ち出しを罰する法律が、今のところ存在しないという事だった。
軍事機密的な取り扱いが必要そうなものだと思うのだが、ギャスランさんいわく。
「エルフは他の種族と比べて寿命が長いせいで、新しい物への対応が遅い傾向があるのですよ。 私もちょっと後回しにしていてうっかり10年くらい放置してしまう事がよくあります。 案内の者が何やら言っていたかと思いますが、あれは法ではなく、制作者達が言っているガイドラインのような物です」
ということだったそうだ。
「ちょっと後回し」の時間単位が10年という種族が、あーでもないこーでもないと法整備するのならばヘタすると数百年くらいかかるのではなかろうか?
日本でも暫定なんてついた法律が何十年もそのままなくらいだしな。
もしかしたら最近とか言っていたがゴーレム実用化してから何十年も経っているかもしれないな。
「あーそういえば、お爺ちゃんが子供の頃出した手紙の返事が孫に届いたなんて話も聞いたことあるよー」
神様とかエンシェントドラゴン程じゃないとしても、時間のスパンが違う種族との付き合いというのは、想像以上に難しそうだ。
というか、軍事機密とか何十年もだだ漏れ状態でよく滅びないものだなーとも思う。
「まぁ、それゆえに、他種族の支配する近隣諸国より攻め込まれる事が少なくないので、戦闘力至上主義になっていったという説がありますわね。 我々からすれば何十年かに1回とか、何世代も前の戦争だとしても、エルフからしてみればしょっちゅう攻め込まれているような感覚なのだと思いますわ」
それで脳筋になっちゃったのかエルフよ……。
どっかで方向間違えちゃったんだな、きっと。
「まあ、そういうわけですので、ゴーレムは自由にしてくださいまし。 ジークフリード様が解析結果等の資料を欲しがっておりましたのでレポートの作成もお願いしますわ」
「うへ、レポートかー。 了解したー」
パソコン欲しいなーとか思いながら、解析してオリジナルのゴーレムが作れるようになったらホーリーメタルで作ってやろうと、心の中だけで思っておく。
「それから、コリンナ様ですが、3日目にフォルテフォレスタ国王に謁見、一番得意な攻撃魔法を自身に撃ってみろ、とおっしゃられて、これに応じたコリンナの魔法を受けて、今現在療養中のようですわ」
「ちょ、ま……。 それって王様フルボッコにしたって事だよな!?」
「見事に一撃で沈めておられましたわ。 公式の場で王自らの発言による行動ですから、生きているのでその辺りは問題ありませんわ。 公式の場での王の発言は重いですからね。 むしろそれを罪に問えば、それこそエルフ側が不利な国際問題になりますわね」
俺の感覚がおかしいのだろうか?
問題だらけなように思えて仕方が無い。
な、何をぶっ放したのだろう?
「絶縁耐熱シールド展開、シールドにアース、電極2m2本、外側を絶縁体で被覆、弾頭伝導体3g電極に接触する幅でコの字型、装填、直流30メガワット、って呪文でしたわね。 魔力消費は結構多かったようですが、よろしければ後で私にも詳細を教えてくださいまし」
レールガンじゃねーか!?
自分への被害とか感電が怖くて使えないとしていた魔法だ。
電気について教えた時に脱線話として戯れに仕組みを教えたものだが、まさか使いこなすとは!
王様よく生きてたな……。
「流石に直撃はさせずに大分離れた位置に放ったようですわ、かなり高度な身体強化や防御魔法も展開されておいででしたが、瞬きするよりも早くご自慢の耐魔法結界を紙の様に突き破られた精神的なショックが大きかったのではないかと思いますわ」
なんでも、他国からの使者やら特使やらが来るたび魔法で攻撃させ、お前らの魔法等、全く効かないぞ!といったアピールをしていたようで、どの程度結界を震わせたかで態度や待遇が変わったりするそうだ。
魔法技術の差や魔道具の質の差を見せつけることで、戦う気を無くさせるといった目的があったようで、実際のところ今までどの国の魔法使いもそよ風すら触れることが出来なかったと言うことだが、レールガンは流石に防げなかったようだ。
発動しちゃったらただの物理攻撃だしな……。
その後も留学先でのコリンナ様無双な話と、コリンナ様が不利益を被らないように、裏で色々と暗躍してくれたグレイさんの話を幾つか、そして、うっとおしいくらいに勝負を挑んでくるエルフ達の話を聞いた。
「ところで、基本的にイオリさんの普段の行いが悪いので、仕方が無いと部分もあると思うのですが、それだとしてもアリーセさんはイオリさんに対して少し厳しいように思うのですが、どうしてですの?」
「うえ!? 私!? え、だって普通に言っても全く聞かないし、このままじゃ社会不適合者になっちゃうじゃない? 早いうちに矯正しないと将来困るのはイオリだし、一般的な常識くらいは身につけてほしくて……」
「「オカンか!?」」