18話 冒険者になりました
「ああ、だったら冒険者登録しちゃって良いんじゃないかな?」
アリーセが、私に良い考えがある!とばかりに、提案をしてきた。
「それって何かメリットあるのか?」
ぶっちゃけこの世界のモンスターは結構強いので、憧れはあるが正直勘弁してもらいたいところではある。
ひとまず生活には困らないし、もとの世界に帰りたい気持ちが無いわけではないが、戻れなければ戻れないで、別に構わないんじゃないかと考えている。
内政チートとか、そっち系でスローなライフを楽しんだ方が良いんでは無かろうか?
「とりあえず、今イオリは身分証がないし、本来なら試験が必要だけど、Dランク以上の冒険者の推薦があれば免除されるのよ。イオリがちゃんと剣を使えるは見てるし装備さえ揃えば問題無いはずよ」
「イヤイヤ、自爆してゴロゴロ転がってただけだし」
レベル70にしてゴブリンにすら負けるという、悲しい現実です。
「でも、ゴブリンチーフを一撃で真っ二つにしてたじゃない」
「なんと、それならば推薦を問題なく受理出来そうですね」
ゴブリンって村人その一でも倒せる雑魚じゃないか、そもそも一撃だったのはアリーセ剣が業物だっただけで、その後に剣を取り落として殺られそうになっているのだ。
ゆっくりとレベルやパラメーターを上げて、いずれはやっても良いかな?とは思うが、今はご遠慮したいところだ。
「いや、折角だけど遠慮……」
「はい。では、こちらが登録申請用紙です。太枠内をすべて記入して頂ければ推薦者の方が書いても大丈夫です」
「こんな感じで、問題無いかしら?」
俺が断る間もなく手続きが滞り無く進んでいく。
「いやいやいやいや、ちょっと待とうかアリーセさん?」
「はい、じゃあまたこれに手を置いてー」
あ、はい。
「お疲れ様でした、これで登録完了となります。こちら冒険者証ですのでどうぞお納め下さい。紛失しますと、再発行にお時間と500ナールを頂きますので、失くさないようにご注意下さい。注意事項や規定についてのご説明は必要でしょうか?」
「それは、後で私が説明しておくから大丈夫よ」
「では、イオリさん、ようこそ冒険者ギルドへ。今後とも宜しくお願いしますね」
あれよあれよと話が進み、水晶玉っぽい魔道具に手を乗せただけで、俺は瞬く間に冒険者になってしまった。
俺が話の流れに付いて行けずに、渡された冒険者証を呆然と見ていると、アリーセの方の査定も終わったらしく、エマに別れを告げていた。
「いや、ちょっと待て、おかしくないか? 手を置いただけなんだけど、こんなに簡単に、どこの誰かも分からない俺が冒険者になれちゃって良いのかよ!?」
すると、アリーセとエマは、何言ってるんだろうこの人? とでも言わんばかりに二人して不思議そうに首を傾げている。不覚にもちょっと可愛いなと思ってしまったが、記憶が無い設定の俺に説明して欲しいものである。
「そうですね、本来でしたら冒険者になる為に試験を行わせて頂いてますが、Dランクの冒険者であるアリーセさんからの推薦がありましたので、試験や登録料の免除をさせて頂きました」
要は、試験や登録料は、そこら辺の浮浪者や小さな子供、犯罪者や戦う力の無い人をホイホイ冒険者にしてしまわない為の処置で、能力や人格等を推薦者が保証をする事で、それらの手間を省く事が出来るようになっているそうだ。
もともと依頼をこなしてくれる人材は、いくらでも欲しいとのことだった。
まあ、給料払ってるわけじゃないし、完全な歩合制だから人数確保していても別に問題は無いってところなのだろう。
依頼を受けて仕事をしないと報酬は貰えないが、登録をする事で、身分等は冒険者ギルドが保証してくれ、ギルド運営する宿や酒場兼食堂等の施設も格安で使用出来るそうだ。
「アリーセは、良かったのか? 俺の事を推薦してしまって」
推薦者であるアリーセは、もし俺が何かやらかしたら責任を取らなければならない。
今日会ったばかりで、身元の怪しい俺をそんなに簡単に信用してしまって良いのだろうか?
パパはアリーセが悪い人に騙されないか心配です。
「誰がパパよ? むしろ保護者は私の方だと思うんだけど?」
「おや? 心の声が漏れていたか?」
「今日会ったばかりでってあたりからね」
マジか、気をつけよう。
「大丈夫ですよ。アリーセさんは実績もありますし、人を見る目も確かだと思います」
でなければ推薦は受けなかったと、エマは笑顔で答えてくれる。
「ま、ともかく、もう用件は済んだから、夕飯でも食べましょ、イオリには結構貰っちゃってるから奢るわ」
エマに別れを告げ、ギルドを後にする。
併設の酒場でも食事が可能だそうだが、来るときにやらかしたので、別の所にしたいらしく素直に従うことにする。
なんか、流されてるけれど、信用されてるというのは、少し、いや結構嬉しいと思う。
元の世界で、そんな事は無かったし、あっても、何か仕事の責任を取らされる時に都合の良い意味合いでの信用くらいだった。
あれ?これって俺がチョロいのだろうか?
「あそこが、私のイチオシの『白兎亭』よ。冒険者支援もあるし宿もやっているから、今日はあそこに泊まると良いわ」
「おお、それは助かる。ずいぶん可愛い名前の店なんだな」
厳つい冒険者が集まる店にしてはであるが。
「そうね、でも、あそこの兎のシチューは絶品よ?」
「食う方でその名前なのかよ!?」
まあ、飯がうまいなら、それに越したことはないか。
俺はアリーセの後に続いて、白兎亭に足を踏み入れた。
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