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190話 一矢報いる感じ

 ひとまず、各所に問い合わせがされ、主にギャスランさんのおかげで俺の容疑はわりとすぐに晴れたよ。

 しかし、さすがに到着早々に手を煩わせ過ぎたということで「反省をしろ」としばらく牢屋での謹慎処分を言い渡された。

 俺が1か所に留まって居れば、邪神の使徒が来てもすぐにわかるし対処も容易であるとパールが言うので、仕方なく大人しく過すことにした。

 素直に大人しくしていたのは現状では対抗策とかを思い付いていないからで、もし脱走したら首から足先まで関節技のフルコースだと言われたからでは決してない。

 もちろん、邪神よりも怒ったアリーセの方がよほど怖いという理由でもない。 


 パールが居るおかげなのか、こちらの隙を伺っているだけなのか、あれから邪神の使徒的な何かに襲われることは無く、ホーリーメタルの使いみちを却下されつつではあるが、邪神の使徒やその眷族にはホーリーメタル製の装備が非常に効果的であるとパールから聞き、暫定的に簡単な装備を作成するなどして、窮屈で退屈な時間を2週間ほど過ごし無事釈放される運びとなった。


「ふむ、ご主人様と世間では、その感覚に大きな隔たりがあるようだの」


「どういう事だ?」


「命の危険はなく、食事は普通に提供され、床にはカーペット、壁面は寸分違わぬレリーフの掘られたパネルで覆われ、天井には白色に発光する魔道具が複数設置されて昼間のように明るい。 錬金術の器具や鍛冶の設備を設置し、日がな一日没頭して、眠くなったらフカフカなベッドで寝るという生活のどこが窮屈で退屈だというのだ?」


「リフォーム頑張った?」


「まるで会話が成り立っとらんの……」


 呆れたと言うようなジェスチャーをするパールであったが、使い魔としての繋がりから、俺が元いた世界では普通なことなのかもしれないと、考えがすこし混乱しているようだ。

 まあ、MMOと呼ばれるゲームではよくある「マイルーム」とか「マイホーム」と呼ばれる、自由にカスタマイズできる各プレイヤー専用のスペースで遊んでいた時の記憶を読み取って、現実世界と混同してしまったのならば混乱するのも解らないでもない。

 再現可能なせいで、パールは元の世界の映画と現実の区別もついていないようだしな……。

 実際、いま牢屋内をリフォームしたアイテム類は、チートツールでアイテム変化させたマイホーム用のアイテムである。

 アイテムボックスから出して設置するだけなので初日の一晩で完了したという、超お手軽リフォームだ。


 ホーリーメタルを加工するためにも設備が必要だったのだから、そのついでにマイホームの模様替えという名のリフォームくらい、ゲームだったらやるプレーヤーは少なくはないと思う。

 ちなみにホーリーメタルで作った暫定装備は仕方がなく指輪である。

 とは言え小さなものではなく、宝石が着く位置に蝋封をするための家紋が掘られた印章が着いているようなタイプのゴツい指輪だ。

 家紋部分には、漢字で「龍」の文字を型どったレリーフがつけてある。

 ドラゴンという意味の文字だと説明したところパールから許可が出たので、画数が多くて角ばってて痛そうだからと選んだデザインではないことになっている。


「この牢の状況を知ればアリーセに完全に呆れられるか、反省しておらぬと怒られる覚悟はしておくと良いと思うぞご主人様よ」


「暇だったのでやった。 手足の4、5本くらいはへし折られるかもしれんので、今は反省している」


「反省の理由が己のやった事では無く、それにより体罰を食らう方だという部分にモノ申したいところではあるが、反省だけならゴブリンでも出来るぞ、ご主人様よ?」


「オークあたりにしといてくれ」


「そのモンスターの種族の差に、何の差があるのか全くわからぬし、こだわる部分が意味不明だの……」


「女騎士ではなかったが、くっころさんに出会ったらかな?」


「ますます意味がわからぬわ」


 ちなみに釈放はされたが、俺がリフォームした牢屋は設置物が有機物多数なため、そのまま放置することにする。


 お迎えにはグレイさんがやって来たのだが、牢屋の状態を見て、唖然としていたので、全力で見ていないフリをしておいた。

 気絶したまま放り込まれたので、この場所の位置関係がよくわからなかったが、牢屋から出てみると、そのまま大使館の地下にある施設だったようだ。

 木の上なので地下というのが正しいかどうか不明ではあるが……。 内部?

 ともあれ2週間ぶりに1時間も居なかった護衛の控室へと帰ってきた。

 部屋に入ると、パーティメンバーが全員居て、何かのミーティングをしているところだった。


「お帰りー、合法的に手に入れて来たゴーレムは、僕の方である程度解析して記録をしといたよー」


「その様子だと、良い意味でも悪い意味でも反省はされてないようですわね?」


「こんな状況になっても顔色一つ変えずに皆平常運転だったんだが、お前の扱いってどーなってんだよ?」


「はいはい、ただいまただいま。 解析サンクス。 暇だったのでいろいろやった、今は一応反省している。 平常運転なのは何か問題でも?」


「返答がぞんざいだな!?」


 久しぶりに皆の顔を見たが、特に変わりは無く俺が居なくても問題なく過ごしていたようだ。

 あれ? アリーセが居ないな?


「ハッ、殺気!?」


「反省何にもしてないでしょ!? 何なのよあの牢屋はー!?」


 鉄格子の守りが無くなった俺に、リフォームされた牢屋を見たと思われるアリーセが教育的指導サブミッションを仕掛けようと飛びかかって来た。


「な、なんの、廊下に飾ってあった、妙にお高そうで割れやすそうな壺バリヤー! ほーれ、うっかり落としちゃったらタイヘンだー?」


「え、あ、ちょっと、待っ!?」


 アリーセに見せつけるように、高そうな壺を持ち出すと、慌てて姿勢を変え俺にぶつからない様に、わたわたとアリーセがタタラを踏んだ。


「今ならもう一個ついてきます。 はい、1個パス!」


 小ぶりだが、装飾品として飾ってあった壺を、軽くアリーセの方に投げてやる。


「うひゃあ!? あぶなっ、ぶないっ、あぶっ!」


 パスした壺が、焦りからかお手玉状態になってしまい、涙目で壺をなんとかキャッチ出来たようだ。


「ふう、危なかった。 ずっとアリーセの防御方法を考えてたけど上手くいって助かった」


「鬼かお前は」


「そうは言うがなマックス。 アリーセの関節技はマジで洒落にならないんだぞ!?」


 受け止めた壺をどの様に扱ったら良いのかわからず、内股中腰の状態でぷるぷるしているアリーセにもう一個の壺を盾にしてジリジリと後ずさりをして距離をとった。


「この後の怒りが半端なくなるだけじゃねーのか?」


「一時しのぎな事は十分理解しているが、1秒でも先に延ばせるならば全力で事にあたる所存だ!」


「お前がそれで良いなら、俺じゃねぇから別に構わねぇけどよ……」


 マックスがヤレヤレといった調子で肩をすくめた。

 イケメン故に妙に絵になっているのが妬ましい。


「まあ、また意識が無くなるほどまでされるとお話が進まないのも確かですわね。 アリーセさん、後で如何様にでもしてもらって構いませんので、一旦我慢してもらえますか?」


「何でも良いから、助けて! これどーすればいいの!? どーすればいいのこれ!?」


「置けば良いんじゃないかなー?」


「そんな事して置くときに割れたりしたら大変が大変で大変じゃない!?」


 ワトスンが、当たり前で的確なアドバイスをするが、なかなかのテンパり具合である。

 効果はバツグンだ。


「はあ、とりあえずまた勢いでイオリさんが落とされると話が進まないので、このままで話を進めますわね」


 エーリカがため息をつきながら俺にソファーに座るよう促した。


「ええ!? 助けてくれないの!?」


「まあ、日頃が日頃ですから仕方が無いとは言え、アリーセさんの勘違いで大切な情報源をみすみす逃したというのも事実ですからね。 ちょうど良いので反省の意味を込めて、少しそうして居ると良いですわ」


「そ、そんなぁー」

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