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189話 冷たい檻の中

 ひとまず俺達は、宿泊先でもある大使館だか領事館的な屋敷に戻ることにした。


「それで、なんで俺はまた拘束されてるんですかね?」


「また? まあいいわ、狙われた事はともかく婦女暴行や窃盗は犯罪だから、拘束しておかないとね」


 全然有耶無耶になってなかったー!

 屋敷についた途端、アリーセに簀巻ではないが縄でキツく縛られたのだった。

 ご丁寧に脇や首にも縄を回して容易には抜けられないように縛られているし、ご丁寧に猿ぐつわまでされている。


「コリンナ様の護衛を外れるにしても、やらかした事の精算はしないと駄目でしょ? 取り敢えずグレイさん呼んでくるから大人しくしてるのよ? 逃げたら首と背骨と足を同時に極めるからね?」


 それ、外れるの護衛じゃなくて俺の関節じゃね?

 グレイさんを待っている間、手も足も拘束された芋虫状態で、玄関ホールウゴウゴと転がっていたら、いつの間にやって来た訝しげな顔のマルに棒で突つかれた。

 マルさん地味に痛いので、尖った枝で突つくのは止めなさいね?


「もきゅ!?」


 そうです、謎のウゴウゴする物体じゃなくてあなたのご主人ですよー。


「もきゅきゅ!」


 あ、いかん、止めるんだマル!

 いま助けるって、縄を解いちゃいかん、大人しくしてないと俺の関節がアレな事になってしま……。


「あ! また逃げる気ね!?」


 アリーセさん、あとちょっと早く戻って来てくれませんかねえっ!?

 マルが縄を解いてしまったので、アリーセの関節技を食らわないように慌てて四つん這いになって逃げる。


「俺は無実だあああ!」


「逃がすかああああっ!」


 足を取られ、ふっと目の前にアリーセの手の甲が見えたと思ったら顔面を横にねじりながら締め付けられ、足と膝が逆向きに絞るように拗じられていた。

 ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック、通称STFだ。

 背後から情熱的に抱きつかれているような姿勢であるが、頭から背骨、足に至るまでが痛くて苦しい。

 胸が背中に! とかそういう甘酸っぱい気持ちが微塵もわかないレベルで痛い!

 むしろ胃からなんかこみ上げて物理的に口の中が酸っぱい!

 関節技なんてヤラセだろ? とか言っていた元同僚のS氏に、声を大にして言いたい。

 これマジでヤバイから!


「もっきゅー!?」


 ご主人ー!? と叫ぶマルの声を聞きながら苦痛から逃れる為に俺の脳が意識を手放した。

 




 深い暗闇の底から浮上するような感覚と共に、意識が覚醒すると、無垢な石材で作られた天井がみえた。


「知らない天井だ……、と言う所かの?」


 今のセリフは俺では無い。

 首を巡らせて周りを確認すると、パールが椅子に腰掛けて革張りの本を開いていた。

 書庫なり書斎などであれば、非常に絵になる姿ではあるのだろうが、この場では違和感しかない。

 何しろ、どう見てもここが薄暗い牢屋の中だったのだから。


「えーと、何があったんだっけ?」


「アリーセに落されて、嫌疑が晴れるまではここで大人しくしてろ、と放り込まれたというところだな。 一応、また邪神からのちょっかいが来ないように、我が側についておったがな」


 だいたいの状況をパールに聞くが、つい先程偽物簀巻にされたので一応警戒をする。

 すこし意識を向けると目の前にいるパールからは、使い魔としての繋がりを感じるので、解析ツールを使うまでもなく本物であるとわかったので、ホッと気を緩める。


「あれからどのくらい経ってる?」


「そうさの、だいたい3時間といったところだの」


 簡素なベッドからむくりと起き上がり、体に違和感が無いかチェックする。

 まあ、すぐに回復するので大丈夫だと思うが、気分の問題というやつだな。


「むう、しかしゴーレムは合法的に入手したというのに解せぬ」


「ご主人様の日頃の行いというヤツだろうな。 本当に合法的だったと確認が取れれば解放されるのだから大人しくしておれ」


 仕方がないなと返事を返し、再び簡素なベッドにゴロリと横になる。


「暇だな……」


「まだ、目覚めてから5分も経っておらんぞ?」


 そうは言うがこの後もしばらくここに居なければならないと思うと、暇という状況を意識してしまい、より時間の流れが遅くなった気がしてしまうのだ。


「よし、ツムガリバルカンをつくろ……、じゃなくて、ホーリーメタルを何に使うか構想を練ろう!」


 ポーションじゃなくてツムガリを発射するように改造しようかと思ったのだがパールに睨まれたので、別のものにする。

 邪神の使徒とか出てきたわけだし、効果の高そうなアイテムがあったほうが良いだろう。

 武器に使用する事は禁じられているが防具他のアイテムであるならば作っても怒られない。

 僅かな量しか貰えなかったが、最悪、これを使って何も作ってません! という言い訳のもと、うっかり素材の状態で弾丸として射出してやろうと思っていたので、既にアイテムボックス欄数ページ分は埋めてある。


「よし、クジラ包丁を……」


「だめだ」


 言い終わる前にパールから禁止を食らった。


「じゃあ、柳刃包丁……」


「刃物は駄目だ」


 取り付く島なしである。


「そうは言うが、椅子だって鈍器になるし、テーブルの足でも棍棒の代わりに使えるじゃないか。 それこそ砂だって目潰しにつかえるし、イモだって高速発射すればプレートメイルくらい貫通するんだぞ?」


「ご主人様は武器に転用する気マンマンではないか! それが駄目だと言っておるのだ! 素直に指輪などのアクセサリーでも作れば良かろうに」


「断る!」


「断るでない!」


 破壊出来ない指輪は危険だ。 もとの世界でもタングステンという非常に硬い金属で出来た指輪があったが、指を骨折した際に外せなくなって、通常のリングカッターでもカット出来ないせいで治療が出来ないなんて事例があるのだ。

 まあ、身につけるもの全部に言える事だし、

戦闘行為が普通なこの世界で気にすることじゃ無いのではあるが。


「一輪挿しの花瓶」


「メイスのように使う気であろう? 却下だ」


「バット」


「やきうとやらのスポーツ用品だったか? まんま凶器ではないか、却下だ」


「ゴルフクラブ」


「それもバットとたいして変わらだろ。 却下だ」


「物干し竿」


「振り回して使ったら十分武器だの。 却下だ」


「じゃあ何作れって言うんだよ!」


「ええい棒状のものから離れんか!」


 強情なパールとの話は夜遅くまで続いた。

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