186話 とうとう来ちゃった
「この後入水させればよいのだったかな?」
「やめてくださいしんでしまいます」
パールに簀巻にされ、ひょいと担がれた。
簀巻の状態というのは、見た目ではわからないが、全体をもぞもぞさせる以外に身動きがとれない。
冗談で水に放り込まれたら確実に窒息してしまうだろう。
パールの知識が俺の記憶であるのならば、正しく理解していればガチで危険であることを知っていると思うが、もし白塗りのお馬鹿な殿様が出てくるコメディ番組とかからだけ得た知識だとしたら、軽い気持ちでドボンとされる可能性もある。
ちょっと本気で抜け出さないとヤバイかもしれない。
「おっと、これだけではご主人様は簡単に脱出してしまいそうだな」
「ギッチギチに縛っといて、脱出なんかできんわ!」
「そう言って奇想天外な方法で逃げ出すのがご主人様という人なのだろ? ふむ、縦にも縛っておくか」
「いだだだだ、エビ反りになってる! そんあに背中曲がらないから!」
まるで新聞紙や雑誌まとめるかのごとく、縄を横だけでなく縦にも巻いき、エビ反り状態で車輪状に結ばれてしまった。
ヤベえコレ逃げられねぇ……。
外の様子も全くわからなくなってしまったので、どこに持って行かれているのかもわからない。
キーボード操作を必要とするチートツールはこの状態では使う事が出来ないし、全力で力んでみてもビクともしない。
思わぬチートツールの弱点に焦りつつも、何とか脱出する方法は無いかと考える。
ドラゴンパワーで縛られているとはいえ、所詮は藁等に材質で出来ているのだから、アイテムボックスから剣でも取り出せば、拘束はひとまず解けるかと思い、手頃な剣をアイテムボックスから取り出す。
「いてぇ!?」
刃物というものは押すか引くかしなければ早々切れない。
それにギッチギチに締められている間に剣など出したら自分が痛いに決まっていた。
実際に切れたりはしていないが剣がザックリと自分にめり込んだダメージが半端なく痛い。
慌ててアイテムボックスに収納した。
適当な剣だったからこの程度で済んだが、もしツムガリ出していたらヤバかったかもしれない……。
ツムガリは片刃なので、うまく刃が外向ききなれば良いが、万が一ということもある。 ちょっと怖くて使えない。
鎧を取り出して体積を増やすとか……。
ダメだ、自分を中心に装備状態になるように取り出せたとしても、簀巻の外側に鎧が装備されて益々脱出困難になってしまいそうだ。
対人用のポーション類もドラゴンであるパールには効かないだろう。
何だこれ、ボスモンスター何かよりも身内に簀巻にされる方がよっぽどピンチな状態になってるじゃないか……。
「背に腹は変えられないか……」
「ん? ご主人様よ、何か言ったか?」
「木っ端微塵隠れ、パート2!」
「うおっ!?」
自分を中心にむしろを吹き飛ばし、俺自身も爆風に巻き込まれ投げ出され、何度かバウンドして転がった。
むしろを吹き飛ばす為と、逃走の為につい先程逃走に使用した物と、純粋な爆弾あわせてアイテムボックスから取り出して起爆する。
剣よりもよっぽどダメージがでかいのだが、剣と違って痛いのは一瞬で済むし、時間をかければパールは魔法で防いでしまいそうなのでこの方法を選んでみた。
それにドラゴンであるパールなら至近距離で爆発が起こっても対したダメージにはならないだろうしな。
もっとスマートな脱出方法がイロイロあったかもしれないが、もたもたしていられなかったので仕方がない。
「げふっ!」
俺は吹き飛んで転がった先にあった、程よい太さの木に激突して止まった。
なんか覚悟を決めたデカイダメージより、こういう不意で地味なダメージの方が痛いような気がするのはなぜだろう……。
「HPを上げていなかったら即死だった……」
爆風と音にやられて若干耳も聴こえが悪いが、なんとか無事(?)簀巻から脱出できた。
周囲を見回すと、今まで居た街並ではなく、何やら広い洞穴チックな場所になっていて、ほのかに緑色に光る泉が見えた。
危なかった、本当に水に放り込まれるところだったようだ。
パールにはフィクションというものを懇切丁寧に教えてやる必要がありそうだ。
「っと、いかんパールはどこだ?」
また簀巻にされるのは勘弁してほしいので、パールの姿を探すと、少し離れた位置で、ボロ雑巾のようになったパールがうずくまっていた。
耳から血も出ているし、腕とか変な方に曲がっている。
や、ヤベえやり過ぎたか!?
「く、いきなり攻撃をされるとは……。 完璧な変装だと思ったのだが、よもや見破られるとはな!」
慌ててチートツールでHPの回復をしてやろうと思ったが、パールの様子が何かおかしい。
よくよく考えれば、パールが着ているメイド服は、俺が渡した課金で手に入れるアバター装備であり、耐久値が存在しない為に破壊不能となった服なのである。
まあ限界を試していないので本当に破壊不能であるのかは不明であるが、ドラゴンのパワーにも耐えているので、爆風程度でボロボロになってしまうという事は無い。
それに文字通りに桁違いのHPをもつパールが、俺が死なない程度の爆風で深刻そうなダメージを受けていると言うのもおかしい。
俺は久しぶりに解析ツールを起動して、ボロ雑巾パールを解析する。
最近使っていなかったのは、飽きてきたから……ではなく、女神であるリーラ様に俺をこの世界に呼んだのが、邪神ではないかというので、この怪しさ満点のスキルを使い続けると何かあるのでは?と疑っのだ。
疑い出すと、スキルの仕様で酷い目にあっていること全てが邪神のせいに思えて、なんとなくではあるが極力使わないようにしていたのだ。
チートツールの方は散々使っているので、気分の問題でしかないのだが……。
「まあ、この状態で使わないって選択肢はないか」
解析ツールを起動してターゲットウインドウをボロ雑巾パール向ける。
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名前:万面のカーミラ
種族:シェイプシフター
年齢:28歳
レベル:102
HP:21/4360
MP:4688/8947
スタミナ:825/3201
筋力:1287
敏捷:1784
知力:2652
器用:1198
体力:1574
魔力:3271
頑健:1583
精神:3157
物理攻撃力:965
魔法攻撃力:3176
物理防御力:860
魔法防御力:2772
称号:邪神の使徒 万の姿を持つもの 狡猾 ダンジョンマスター 献身
スキル
パッシブ:共通語
:魔法障壁 LV2
:物理障壁 LV1
:HP自動回復 LV1
:MP自動回復 LV1
:聞き耳 LV4
:気配遮断 LV3
:読心 LV4
アクティブ:シェイプチェンジ LV 10
上級魔法 LV3
中級魔法 LV6
初級魔法 LV10
各種コード
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うわーエルフの国に着いてまだ1日経ってないのに、ココで邪神の関係者が来ちゃったかー……。
神の使徒なドラゴンと比べれば、大分弱い印象だが、パールそっくりに化けていたあたり、直接的な戦闘を行う要員ではないということなのだろう。
簀巻にして池に放り込むという、地味ではあるが俺をいきなり殺しに来たってことは、やっぱり敵ってことだよな。
既に死にかけてるケド……。




