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184話 合法的に

「では、手合せですからな。 私が見届け役をしましょう」


 後からついてきたギャスランさんが、審判を務めてくれるようだ。

 しかし、うら若……いかどうかは別として、女性に手加減してはいけないというのもなかなか難しい。

 まあ、非殺傷武器の時点で手加減しているとも言えるので、ちゃんと本気だったと思わせるのも難しいのだが。


「さ! 始めましょう。 準備はいいかしら?」


「えーと、準備して良いなら、準備したいんだが……」


 手ぶらの状態でイキナリ準備は良いか?とか聞かれても困る。


「ミルカ子供じゃないんだから、少し落ち着きなさい」


「わ、わかってるわよ! ちょっと試しただけよ!」


 何を試されたのかはわからないが、顔が赤いので、先走ったのだろう。

 とにかく、準備に入るか。

 手で投げる行為に関しては、カウンターを入れる事に相当な自身があるようだから、普段通りに投擲するのは、手加減していると思われてしまうかもしれない。

 アイテムボックスから、アバター装備のガスマスクをかぶり、パイルバンカー……じゃなかった、アサルトランスを取り出し、ロックを外して杭の部分を丸ごと取り外す。

 ドグラスの親父さんが負荷がかかりやすい消耗品部分をユニット化して簡単に交換出来るように作ってくれているので、ほぼワンタッチで外せるのである。

 ココに暇な時にコツコツ作っていた別のユニットを取り付け、三脚に設置して準備完了である。


「な、何それ!?」


「アサルトランス暴徒鎮圧用ユニット、ポーションランチャー試作1号だ」


 指名手配された後で必要になるかもしれないと作ってみたはいいが、使いどころが無く放置していたものだ。

 アサルトランスの発射機構を利用し、給弾をボルトアクション式から自動給弾式にしフルオート化。

 ポーションの瓶が入る弾倉を作成して、取り付けた。

 この弾倉はただの箱で、ポーションの瓶がアサルトランスの薬室に自然落下する事で装填する方式を取っている。

 給弾の確実性という部分では不安定であるが、ポーションは一度アイテムボックスから取り出すと再び収納する事が出来ないので、再装填の手間を考えて弾倉内に直接アイテムボックスから取り出したポーションを放り込むようにしたのである。


「では、双方準備はよろしいですな? では始め!」


「え、ちょ、ま……」


 ミルカさんが、何やら慌てて魔法を使うと、ミルカさんの方から強めの風が吹いてきた。

 なるほど、ポーションの瓶を投げにくくして、同時に臭いも押し返そうという作戦か。


「ふむ、矢よけと追い風の魔法に必中のエンチャントか。 同時発動は出来るようになったんだね」


「ふ、ふふーん、飛び道具も臭いも効かないよ」


「じゃあ、攻撃される前にー、ふぁいやー」


 カチリとトリガーを引くと、風の魔石を利用した圧縮空気により、スティンクポーションがおおよそ毎秒6発程度のサイクルでボシュボシュと発射される。

 発射するものがポーションの瓶なので銃身との隙間も多く空気が漏れてしまうため、発射する為のエネルギー効率は悪い。

 それでもミルカさんの魔法の風をモノともせずに飛ぶくらいの速度は出ている。

 銃身にライフリングも無く、命中精度も良くないが命中させることよりも、ばら撒く事が目的な為、むしろ好都合であると言える。

 一応直撃させると命に関わりそうなので、ミルカさんより後ろの少し横に離れた地面を狙って撃っておく。

 風が一方向から吹いているなら、背後に着弾させれば、ミルカさん自身が起こした風が臭いを運んでくれるという寸法だ。

 発射された瓶は地面と接触したと同時に砕け、凶悪な中身を次々にぶちまける。


「うぼぁ!? 濃縮された朝のお父さんの枕の臭いが!?」


 な、なんだと!? エルフも加齢臭があるだと!?

 まあ、メタボなエルフやヒゲオヤジなエルフも居たから不思議ではないが、知りたくもないこの世界の秘密を知ってしまった。

 実年齢はともかく、見た目で言えばミルカさんは「お父さんパンツと一緒に洗濯しないで!」とか「お父さんキモい!」とか言いそうな年頃に見えなくもない。

 とりあえず、顔も名前も知らないミルカさんのお父さんに憐れみの祈りを捧げておこう。

 命中させなかった事で手加減とか言われても困るので、一応ダメ押しでたくさんぶちまけて帳尻あわせをしておく。


「ゔぇはっ! えほっ! ……も、もうやめ……べへあ!」


 激しく咳き込み、ミルカさんは泡を吹いて気絶してしまった。

 だだ漏れの鼻水と涙でちょっと女性としては人にお見せ出来ない顔になってしまっている。

 重ねて言うが、このポーションは人体には無害である!


「そこまで! 勝者イオリ!」


 しっかりと口と鼻を布で覆い、そよ風程度の風を纏ったギャスランさんが俺の勝利を告げたのだった。







「いやはや、手加減無用とは言いましたが、初対面で恨みも因縁も無い相手に容赦ありませんな」


 とりあえずその場に放置するわけにもいかないので、ミルカさんを担いで店に戻った早々、ギャスランさんにそんな事を言われたが、手加減するのは侮辱にあたるとか言われちゃったら、やっちゃうしかないじゃないかー。


「いやいや、流石に直撃だと危ないかと思ってちゃんと地面を狙いましたよ」


「はっはっは、別に責めてはいませんよ。 実は私がミルカの戦闘訓練の手解きをしたのですが、この界隈じゃ負け無しになってしまいましな。 最近随分と調子に乗っていたので、一度鼻っ柱をへし折ってやらねばイカンと思ってたところだったんですよ」


「へーそーだったんですかー」


 微妙に後味が悪いが、スティンクポーションは無害だし、文化の違いとゴーレムを貰うための試練だったのだと思っておこう。

 ミルカさんは犠牲になったのだ。


「一方向から風が吹く従来の魔法の欠点が如実に出ましたな。 上空から風を落として四方に広がる様に風を吹かせれば防げたでしょうね」


「確かにそうですね。 そうすれば先手は防げたかもしれませんね。 そうなると上空から散布しないといけませんから手間が増えましたから攻撃を許してしまったでしょうね」


 ギャスランさんは審判をしていた際に、局所的に高気圧と低気圧を作り臭いの来ない上空から自分を中心に空気を吸い込み、満遍なく外向きに風が吹くようにしていた。

 これは俺が学園で講義をしていた際に、風を気圧の差で起こる空気の流れであるという解説から、ギャスランさんなりに改良した魔法であるらしい。


「お父さんのパンツと私の服を一緒に洗わないで!? ……あれ?」 


 店舗の隅にあったソファーに寝かせていたミルカさんが、ガバッと起き上がった。

 顔は……。 彼女の名誉の為に言わないでおこう。


「気が付いたようだねミルカ、顔を洗って来なさい。 ちょっと人にお見せ出来ない顔になっているよ?」


「ぶええ!?」


 ミルカさんは自分の惨状に気が付いてパタパタと慌てて顔を洗いに行った。


「さて、私の店ではありませんが、立会人として約束の履行をしましょうか。 勝者のイオリさんに店で扱っている魔道具を1つ差し上げますが、何が良いかもう決まっていますか?」


「ゴーレムを、ゴーレムをお願いします!」


 こうして、合法的にゴーレムを手に入れる事ができたのである。


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