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183話 手合せする?

「ミルカ、悪いことは言わないから彼との手合わせだけは辞めておきなさい」


 ギャスランさんがミルカさんをなだめる。

 まあ、俺も女性に手を上げるような事はしたくないし、マックスの時のように煽るのもかわいそうだから、戦わなくて済むならそれに越したことはない。


「叔父さんは私が負けると思ってるの!?」


「そうだね、ミルカが勝つのは難しいだろうし、勝ったとしてもトラウマくらいはできてしまうんじゃないかな?」


「私だって大分強くなったのよ? 外から来たヒューマンに遅れをとるような事は……。って、ちょっとまって、勝ってもトラウマってどういう事!?」


 ギャスランさんの過小評価に対して、反射的に反論をしようと思ったようだが、言葉が少しおかしいことに気がついたようだ。 


「ギャスランさん、遠回しに俺のことディスってます?」


 一応聞いておかねばならないだろう。


「いやいや、あれほど鮮やかに手練達を無力化する手腕には、憧れこそすれ悪感情などありませんよ!」


 ギャスランさんが、とんでもないですと、俺の戦い方について良かった点やギャスランさんなりの解釈等をふまえ、今までに見たことも聞いたことも無い戦い方だったと語ってくれる。


「今まで生きて来た中で一番最悪な臭いのするポーションって何!?」


 ギャスランさん話しを聞いて、思わずと言った感じでミルカさんがツッコミを入れてきた。

 ミルカさんは、話しを聞いている最中も、くるくると表情が変わって何となくアリーセに似ている印象がある。


「違うよミルカ」


「え? なにが?」


「今まで生きて来た中で一番最悪な臭いのするポーションじゃなくて、今まで生きて来た中で一番最悪な臭いが、昏睡する程までに濃縮されたポーションだよ。 それを何十個と投げつける戦法なんだ」


「わ、わけが解らない……」


 ギャスランさん、細かいです……。


「ポーションの瓶は非常に割れやすく出来ていて、例え直撃をしなかったとしても、周囲にその臭いが立ち込めて、目に沁みる程の臭いで涙と鼻水が止まらなくなり、時にはえづく。 マトモに戦えなくなるんだ、もう悪夢としか言いようがない」


 ぶるりと身を震わせて恐怖の体験談を語って聞かせるギャスランさんだが、ギャスランにスティンクポーションを投げつけたことは一度もない。

 あと、念のために言うがそれでも人体には無害だ。


「そ、それだけ手の内が解って、遅れは取らないわ!! 要は投げさせなければ良いわけだし、投げる前に瓶を割ったら自爆させられるじゃない」


 攻略法が判明しているなら大丈夫だと言い張るミルカさん。

 ここのエルフ達は、なぜそんなに手合わせしたがるのだろうか?


「いやいや、他国他種族の俺にとっては、今のところ手合わせする事になんのメリットも無いんでお断りしときます」


 郷に入っては郷に従えというが、ここは従わずに外国人という立場を使って拒否させてもらおう。


「えー、手合わせする事そのモノがメリットじゃないの。 外の人って変なのね!」


「ミルカ、世界的に見れば我々の風習は極少数なのだよ? 手合せと称してすぐに戦いたがるのは、森の外では野蛮な行為とされているよ」


 ため息をつきながら言うギャスランさんの言葉をミルカさんが目を見開いて、信じられないという様子で聞いている。

 カルチャーショックと言うやつだろう。


「でもでも、何かメリットがあれば良いんでしょ?」


 ミルカさんもなかなか引かないな……。

 勝敗が着けば良いのだから、ここは元の世界のチェスや将棋、リバーシやトランプといったゲームを教えて、何これ凄い面白い! 的な展開に持って、エルフの国に文化的革命を起こして……。


「私の店は給湯器からゴーレムまで魔道具ならなんでも扱う店なんだけど、私に勝ったら好きな魔道具を持って行って良いわ。 外だと森の魔道具ってすごく貴重なんでしょ? 手合せの結果の移譲なら、条件はあるけど輸出禁制品でも持って帰れるし……」


「謹んで、挑戦をお受け致しましょう!」


 なんだよ、そういう事は早く言ってくれなきゃ駄目じゃないか。

 輸出禁制品でも、戦いの結果で得たものならば所有も持ち出しもOKとか、脳筋的なルールというか法律(?)も素晴らしいものに思えてくるな。

 なんか、ギャスランさんが「あちゃー」って顔してるけど、この機会を逃す手はない。


「決まりね、じゃあ店の裏で!」


「ミルカ、私は止めたからね? 後で泣いても知らないよ?」


 ギャスランさんが、何度も念を押している。


「ギャスランさん、心配しなくても流石に女性にいつもの様な事はしませんよ?」


 野郎共ならともかく、女性にスティンクポーションを投げつけるような気はない。

 魔導銃でちょっと麻痺ってもらえばそれで決着かな? とか思っている。


「いえ、むしろ容赦無くあのポーションを使っていただいて結構です。 我々エルフに女だからと半端に手加減をするのは最大限の侮辱にあたりますので」


 まじか……。

 エルフは男女平等であるらしく、最大級の侮辱になるとまで言われたら、手加減はできない。

 ミルカさんには悪いがサクッと終わらせてゴーレムを貰おうか。


 店の裏に抜ける為に店の奥へと向かうミルカさんの後に着いて行くと、箱状の魔道具が沢山積まれていた。

 店だと聞いてきたのに、店舗部分に商品らしい物が何も無く、幾つかのテーブルセットがあったため勝手に喫茶店的な店だと思っていたのだが、魔道具はエルフの国でも高価である為に表には出しておらず、商品カタログを見て欲しいものを決める流れなのだそうだ。

 後で俺もカタログを見せてもらおう。


 店の裏はちょっとした広場のようになっており、意図的に置いたのであろう樽やパーテーション等の障害物があり、訓練施設のようだった。


「なかなか良いでしょ? ここの時間貸しもしてるから、気が向いたら利用しに来て。 結界もあるから火魔法の使用も大丈夫よ。 さ、早速やりましょ。 開始の合図をしてくる魔道具があるから、それが鳴ったら戦闘開始ね!」


 待ってられないとばかりに、戦闘開始の魔道具のスイッチを入れるミルカさんだが、俺が負けた時の条件やルールの説明等も全くしていない。


「あのー、ルールとか俺が負けた時に渡すものとか決めてないんですけどー?」


「あー忘れてた! じゃー何でもありルールで、私が勝ったらしばらくお店でタダ働きって感じでどう!?」


「ミルカさんが良いなら、それで良いっすよ」


 途中で考えるのが面倒くさくなったかの様な返答だったが、俺としても何でありの方が助かるので否はない。

 少し離れて対峙した状態で待つこと数秒。

 合図であろう「カーン」というゴングの音が響き渡った。

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