181話 白物家電
ゴーレムに気を取られて気が付かなかったが、目の前には3階建ての王都等と似た様式の建物が建っていた。
周辺の建物は、世界樹の枝なのか幹だかを中央の柱として利用した円柱型のものが多いため、違和感が半端ない。
まあ、いきなり建物の様式が変わるとかって言ったら、多分大使館的な建物か迎賓館的な建物だろうな、とは予想が出来る。
道中見かけた蜘蛛の巣の様に張り巡らせられたロープはこの建物にも何本か括りつけられている。
「チョコチョコ見かける、あのロープは何なのでしょうか?」
気になったので、散々話を聞いたエルフに、再び質問をしてみる。
「ロープ? ああ、送魔線のことですか」
「そーません?」
「えーと、簡単に言えば魔力を送る魔道具です。 アレに他の魔道具を繋ぐ事で魔力が供給されて、魔石が不要になるんです」
送電線みたいなものか!?
「魔道具には接続プラグついていて、各ご家庭に設置してある端子に差し込めば魔道具が動くという仕様だったりします?」
「よ、よくご存知ですね。 ここに訪れてくる外の方でそれを理解される方は本当に少ないのですが」
理解も何も電気のコンセントとコンセプトが一緒じゃないか。
ココではどうやら魔力が電力と同じような運用をされているらしい。
「もしかして魔力にも圧力とか流れの速さがあったりるのかな?」
「ほうほう、それは興味深いねー、詳しく聞きたいなー」
俺が魔力にも電気の電圧や電流と似た特性があったりするのかという疑問を口にしたら、たまたま近くに来ていたワトスンが話に食いついて来た。
「魔法を学びに留学されて来られた方の護衛の皆様も、ただの護衛というわけではないのですね。 私がわかる範囲でお答えするのはやぶさかではありませんが、予定がございます。先にこちらでお寛ぎ頂き、謁見のご準備をお願い致します」
気がつけば王都っぽい様式の建物に入って居ないのが、案内のエルフ達を除けば俺とワトスンだけだった。
「ご主人様よ、皆を待たせるでないぞ」
先行していたパールが俺達を呼びに来た。
「おっと、また怒られるといかんな」
下手な貴族の館の扉よりも大分手が掛かってそうな、非常に細かいレリーフが彫り込まれた扉をくぐると、エントランスホールに皆が集まっていた。
内装も以前侵入した第二王子の屋敷と似た造りで、エントランスホールにはふっかふかの赤いカーペットが敷かれ正面に大きな階段があり上階へと続いているといった仕様だ。
王都から来た貴族が慣れ親しんだ様式になっているのだと思われる。
この館の使用人であろうメイド姿のエルフ達が出迎えをしてくれた。
メイドでエルフとか正直要素詰め過ぎだろうとか思ったが、俺の使い魔扱いのメイドラゴンよりはマシか……。
「私は親族の所へ厄介になりに行きますので、ご挨拶だけ済ませましたら、ココでお暇させて頂きますね。 いやいや中々楽しい道中でしたよ」
案内として着いてきてくれた太っちょエルフのギャスランさんが別れを告げてくる。
「あ、そうでしたか。 俺の方もギャスランさんが居てくれたおかげで孤立せずに済んで良かったです」
「それは何よりです。 しばらくはこちらの親類の家に居りますので、何かありましたら外環12番枝のミルカの店を訪ねて来てください」
「がいかんじゅうにばんし?」
「住所ですよ、太い枝には番号が振られているんです。 中心部から、中央、内環、中環、外環、縁環と外に広がっていくのですよ」
イメージ的にはバウムクーヘンの層の様な区画整理がされているらしい。
一瞬それは分かりやすくなってるなぁとか思ったのだが、道のアップダウンが激しい飢えに、伐採を行わずに道を作っているようでグネグネと曲がりくねっていたので、何処からが境になっているのか、ここ迄の道のりを思い出してもサッパリ分からなかった。
まあ、用事が出来たら誰かに聞けば良いか。
少し離れた所で、コリンナ様にエルフの使用人達が挨拶をしている。
たぶん、我々一同歓迎致しますー、とかやっているのだろう。
護衛として来ているのでぶっちゃけ蚊帳の外である。
取り敢えず、長ったらしい挨拶の間は暇なので、残念仕様じゃないメイドさんをガン見して置く。
「はいはい、メイドさんに見惚れてないで、私達はあっちで館の周辺を調べて護衛計画立てるわよ」
高級な調度品に囲まれ微妙に顔色の悪いアリーセに捕獲され、スゴイ早足で護衛用の控え室へと連れて行かれた。
コリンナ様にはグレイさんとヘンリエッテさんがついて行くので、一旦お別れだ。
護衛の控え室は、表のエントランスとは違い随分と質素な造りになっていたが、アリーセはむしろ落ち着くことだろう。
「取り敢えずくつろいじゃって良いのだろうか?」
「まあ、大きなイベントは今日はもう何も無いはずだ、あとで設備の説明に何人か来るぐらいだろうな」
Aランク冒険者様のマックスがそう言うので早速部屋を物色することにした。
控え室として用意されている部屋は談話室の様な10畳程度の部屋に寝室や簡易的な厨房等が隣接した造りになっていて、ちょっと高級なマンションのようだ。
残念ながら風呂は無かったが、各部屋には何らかの魔道具が設置されていて、その魔道具は家電のように壁にある1つ穴のコンセントの様なものに接続されていた。
なんというか、画期的なのだろうが家電っぽ過ぎて感動が薄いな……。
部屋のデザインは全然違うが、こちらに来る前に出向等で利用していた家具や家電が一式揃っているウイークリーマンションを思い出すな。
簡易厨房の棚からヤカンを見つけ出し、電気コンロっぽい魔道具でお湯を沸かしてお茶を煎れる。
冷蔵庫っぽい魔道具の扉を開けると、飲み物と幾つかのフルーツや軽くつまめるような軽食が冷やしてあった。
足下をチョロチョロしていたマルに冷やす必要があったのか不明な木の実をやって、とったどー!とばかりにフルーツを皆にも見せる。
「なんか美味そうなものがあったぞー、これ勝手に食って良いんだよな?」
メロンっぽい見た目のフルーツを取り出して来て皆にも食うか確認する。
独り占めは良くないからな。
「なんでイオリは、我が家の如く振る舞えるのかしら?」
「こんな見たこともない最新の魔道具を当たり前のように使ってますわね」
「使い方は何となくわかるけど、確かめもしないで何処になんの魔道具かまでわかってるみたいだねー」
生活家電と魔道具という差はあるが、使い方が似かよってくると使いやすい配置も似てくるようで、違和感無く使ってしまった。
厨房に入る時も、無意識的に壁に付いていたスイッチで明かりをつけたりもしたので、パーティのメンバーが不思議がっているようだ。
あれ、なんかマズかったかな?
「まあ、イオリだし今更ね」
「それもそうですわね、あ、その果物は皮ごと食べられますわよ」
「考えるだけ無駄だねー、お茶煎れるなら僕の給湯器の方が早いよー」
「もきゅーん」
「こらこらご主人様よ、そういう事は我の役目であろうに」
マルは、もっと木の実をくれとすり寄って来ているし、皆も普段通りに振る舞いだして、俺に魔道具の使い方を聞くなどして、早々に皆が我が家のようにくつろぎだした。
「お前ら適応力高すぎだろう!?」
マックスのツッコミの声が響いた。




