17話 冒険者ギルド
俺とアリーセは海外の銀行の窓口のような仕切りのあるカウンターの方へやってきた。
併設の酒場と受付のカウンターがあるスペースはパーテーションのような物で一応仕切られていて、喧騒こそ聞こえるが雰囲気はガラリと変わる。
カウンターの前は広くスペースが空けてあり、並ぶときのガイドになる線が床に書かれていた。
時間が時間なのか、こちら側はガラガラで5つほどある受付も、今は一つしか開いていないようだ。
窓口には、制服なのだろうかナースキャップを大きくしたようなデザインの帽子にバフスリーブのエプロンドレスっぽい服装のお姉さんが顔を覗かせていた。
「お帰りなさいアリーセさん、突発依頼とか聞こえてきましたが、その手続きで宜しいでしょうか?」
「それと常設依頼の達成報告と冒険者の照会も頼めるかしら?」
「他はわかりましたけど、照会ですか?」
アリーセの後ろに居た俺の方を受付嬢さんがカウンターから少し身を乗り出し気味に俺を確認してくる。こちらとあちらで仕切りがあり窓口の文字通りに窓が着いているので、視界が悪いのだろう。
「あ、どうも。よろしく……お願い……します」
身を乗り出して来た受付嬢の胸部の装甲の厚さに、思わず言葉が詰まる。身動きするたびに、弾力性と重力と慣性によって力学的にゆさゆさと揺れる様は思わず物理法則に感謝したくなる光景だった。
「どこ見てんのよ?」
カウンターの方に体を向けたまま、アリーセが首だけ回してジト目を向けてくる。ちょっとホラーな感じで背筋に寒いものが走る。やましいことはしていないはずなので寒いのは冷ややかな視線が原因では無いはずだ。たぶん。
「そ、そんなことより、手続きって何やればいいんだ?」
「はい、それでは、そちらの手続きから処理していきましょう。アリーセさんは冒険者証を提出してください」
受付嬢さんは、カウンターの窓枠に体の一部が引っかかりながらも、慣れているのか気にした様子もなく、もとのポジションに戻りテキパキとなにやら処理を行っていく。
ムニュって感じだったな。
羊皮紙を一枚取り出して、何やらアリーセが書き込んだ後、俺の方に首を向ける。
だいたい120度くらいだな。
「内容を確認して問題なければ最後のところにサインしてもらえるかしら?」
「わかった、見せてくれ」
内容を見ると、突発依頼であることと、受諾した冒険者、依頼内容、それと簡単にギルドの免責のようなものが書かれており、最後の署名欄は、依頼完了の署名のようだ。
特に問題は無いのでサインをする。
「では、規約によって依頼料の1割分をお願いします」
「あ、それは常設依頼の報酬と素材の買い取り額から差し引いて貰えると助かるわ」
「わかりました、では納品をお願いします」
アリーセは、了承を伝えると、自分の荷物から、剥ぎ取ったモンスターの討伐証明部位や素材を取り出すと、カウンターの下部分をスライドさせ、出てきた大きな引き出しの中にそれらを入れていった。
防犯の為なのか、ダイレクトにやり取りをしないようになっているようだ。
引き出しを閉めるとカウンターの向こうで受付嬢が引き出しの箱部分を取り外し奥のドアの中に運び込んですぐに戻ってきた。
多分向こう側に査定する人が居るんだろう。
想像以上にシステマチックなようだ。
「では、査定が終わるまでの間に照会を行いましょう。そちらのイオリさんの照会で宜しいでしょうか?」
「あ、じゃあお願い。イオリこっちに来てくれる?」
照会って何をするんだろうか?
「すみませんが、その前に一応事情を伺っても宜しいでしょうか?」
「えーと、そこのイオリは転移事故にあったらしくて、変な所に飛ばされたせいで頭を打って記憶がおかしくなったらしいのよ。冒険者証は持ってないみたいだけど、剣も一応使えるしジョブがノービスみたいだったから、冒険者登録があるんじゃないかと思って照会をお願いしたのよ」
なんか、説明しようとしたらアリーセがやってくれた。まあ、調べたとこで何も無いと思うけど、断るのも変だな。
「それで、大体合ってます」
「なるほど、それは災難でしたね、あ、申し遅れました。私エマと申します」
受付嬢改めエマは窓口から手を出してくる、握手の習慣があるようだ。
「あ、はいエマさん、宜しくお願いします」
握手を交わし、つられてこちらの言葉遣いも丁寧になる。
「私の事は、そのままエマとお呼びください。では照会をさせていただきます。有料となってしまいますが、全国のギルドで尋ね人等の依頼が出ていないかの確認も出来ますが、どうなされますか?」
「それって、幾らくらいするのかな?」
「はい、ギルドの通信魔道具を使って行いますので、1回1000ナールかかります。とは言え、こちらから問い合わせるのではなく、どなたかからこちらのギルドに問い合わせがあった場合は無料でお伝え致します」
高いな、あるか分からない情報に10万かまあ、ぶっちゃけ調べないというのは不自然な気がするんだけど、これなら金額を理由に断れるな。調べたところでなにも無いわけだし。
「うーん、現状お金を稼ぐ手段が無いので、問い合わせを待つ事にします」
俺が結構金を持っている事を知っているアリーセが、首をかしげているが、特に口出しはしてこない。
「分かりました、では、イオリさんの登録があるかどうか照会をしますので、こちらに手を乗せて下さい」
出て来たのはまたもや水晶のような玉だった。木製のフレームに真鍮か何かで装飾がされた台に乗っていて、横に円形のガラス板がついていた。触れる部分が入街審査の時に使った魔道具によく似ている。
わっしと水晶玉部分を掴む。と、エマが下の台のガラス板を覗き込んでいる。液晶パネルみたいなものなんだろう。
魔法、進んでるな。
「残念ながら、登録は無いようですね」
「えー、絶対冒険者だと思ったのに」
アリーセがなぜかすごく残念そうにしている。
「いやほら、すごく遠方の国の冒険者の可能性もあるじゃないか」
「あ、いえ当冒険者ギルドは、世界中にありまして、冒険者の情報や広域に出される依頼等はこれらの魔道具によって世界中どこの冒険者ギルドでも照会が可能です」
「何それ凄い」
文明のレベル的には中世のようだが、魔法という存在で元の世界に近い、もしかしたらそれ以上のものもあるのかもしれない。
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