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179話 世界樹の秘密(別に隠されてはいない)

「HPを上げているのにダメージがじわじわとくる……」


 俺は、カッチリと極められていたふくらはぎの下あたりをさすりながらつぶやきをもらした。

 HPは減らないが痛みは感じてしまう仕様において、アリーセが俺にかけた関節技というのは、非常にやっかいだった。

 何故ならば、通常のダメージであれば痛みがあっても次の瞬間には回復しているので我慢のしようもあるのだが、関節技の場合技が外されるまでずっと痛いのである。


「イオリはステータスが無駄に高いからね、色々考えた結果これが捕獲後に1番逃さない方法だったのよ」


「無駄にって酷くね!?」


「アリーセさんは種族的にも一流のハンターですからね、本気で逃げたイオリさんを追うなんて彼女にしか出来ませんわ」


 エーリカが、追加で説明してくれた事によると、ステータスが圧倒的に負けている獲物でも、その特性や癖等を徹底的に観察し、追跡、捕獲または討伐、狩猟する事が本能的に染み付いているのだそうだ。

 王都で俺が脱走しまくったせいで、その本能に火が付いてしまったらしく、俺に対しての対処法は完璧だそうだ。


「今なら、伝説のモンスターでも狩れる気がするわ」


「このパーティは戦闘力だけで見ればAランクの上の方だと思うぞ」


 マックスが、そう評価をした。


「じゃあ俺達全員Aランクに昇級出来るのか?」


「戦闘力だけじゃAランクにはなれないぞ、王族とも接する機会があるからな、礼儀作法、思想、人柄、教養、ってな具合に総合的に判断されるんだよ。Cランクになった時点で聞いたろ?」


「とすると、俺はAランクになれると?」


「この中で1番、思想と人柄って部分で引っかかるでしょイオリは!」


 スパンとアリーセにハリセンで叩かれる。


「アリーセだって、礼儀作法で引っかかるだろ?」


「良いの! Aランクなんてなりたくも無いわ! 殆ど冒険者らしい依頼なんか来ないし、気苦労としがらみが増えるだけじゃない、現場が1番よ!」


 アリーセの身分アレルギーは健在のようだ。


「まあ、確かにそう言えるかもしれませんね、政治的に影響力がありますし、下級貴族よりは上の身分として扱われますからね」


「冗談はともかく、エーリカは普通にAランクになれそうな気がするけど、どうなんだ?」


「あら、ありがとうございますわ。 ですが魔法に特化させすぎてしまっていて、オールラウンドには出来ませんので、無理なのですわ」


 Aランクの魔法使いは近接戦闘も並以上に出来ないと駄目らしい。

 しかし、エーリカは一騎当千の魔法なんていう自己バフが使えるから並以上どころか英雄並に近接戦闘をこなせる。

 それなのに駄目なのはおかしい気もするが、魔力が切れてしまえば意味が無いからなのだと言う。


「なんだか魔法使いに厳しい様に聞こえるな」


「以前は知らないが、朝から晩まで魔法を使い続けても魔力が枯れないんだろ? だったら十分昇級申請するだけの資質はあると思うぞ」


 ほう、それはココにあるギルドでAランクに昇級するフラグだな?


「それは発動体の効率が恐ろしく良いからです。 素の状態ですとその3分の1にも届きませんわ」


「いやいや3倍も効率が良くなる発動体って何だよ!?」


 珍しくエーリカがツッコミを受けている。


「アーティファクト並の杖ですわね、そこのイオリさんが持っていたんですわ。 ぽんとそれをくれるとか言い出した時には流石に驚来きましたケド」


 エーリカが、俺を指差してその事をバラす。


「アーティファクト並の杖持ってて、まじモンのアーティファクトまで授けられて、お前本当にナニモンだよ!?」


「え? ド○えもんかな?」


「意味がわからんわ!」


 ぎゃーぎゃーうるさいマックスをなだめているうちに、案内に来たエルフが目を覚ましたようで、そろそろ行きますよーとヘンリエッテさんが呼びに来た。

 この惨状を見て、エルフ達の態度が随分と軟化したようで、対応が楽になったそうだ。

 ある程度舗装してあるとはいえ、樹上という特性上アップダウンが激しく道も細いので、徒歩での移動となるようだ。

 パーティの前後をエルフに囲まれながらの移動だが、お構いなしにキョロキョロと周りを見回す。

 太い枝をベースにぐるりと取り囲むように円形に作られた建物が多いようで、独特な雰囲気が漂っている。

 用途は不明だが、枝と枝や建物の間にはロープが電線ように張り巡らされていて、蜘蛛の巣のようにも見える。

 道は枝の間を縫うようにグネグネと曲がりくねり、分かれ道も多い為迷路のようになっている。


「高低差もあるし、コレは確かに案内が居ないと目的地にたどり着かなそうだな」


「帰り道くらいは憶えておくのよ?」


「アイアイマム、逃走経路の確認は大事だからな」


「道を憶えるのは冒険者としての基本でしょ!? 逃げる前提だけじゃないわよ!」


 アリーセにCランクなんだからもうちょっとそれらしくしなさいと怒られてしまった。

 ちょっと悔しい気がしたので、じゃあ礼儀作法もBランクらしく、と言い返そうかと思ったのだが、無言の笑顔が怖かったので、素直に謝っておいた。

 とりあえず先に謝罪しておくのは社会人としての必須スキルだな!


 少し進んでいくと、勝手に中心方向に向かっているのかと思っていたが、世界樹の外周に沿って歩いているらしい事がわかった。

 なぜわかったかと言えば案内のエルフが、そこそこ広い範囲の広場のようになっている場所で、ココから中心部方向に向かいますと言ったからである。

 広場の周りには、開口部を広く取った扉の無い商店がいくつも並んでおり、賑やかな様子が伺える。

 食材や雑貨などだけでなく、よくわからない品物が並べられた店なども幾つかあって、フラフラと見に行きたくなる。


「はいはい、見に行くのは一通り終わってからねー」


「ぐえっ」


 無意識に店舗の方に足が向いていたらしく、アリーセに首根っこ掴まれて引き止められた。

 中心部方向に向かうと足場が板張りの舗装から、所々岩が剥き出しになっている部分がある。


「なんで岩が?」


 実は薄くなってって舗装用に使っているというのならばわかるが、明らかに埋まっているように見える。

 もし見えているだけの部分しかなかったとしても、ゴンドラで運ぶには些か大きすぎるように見える。


「ああ、あれは地盤が見えているだけですよ」


「地盤?」


 近くを歩いていたエルフが俺の呟きを聞いて答えてくれた。


「ええ、地盤です。 確認した者は居ないのですが、世界樹の中心部には岩山があると言われているんですよ。 さらに言えば世界樹は一本の木ではなく、いくつもの木が絡み合い融合した木なんですよ。 ほらあそこなど葉の形が違うでしょう?」


 元の世界にも150mを越える高さの木が現存するので、ファンタジーなこの世界ならば、魔力を取り込んで成長したとか、そういう想像を越える大きさと強度を持った木があっても不思議じゃないと思っていたが、思ったよりも現実的な仕様の話を聞いてしまった。

 その話によると、世界樹の中央にはエアーズロックのような岩山があり、その表面を覆うようにびっしりと木が生えているということらしい。

 一応、木と木がすべて癒着しているという不思議な現象は起こっているが、一本のでっかい木では無いという事実に、ガッカリ感があるな。

 こっそり世界樹の枝を切ったら凄い素材が手に入ると思っていたのに……。

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