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175話 でかすぎる

 想像と大分違った世界樹に近づくと、人がちらほらと見えてきた。

 世界樹の根本まで行くということだったので、街中を通って行くのかと思っていたのだが、人は見かけるのに世界樹の周りの木の上にも、地面にも建物らしいものが一つも見当たらない。

 まさか地下に住んでいるとかじゃないだろうな?


「大分世界樹に近づいたような気がするんですけど、周りに何も無いんですね?」


 ギャスランさんに素直に聞いてみる。


「ああ、まだ先程のところから半分も来てませんからな。 世界樹がけっこう近くにあるように見えますが、まだまだ先ですよ」


 マジか、すでにかなり大きく見えているのだが……。

 さらに近くまで来て、その世界樹の大きさに圧倒された。

 木の幹というよりも岩でできた城壁のようにも見える。 遠くから見たシルエットは切り株のようであったが、ちょっとした山よりも世界樹の方が遥かに高さがあるようだ。

 根本に近づくと、地面から10mくらいの高さがある世界樹の根っこの上を馬車が進んでいた。

 根っこと言っても、今まで通ってきた道の3倍以上の幅があり、根っこを傷つけないようにするためか木の板で舗装がされているので転げ落ちる不安感も無い。

 俺が流石に幹までたどり着いただろうと思ったその倍以上の距離を進んでやっと馬車が止まった。

 根っこは、もう地面と区別がつかないほどに幅が広くなっており、馬車などを止めておくようなスペースが設けられていた。

 ここも木の板で舗装がされているが、建物はまったく見当たらない。

 根っこの端っこから下を見下ろせば、遥か下の方に普通の木が生えているのが見える。

 比較対象物が乏しいのでよくわからないが、下まで50m以上はありそうに思える。

 上を見れば、軽く霞が掛かるくらい先に青々と葉が茂っており、まるで巨大な屋根のようでもあった。

 世界樹の幹からは、なにか棒状の人工物が見えるが、遠すぎて何であるかまではよくわからなかった。

 シゲシゲと世界樹を観察していると、世界樹に取り付くように左右に伸びている道からエルフらしき人が集まってくるのが見えた。

 馬車が通れるほどの幅はないが、あの道の先に街があるのだろうか?

 独特な文様の入った皮の鎧を着て弓を持ったエルフの守衛が、何人かこちらに向かってくる。

 守衛のエルフも概ね美形揃い……でもないな。

 いや、美形と言ったら美形なんだろうけど、普通におっさんっぽいエルフも混ざっているな。

 ギャスランさんとグレイさんが、来訪目的を告げると、ここで少し待つように指示がだされた。


「いや、これほどデカイとは思わなかったな」


「ああ、俺も始めて見たが、これほどとはな」


 マックスも驚いているようだ。

 しばらくすると、何人かのエルフが、上を見ながら慌ただしく動き始めた。


「おお!? 何だありゃ」


 マックスが上を見ながら声を上げたので、俺もそれに倣って上を見てみると、大きな籠がいくつも下りてきた。

 籠にはどうやらエルフが乗っているようである。


「ゴンドラか!?」


 ここまで来て流石に察しがついた。

 根本の周辺に建物が無く、世界樹の上からゴンドラが下りてきたとなれば、答えは一つだろう。


「エルフの樹上都市って、この世界樹の上にあるのか!」


「ご名答です。 中央のエルフはこの世界樹の上に街を築いて暮らしております。 森に住むモンスターや万が一攻め込まれても、この世界樹が守ってくれます。 そして、我々は世界樹の世話をすることで共存をしているわけですな。 どうです? 驚いたでしょう」


 戻ってきたギャスランさんが、してやったり、といった顔で言ってくる。

 迷いの森だけでも迂闊に手が出せないのに、こんな天然の要塞のような場所で暮らしているのならば、確かに攻め入るのは難しいだろう。

 空を飛ぶモンスターでなければ、コレを登って行くというのも大変だろう。


「馬車と荷物は別に引き上げてくれるそうですので、皆さんは馬車から居りて順番にゴンドラに乗ってください」


 グレイさんがこちらに来てゴンドラに乗るように言ってきた。

 ゴンドラは思ったよりも大きく、6人程度ならば余裕で乗れそうだ。

 ゴンドラは、丈夫そうなロープで吊り下げられているが、そのロープの先は高すぎて見えない。

 ぶっちゃけ、絶叫マシンよりも怖そうな予感がする。

 コリンナ様、グレイさん、ヘンリエッテさん。

 アリーセ、エーリカ、ワトスン。

 俺、ギャスランさん、マックス、パール、マル。

 といったほぼ馬車に乗っていた面子の組み合わせに別れる。 それぞれのゴンドラには操作をするエルフの係員が2人ずつつくようだ。


「では、引き上げます。 揺れますので縁などにしっかりと捕まっていてください」


 係員がそういってまもなく、ゴンドラについている緑色の魔石っぽいものに触れると、ゆっくりとゴンドラが登って……行かなかった。

 いや、コリンナ様の乗ったゴンドラとアリーセ達が乗ったゴンドラは難なく登って行ったので、登っていかなかったのは、俺らが乗ったゴンドラだけだ。

 係員の2人が、おかしいな故障か? とか、いや、ロープが軋んでいる確実に引き上げられているはずだ。 とか言い合っているのが聞こえた。

 うん、原因は一つだろうな。 声を潜めて現況に話しかける。


「パール、重量オーバーだ。 人並みに軽くなることは出来るか?」


「重量オーバーだと? これでも随分と軽くしておるというのに、なんと脆弱なものよ」


 いやお前馬車がミシミシ言うくらい重いだろ。


「仕方がない、我は自前で飛んでいく」


「元の姿に戻ったり、羽出したりするなよ?」


「わかっておる。ちゃんと人に合わせてやるから安心せい」


 パールがそう言ってパチリと指を鳴らすと、何処かで見たことの有る、柄の曲がった箒が出てきた。


「おい、ちょっとマテ。 なんで箒出したんだよ」


「ご主人様の知識であろう? 人が飛ぶ手段は色々あるようだが、最新型だとかいうコレが一番楽そうだったのでな」


 それ、現実の話じゃなくて、メガネの少年魔法使いが出てくるイギリスの映画の話だから!


「では、我は先に行く」


 止める間もなく、パールは箒にまたがりバサバサとスカートを翻しながら箒で飛んで行ってしまった。

 って、それ一体どんな原理で飛んでるんだよ!

 重力制御でもしてるのか!? 制御できるなら人並みの重さに自分を調整しろ!


「と、飛んだ!?」

「最近の外の者たちは飛べるのか!?」


 なんかエルフの係員達が驚いている。

 いかん、なんとか誤魔化さねば……。


「れ、錬金術で作った試作品の新しい魔道具です!」


「なんと、外はそんなに進んでいるんですね」


 強引だったが、納得してくれたようだ。 なんか世間知らずっぽい人で良かった。

 パールが降りたことで、重量が軽くなったゴンドラは問題なく引き上げられていく。


「小柄な女性一人くらい問題無いはずなんだが、どうして引き上げられなかったのだろう?」


「なんででしょうねー、不思議ですねー」


 腑に落ちないといった表情の係員を尻目に、俺は上昇していくゴンドラからの眺めを楽しんだった。


「もきゅ」


 いや、現実逃避とかじゃないからな?

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