170話 死ぬより辛そう
エーリカのお陰で汚らしくて臭いおっさん達の素性がわかってしまったのだが、面倒くさいことにコイツらのアジトが帝国側にあるらしく、対処療法的な対応しか取れないのである。
帝国側には盗賊団のアジトがある事を知らせてあるようだが、放置されているようだ。
「コイツらどうしようか?」
「本来でしたら王族を襲ったワケですから、その場で手打ちか死罪ですね。 まあ未遂で終わったとしても労働奴隷として一生鉱山で働くことになるでしょう」
グレイさんが口汚く騒いでいるおっさん等に聞こえるようにさらりと言う。
まさか王族だったとは思わなかったらしく半分くらいのおっさん達は状況がわかったのか顔を青くしている。
残り半分は舐めて掛かっているのか、再び口汚く罵りはじめた。
「騒いでいる奴等は本拠地にいる連中はともかく、自分達が無事に帰れるとでも思って居るのかしら?」
アリーセが当然の疑問を口にする。
「そもそも頭が悪いからこんな事をしているんですわよ」
「ゴブリンでももうちょっと自分達の状況くらいわかると思うけどねー」
女性陣の会話に半分のおっさん達はますます顔が青くなり、残り半分はますます罵り具合が増していく。
グレイさん的には今すぐ斬って捨てたいようだが、コリンナ様にそういう所を見せたくないと、血なまぐさくなる対処を我慢をしているようだ。
「じゃあこうしようか、パールちょっと来てくれ」
「なんだ、我は何をすれば良いんだ? 滅するか?」
「イヤイヤ、物事はもっとスマートに行こう、まずコイツ等をだな……」
「フムフム、それの何処がスマートなのか我にはわからんが、まあ良いだろう」
数分後、四つん這いの姿勢でパールが作り上げた壁から首と手だけ出した状態で拘束されたおっさん達のオブジェが出来上がる。
その間に解析ツールでコードをゲットしてチートツールを使い、おっさん達のスキルを軒並みLV0にし、ステータスも一般人よりちょっと低めくらいに落としてやる。
面倒くさいので一律にしてしまったが、急激にステータスが下がったことで脱力感や頭痛、吐き気、目眩、呼吸困難等が起こっているようだ。
これ、ステータスを短時間で上げ下げしたらただの拷問だな……。
「さて諸君、我々はこのまま諸君らを放置して去ろうと思う」
道に沿うように仲良く並んで壁に拘束されているおっさん達は、流石にこの状態で放置される意味がわかったのか、ずっと口汚く罵って来ていた半分のおっさん達も顔を青くして途端に命乞いをはじめてきた。
その様子を見たグレイさんが、ツカツカと壁に進んでいき、ドカっと蹴りを入れた。
「黙れ、今日、今この時、この場に来た事を後悔しながら、誰にも知られることなく緩やかにココで静かに朽ち果てろ」
ちょっと、グレイさんがコリンナ様にはとてもお見せできないような顔で言い放った。
普段あんまり怒らない人が怒ると怖いってやつだな。
「餞別として、この周辺に出没するモンスターについて教えておこう」
一呼吸置いて様子を見てみるが、軒並みギョっとした様子だ。
このまま放置されてゆっくりと衰弱していくであろうことは容易に想像ができるだろう。
しかし、この世界にはモンスターがいる。
まあ、元の世界でも熊とか人を襲う野生動物が居るが、この世界のモンスターほど身近なな存在ではない。
衰弱死や餓死するよりもモンスターに襲われるという方が遥かに可能性が高く、他の仲間が居て助けが来るかもしれないという淡い期待を持っていたとしても、それを待つこと無くモンスターに襲われてしまえば意味がない。
「まずはゴブリン、もしゴブリンが諸君らの姿を見つけたら喜々として襲い掛かってくるだろう。 そして、諸君らが動けないと分かれば、意地の悪いゴブリンは娯楽としてじわじわと苦しめながら、なぶり殺しにするだろう!」
大袈裟な身振りで話していくと、ごくりとツバを飲む音が聞こえる。
「だがしかし、幸いこのあたりでの出没頻度は非常に少ない。 諸君らがゴブリンに遭遇する可能性は低いだろう」
ゴブリンは基本的に森に生息している。 草原地帯は単純に食べるものが少ないからだと言われているようだ。
おっさん達はあからさまにホッとした様子だ。
「次にグラスウルフ、もし飢えたワイルドウルフが諸君らを見つけたら、たちどころに食料とされてしまうだろう。 他のウルフ系のモンスターに比べれば小型であるグラスウルフであるが、その獲物の倒し方は壮絶だ、小型であるがゆえに首などの急所に牙が届かないグラスウルフは腹を引き裂き生きたまま内蔵を食らうのだ」
この辺の狩りの習性は、元の世界のリカオンなんかと同じだな。
ひゅっと息を呑むような音が聞こえた、リアルに想像してしまったのだろう。
「だがしかし、このあたりは討伐がすすんで、昨今の出没情報は無い。 諸君らがグラスウルフに襲われる可能性も低いだろう」
こんなのが街道にいたら、大変なので冒険者だけでなく国の騎士団や兵士団がせっせと討伐をしているのだ。
おっさん達は、またあからさまにホッとした様子だ。
「最後に腐ウォリクン、最近王都でその存在が確認された新種のモンスターであるウォリクンの亜種だ。 ウォリクン種は邪な気を好むとされ、諸君らのような者を見つけると何処かに連れ去る習性があるらしい、その戦闘力はAランクの冒険者をも手玉にとってしまう程だ」
おっさん達がナニソレ?と微妙に首を傾げている。
「俺、王都に潜入していた時に、その話を聞いたことがあるぞ! 第二王子がそいつに襲われて行方不明になったらしい、近衛騎士まで出張って討伐隊が組まれたが、被害が出るばかりだったとか」
おっさんの中で比較的年若そうだけど、やっぱりおっさんな奴が語ってくれた。
なんか、俺が聞いた話と違うけどまあいいや。
「知っている者も居たようだが、この辺りに出没するのはその亜種だ、字面からアンデットである可能性もあるが、問題はその習性にある。 腐ウォリクンのオスは、諸君らを間違いなく襲うであろう」
ざわざわとしだすおっさん達を確認して言葉を続ける。
そして、俺が次に放つ言葉で絶望の海に叩き込まれることになる。
「性的な意味で!」