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167話 キグルミと旅立ち

「どうかしまして?」


「あ、いや俺の勝手なイメージなんだけど、エルフって美男美女ばかりなんだって思ってて……」


 エーリカとひそひそとそんな話をする。


「どんな種族でも、個人差がありますでしょう? むしろ画一的に美男美女ばかりという方がおかしいと思いますわよ?」


「そうは言うが、どう見てもオッサンな11歳の少年が居たからさ」


「それは、年齢がヒューマン基準で若く見えるか老けて見えるかの違いで、容姿の良し悪しでは無いのでは?」


 あ、いや、ごもっともだし、それには反論のしようも無いのだが、この釈然としない気持ちをどうすれば良いのだろう?

 そういえば、海外の映画で出て来たエルフってサンタクロースの助手的な立ち位置だったり、なんかもっとモンスターっぽいのも居たような気がするな……。


「どうもどうも、イオリ先生とはご縁があるようですなぁ」


「あ、はい、そうですね。 何かと俺の講義にも参加して頂いてありがとうございました」


「いえいえ、私が提唱する実戦魔法の視点から言っても、大変興味深い内容でしたから」


 いやいや、どうもどうもと、ギャスランさんと話していると、なんだかもとの世界での仕事を思い出すな。

 あ、でも確か奥さんと娘さんが結構な美人さんだったような?


「そういえば陽光の森というのは大森林の事だったんですか?」


「大森林と言いましても広いですからね、南東側の一部をそのように呼んでいるんですよ」


 なになに町とか、なになに村と言うようなイメージと同じであるらしい。


「とは言え、皆さんが向かわれる中央の世界樹の森にも何度も行っておりますので、ご案内に関してははご心配なく」


「世界樹ですか!?」


 それは是非とも見たい。 不思議なパワーがある素材とかも手に入りそうだし!


「ええ、それは立派な木でしてな、外から来る方は皆さん驚かれます」


 世界樹だからな、雲に達するくらい大きくても不思議では無いな。

 根本にダンジョンとかあっても驚かないぞ。


「挨拶だけのつもりでしたが、少々長居してしまいましたな。 では、出発の日になりましたらよろしくお願いします」


 そう言って恰幅の良いエルフのギャスランさんは帰っていった。

 俺がアーティファクトをリーラ様から直接貰った話は知っているはずだが、その事には一切触れなかったな。

 なんというか、落ち着いた大人の余裕を感じる。


「やっぱりエルフって長命なのかな?」


「そうですね、正確にはわかりませんが、600年から700年くらいまで生きるらしいですわね」


「それは想像を絶するな」

 

 700年前とか日本でまだ鎌倉時代だ。 そのくらい前の人がまだ生きているかもしれないとか、客観的に考えても凄い。


「それだけに、長生きをされている長老陣営は周辺各国の歴史等にも詳しく、何代も前の王等も良くご存知で、政策の転換やその結果なども実際にご覧になっているため、外交相手としては非常に手強い相手であるとも聞いておりますわ」


 うむ、エーリカのwikiっぷりは相変わらずだな。



 それから数日が経ち、やっと出発の日を迎えた。


「やっと出発かー。 イオリがキグルミ姿で外をウロウロしだしたときは、どうしてやろうかと思ったわ」


「いや、だって、錬金術師ギルドとかにいろいろ頼んでたし、頼んだ物を受け取りに行かないわけには……」


「そこ以外にもあっちこっち行ってたわよね?」


「そ、それはパールが、人の街をいろいろと見て周りたいって言うから仕方なくだな……」


「それで、本音は?」


「部屋にいても見張りが居るし、暇だったものでつい……」


「毎回連れ戻すのに駆り出される身にもなりなさい!」


 今日も朝からハリセンのいい音が響いた。

 ちなみに、脱走した回数は12回、いずれもアリーセが居ないときを見計らって行ったが、まかり間違って王との謁見という事態になることを誰よりも恐れているアリーセの本気の追跡を逃れる事は叶わず、大体30分もしないうちに毎回捕獲をされてしまった。

 最初の数回はハリセンで叩かれていたが、最後にはブチ切れたアリーセに発見と同時に飛び蹴りを食らい、流れるようにフィギュア・フォー・レッグロックを決められたりした。

 HPが減らなくても、関節技のダメージは下手な呪いのアイテムよりもキツかったです。

 その姿を幾度か目撃をされて、見たことが無いほど巨大なクレバーファーラットをスパルタ的に使役する女テイマーが居ると、街中で噂が広がり始めていたりするらしい。


 まあ、それはさておき、なんとなく逃げるような雰囲気で、馬車はまだ暗いうちから王都を出発した。

 馬車はコリンナ様とヘンリエッテさんで1台、あとは単純に男女とで分かれて2台の合計3台が並んで進んでいる。

 男女に分かれてはいるが、パールは一応俺と一緒の馬車に乗っている。

 パールが非常に重たいため、人数的に少ないこちらに乗らないと、馬車が動かなかったからだ。

 乗った途端に馬車がギシっと沈みこんだので、馬車の耐久度を減らないようにチートコードを使って壊れないようにはしておいた。

  馬車自体は貴族が使うものなのでそれぞれが大きめに造られており、パッと見でも高級そうである。

 ちょっと派手であるが、これはこの馬車に貴族が乗っているぞ、とわかりやすくするためでもある。

 要所にある街等で、スムーズに通る事ができるし、よほど腕に自信があるか馬鹿でもない限り、盗賊に襲われる事もないそうだ。

 腕の立つ護衛が居て、尚且つ下手に手を出せば討伐隊を組まれてしまうような相手であるからだ。

 そもそも腕に自信があれば、冒険者や傭兵などになれば食うに困る事は早々ないので、盗賊になるような連中に貴族の護衛をなんとかできるほどの腕の立つ奴が居るなんてことは無いそうだ。


 他国の間者とかが盗賊に扮して襲撃を仕掛けてくるとかは無いのだろうか?

 ……あんまり考えたり言ったりするとフラグになりそうなので、これ以上は考えないことにする。


「ふむ、この程度の物ならば、我がドラゴンの姿に戻って目的地まで運んでやろうか? 1日とかからずにたどり着くぞ?」


「止めて下さい。 あとドラゴンにならなくていいので服も脱がないで下さい!」


「我に敬語を使うのは不自然だと言ったではないか?」


「往来で服を脱ぐ方が不自然だからな!?」


 この自然派ドラゴンはスキあらば服を脱ごうとするので困る。

 俺と契約をして、人の社会で全裸になる事がどういう事なのかわかっている筈なのに……。


「いやいや、この方が伝説のエンシェントドラゴンであるとは、知らなければ信じられなかったでしょうなぁ」


 同乗しているギャスランさんがパールを見ながら感想を述べる。

 俺の方やパール本人からエンシェントドラゴンである事を打ち明けたわけではないが、ギャスランさんはすべての事情を知っているようだった。

 すべて知った上で、これだけ落ち着いて居られるのは、やはり長く生きているからだろうか?


「もきゅ」


「お前は身軽そうで良いの」


「もきゅー」


「なんと、お前は服を着ても構わんというのか? この窮屈さがわからんからそんな事が言えるのだ、試しに着てみるといい」


 俺とギャスランさんが話している間に、パールとマルが何やらやりとりをしている。

 パールが右の人差し指を立てて軽く回してマルに向けると、ぽん、という音を立てた。


「もっきゅー!」


 パールが着ているメイド服とそっくりなデザインの服を着たマルがそこにいた。

 メイド服を着たマルは、まんざらでも無いようで、その場でクルクル回っている。


「ほほう、幻術の類では無く服を魔法で作り出すとはすさまじいですな」


 ギャスランさんが、パールの魔力ゴリ押し魔法を見て感心している。


「もきゅーん」


「なんだと、お前は苦にならず、むしろ嬉しいというのか!?」


「もきゅっ」


「ふむ、全く問題無いのか。 もしや弱き生き物は服を好むということなのだろうか? ……まあ良い、気に入ったのなら、しばらくそのままでおれば良かろう」


「もきゅ!」


ん、お帰りくださいませご主人様だって? 俺から仕入れた知識だろうが、それだと意味が間違ってるからな?

次回更新は21日です。

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