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幕間 ある領主の子女の回顧録 上

ある領主の子女の回顧録


 私はコリンナ・ローデンヴァルト。 今年7才になった、フェルスホルストを治める一族の長女です。

 一応王家の血を引く由緒正しい家系なのだそうですが、私の継承順位は42位なので天変地異が起きても王位につくことは無いと思います。

 こんなにいっぱい継承順位をつける必要があるのでしょうか?

 私は小さな頃から魔法の才能があると言われ、ほとんどの魔法の才能がある貴族の子息子女がそうであるように、物心ついたときから魔法の手ほどきを受けておりました。

 しかし、自分の中の魔力感じ、それを操作するというところまでは出来ても、いざ魔法の発動をするとなると、途端に出来なくなってしまって居たのです。

 魔法を使う為には、発動する魔法がどのように起こるのかをイメージして、自分の中の魔力をそれらに変換していくという作業が大切なのですが、私にはこのイメージがうまく出来ませんでした。

 様々な方が私の家庭教師としてこの世の❘ことわりを教えてくれましたが、どうしてその理で、その現象が起きるのかが私には理解できずにいました。

 Bランクの冒険者であるエーリカ先生が言うにははヒューマンの目には見えないけれど、この世界には属性を司る精霊が居て、それらが様々な現象を引き起こすと教えてくれました。

 見えないのにどうして存在するとわかるのか? と聞いてみたら、エルフと呼ばれる非常に魔法を扱う事が上手な種族の方々は、この精霊が見えるそうで、居るのは間違い無いのだそうです。

 けれど、その精霊がどの様にして現象を起こすのかがわからず、結局魔法は使えずにいました。

 火を灯す為に、十分な量の精霊を集めるとまではわかっても、その集める精霊は何処から来るのか? とか、何故精霊が集まるとその現象が起きるのか? 単体では現象が起きないの何故なのか? と、次々に疑問が湧いて来てしまい、どうしても魔力を上手く変換する事が出来なかったのです。

 早々にサジを投げられてしまわれた他の先生方と違いエーリカ先生は、そんな私にも根気よく授業を続けて下さいました。

 

 私のように、才能があるのに発動しないという方は意外と多いそうで、ある日突然使えるようになったり、この世の理は1つではなく、様々な流派として存在しているので、いずれ相性の良い流派が見つかって使えるようになったりするから諦める必要は無いと励ましてくれたのがとても嬉しかったのを憶えています。

他流派で教える理を調べ上げて、それを私に教えてくれたり。

 他の流派との共通点だけを突き詰めた流派があると知って、ご自分なりにその共通点をまとめて、少しでも私が理解しやすいようにとしてくれたりもしました。


 相性が悪いのにもかかわらず、エーリカ先生の流派で学んでいたのは、ある日突然使えるようになればいいな、という淡い期待と、ここまで親身になってくれた先生が居なかった事が大きかったと思います。


「自分の中にある魔力の制御や操作等は流派が変わってもほとんど差が無いので、その練習だけは怠らないようにすれば、いつか必ず魔法が使えるようになりますわ。 私が知るかぎり、早々に魔法が使えるようになる貴族のご子息ご息女の方々は、それで満足してしまい制御も操作も未熟なまま禄に練習をしないので、周りが囃し立てるほど魔法を使える方というのが驚くほどいらっしゃらないのです」


「魔力の制御や操作が上手に出来ると、何が変わってくるのですか?」


「良い質問ですわ。 まず一番大きいのは効率です。 小さなティーカップに水を注ぐのに大きなバケツをひっくり返すような事はしませんでしょう? 制御は大きなバケツではなくふさわしい大きさの水差しを容易する技量、操作はその水差しでこぼさずに適量をティーカップに注ぐ技術だと思っていただければ良いですわ」


「なるほど。 制御や操作が出来ないというのは、毎回それだけ無駄なことをしているということになるのですね」


「そして、それが上達しますと、流派の相性があまりよろしくなくとも、魔法を発動させることが出来ます」


「本当ですか!?」


 私は思わず、椅子から立ち上がって聞いてしまいました。


「はい、本当ですわ。 先程の例で説明しますとティーカップを水で満たすというのが魔法の発動だとすれば、水差しやバケツというのが流派だと思ってくだされば良いのです。 他の水差しやコップ等で水を注いでも、注ぐのがバケツのままでそーっと注いでも、ティーカップを持って直接水瓶から汲んでも、ティーカップを水で満たすという結果は同じでしょう? そして、どの方法であっても離れたところに水を注いだり、水瓶の無い所で水を汲もうとしても水は満たせないわけですわ」


 エーリカ先生が優しい笑顔で私にそう教えてくれました。

 相性の良い流派が見つからなくても魔法が使えるかもしれないと知った時の私の嬉しさはうまく説明が出来そうにありません。

 私は魔力の制御や操作を今まで以上に一生懸命練習しました。 出来ればエーリカ先生と同じ流派で魔法が使えたら良いな、と思いながら。


 そんなある日、私は新しい家庭教師にイオリさんという不思議な雰囲気の方と出会いました。

 エーリカ先生と、もう会えなくなるのかと心配しましたが、この世の理を教えるだけで魔法の手ほどきは一切しないそうで、そちらは引き続きエーリカ先生が行ってくれるという事になってホッとしました。

 多分、お父様が私と相性の良い流派を探す為に、手当たり次第他流派の方を探しておられたので、その関連で来られたのでしょう。

 正直言いますと、あまり期待はしてなかったのですが、最初の授業から驚きの連続でした。


「コリンナ様、火が燃えるのに必要な物が何か分かりますか?」


「え? えと、十分な数の火の精霊です」


 これは、エーリカ先生の流派での考え方ですが、精霊を地の底から湧いてくる火の気と言ったり、漂う火性の魔素であると言ったりします。

 でも、それを集めるという辺りは大体一緒なのです。


「一般的にはそう言われているのかもしれませんが、現実に起こっている現象から見ると違います」


「「えっ?」」


 私とエーリカ先生の声が重なりました。

 他流派での理を沢山知っているエーリカ先生でも違うと言われたのは意外だったようです。


「火が燃えるのに必要なものは3つ、『燃えるもの』と『温度』と『酸素』です」


 最初はなんのことかさっぱりわかりませんでしたが、この後に行った実験で魔法も魔力も使わず、かと言って触れることもなくエーリカ先生の魔法でもロウソクに火をつけられない状態を作り出してしまわれました。

 誰かが発動しようとする魔法を妨害することが、どれほど難しいことなのかは私でもわかります。

 それなのに、コップを被せるだけでそれを成し遂げてしまったことで、イオリ先生が言っていることが本当のことなのだと理解できました。


 そして、この日。


 私は、生まれて初めて、魔法を使うことができました。





「イオリ先生は、こんなに凄いのに、どうして放っておくと何しでかすかわからないとか、うんちくが

問題外だとか、嫌がらせさせたら世界一とか、結婚したくない男ナンバーワンとか言われているんですか?」


「え!? 俺、そんなこと言われてんの!?」

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