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165話 さあ、逃げよう

「それで、俺としては今夜にでも王都を抜け出して、身を隠したいところなんだけど、皆には迷惑をかけたく無いから、マルとパールだけ連れて行こうかなって思っているんだが……」


 一応自分の内心を吐露する。

 せっかく安定した仕事に着けたのに、皆を巻き込むのはどうかと思ったのだ。

 ぶっちゃければ、俺のわがままでしかないしな。


「うーん、迷惑って今更何を言ってるのかしら? って感じなんだけど女神様の役に立つ事をしたって事だから怒るに怒れないのよねぇ」


「うむ、コヤツはこの世界の役に立っておるぞ。 我々エンシェントドラゴンが自然発生した魔晶石の採取をする役を担っているが、あそこまで純度が高く大粒な物をリーラ様にお渡しできた事は無いからな」


 パールが腰に手を当て偉そうにムンと胸を張る。

 実際生き物としてはこの世界の最上位種なので偉いと言ったら偉いのだが、メイド姿なので偉そうにしていると妙な違和感がある。

 なんだか残念な子を見ている気分になるのだ。


「女神様の降臨は300年以上ぶりですから、大騒ぎになるのは仕方がありませんわ。 とはいえ、イオリさんがこのまま王都に居れば、権力者に利用されてしまうのは目に見えておりますわ」


「政治利用というやつか? 人の統治する各国間のパワーバランスが崩れそうな事態は、リーラ様や我が望むところでは無いのだがな。 ましてや軍事利用等に発展する可能性も少なくは無さそうとなれば、捨て置くことは出来なくなるぞ」


 俺と契約した事で、ある程度俺の知識を得たパールがそれっぽい事を言うが、実は新しく憶えた言葉を使ってみたかっただけである事が、契約による繋がりから俺に伝わってくる。  


「それは困るねー。 勘違いした貴族とか出て来て、アレやコレや起こって王都大炎上とかー?」


「第二王子の例がありますから、洒落にもなりませんわね」


 彼は今、更に山奥の療養施設に行ったそうですよ?


「ここはお父様に相談してみては如何でしょうか? この国の政治にも詳しいですし、イオリ先生が嫌がるような事はしないと思います」


 コリンナ様は気が付いてないようだけど、あの人しっかりと俺のこと利用はして来ますよ?

 誠実ではあるし、人間的に嫌いでは無いけども……。

 しかし相談するのは良いが、レスポンスの問題もあるし、ぶっちゃけると今すぐにでも王都から抜け出したいというのが本音である。


「まあ、散々お世話になっているジークフリード様に何も言わないのは筋が通りませんわね。 ここはギルドにある遠話の魔道具を借りましょう」


「えんわのまどうぐ?」


「その名の通り遠方の相手と話ができる魔道具ですわ、冒険者ギルド間の情報共有や連絡が早いのは、この魔道具があるからですわ。 消費魔力も大きいので頻繁に使うことは出来ませんが、魔石を持ち込んだりそれなりの料金を支払えば利用することが出来ますわ」


 そういえば、冒険者登録するときに、情報紹介やら各部署に連絡を出すかエマに聞かれたっけ。


「通常は窓口を通しての間接的な連絡でしか利用できませんが、Aランク以上の冒険者ならば、直接その魔道具を借りて、相手と直接会話することが可能なのですわ。 コリンナ様が狙われた際に返信が早かった事からもおわかりかと思いますが、各領主の館にもその魔道具はありますので、呼び出しが可能というわけですわ」


 ほほう、そんなモノが……。 確かにコリンナ様が狙われた時にギルド経由でジークフリード様からの返事がやけに早かったのは、そういう理由か。

 てっきりギルドから領主の館まで、パトリックさんがダッシュで伝令をしてくれたんだと勝手に思っていたな。


「しかし、うちらにAランクなんて誰もいないぞ?」


「イオリさんのお友達に居るではありませんか」


「「あー」」


 皆の声が揃った。









「で、俺が呼ばれたと?」


「そうなのだ、マックス君よろしく頼むよ!」


「なんで、偉そうなんだよ!? っていうかそのキグルミはなんなんだよ!?」


 というわけで、クレバーファーラットの姿で暇そうにしていたマックスを呼び出したのだった。


「いや、暇じゃねーし!」


 マックスのツッコミを適度に無視して、王族(コリンナ様)から極秘である事を告げてもらい、Aランク冒険者としての守秘義務を発生させてから事の顛末を話したのだった。


「って、その話はもう知ってるよ、俺のところにもしょっちゅう誰かがお前さんの事を聞きに来るぞ、一部で有名すぎだから守秘義務もへったくれもないだろ」


「それはそれ、これはこれ」


「相変わらず意味がわからんな! まぁ事情は分かったが、ただ、冒険者ギルドに行ったらとっ捕まって祀り上げられるだろうな、広域依頼としてでお前の捜索依頼が出てるぞ、勇者を探せ!ってな」


「よし、夜逃げしよう!」


「逃げないの!」


「もっきゅーっ!」


 窓から逃げようとしたオレを、アリーセがハリセンで叩き落とし、ワトスンがネットランチャーのような捕獲用給湯器を使う見事な連携で捕獲された……。

 え? それ給湯器なの?


「はあ、わたくしが行ってきますわ。 私ならば、良く領主の館に行っていましたし、取次も早いでしょう。 事情の説明と今後の相談をしてきますわ」


「よろしくお願いします!」


 簀巻状態の俺を残して、エーリカがマックスと冒険者ギルドに遠話の魔道具を借りに行ってくれた。

 マックスには報酬を出そうと言ったのだが、神刀を見せるだけで構わないということだった。 ソードマスターとしては非常に気になるのだそうだ。

 本人がそれで良いなら構わないのだが、俺の気持ちの問題的に何か金銭じゃない物でお礼を考えておこう。

 現実世界だと扱いにくことこの上ないゲームの強武器でも、マックスなら使いこなせるかもしれないし……。


 程なくして、エーリカとマックスが少し疲れたような顔をして帰ってきた。


「お帰りなさい、なにかあったの?」


 アリーセが二人の様子を見て声をかけた。


「いやな、目下広域依頼で捜索中のお前の関係者が現れたら、皆質問攻めされるってもんだろ?」


 なるほど、申し訳ない……。


「とはいえ、行った甲斐はありましたわ。 こうなることを想定していたんじゃないかと思うほどに手際よく対応してくれましたわよ?」


「ヴァルターさんがご一緒ですから、このくらいは出発前から想定していたかもしれませんね」


 ヘンリエッテさんが、戻ってきたエーリカとマックスにお茶を出しながら素直な感想を述べる。

 この事態を想定していたって、まじでヴァルターさんって何者なんだろうか? と何度目かわからない疑問が頭に浮かぶ。


「それで、ジェークフリード様はなんて?」


「あ、はい。 まず、コリンナ様の護衛についてですが……」


「あ、それはやっぱクビだよな?」


 まあ、いきなり逃げたら、身元保証をしているジークフリード様に迷惑がかかるわけだから、正式に解雇という通知は必要だろうな。 この騒動の前に解雇されてましたってことにすれば、後々何か突き上げを食らっても知らぬ存ぜぬで通すくらいはやってのけるだろう。


「いえ、このまま護衛は続行です」


「はい?」


「コリンナ様が魔法学園で飛び級を果たしたことはご存知かと思いますが、この度最高学年の修業過程をすべて終わらせてしまいまして、魔法学園で教える事が何もなくなってしまったそうです」


「え、まじで!?」


 コリンナ様の方を向くと、ちょっと照れくさそうな素振りでコクリと肯定した。

 とはいえ、護衛続行というのはどういうことだろうか? フェルスホルストに帰って来いってことだろうか?


「とは言え、卒業扱いにするには早すぎるということで、他の国に留学をするという運びになっておりましたわ。 これにはこちらの魔法学園のレベルを高く見せつけるという政治的な意味合いもあるそうです。 それでイオリさんについては、女神様より使命を授かり、すでに旅立ってしまったという事にしておいて、国外にさえ出てしまえば有耶無耶になるだろうとの事でしたわ」


 なるほど、なんと都合の良い……。


「ってか、コリンナ様を政治利用するってジークフリード様なら嫌がりそうだけど……」


「政治利用は学園に対しての建前ですわね。 領主の一族である以上街を離れることは出来ないから滅多に行けない国外の風土や文化等を体験させたいとかおっしゃってましたわ」


 安全性や移動時間の問題で、冒険者でもなければ早々国外に行くことなんて無いそうで、ちょうど良いから貴重な体験をさせたいという親心だったようだ。


「海外旅行なんて楽しみです!」


 コリンナ様が、ぱああっと輝くような笑顔ではしゃいで居るので、俺からは何も言うまい。 都合が良いし!


「それで、どこに逃げ……行こうって話なんだ?」


 帝国とか言われたらちょっとやだなー。 私掠船の一件での偏見しか知らないけど、正直良い印象は持っていないしな。


「この国の東側に広がる大森林と呼ばれる場所があります」


「大森林? そこに国があるってことか? それともその大森林がある国か?」


「大森林そのものが国ですわね」


 森だけの国? 開拓してないってことか?

 それは国として機能しているのだろうかと疑問に思ったが、エーリカの次の一言で得心がいった。




「エルフが治める国ですわ」


次回は幕間の予定です。

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