163話 セカンドファミリア
「つい最近クレバーファーラットを使い魔にしたので、一応わかりますけど、まさか俺と契約するつもりですか?」
「じゅっ、従属するわけではないからな!? 我が力を貸してやろうと言うのだ! ……悪い話ではあるまい?」
最後の一言で、パールがちょっと不安そうにこちらを見てきた。
繋がりを持つことで、契約者の事がなんとなく理解できるって部分が必要なのか。
マルが元の世界のことをなんとなく知っていて、日本語めいた言葉を喋るのも契約で出来た繋がりのせいだったな。
確かにそれなら大雑把にではあるが、意思の疎通もしやすい……。
「ほれ、さっさと手を出さんか!」
「げふん!?」
考え込んでいる俺にしびれを切らせ強引に契約をしようとして、ドスドスと突っ込んで来たパールに衝突した。
タックルとかそういう生半可なものではなく、トラックに跳ねられたかのような衝撃を受けて吹き飛び並んでいた椅子をなぎ倒して床と熱いキスをかわした。
「す、すまぬ。 なるほど、力を抑えぬとこういうことになるのだな……。 生きておるか?」
「HPを上げていなかったら即死だった……」
危うく他の異世界に転生するところだった。
衝突してみて良く解った、見た目は小柄な少女であるが、やはり相当な重量である。 床がきしむわけだ……。
あの体積にそれだけの重量があるというのがいったいどういう仕組でそうなっているのか、まことに摩訶不思議であるが、これは早急に対処しないと危険だな。
「よし、我はこのまま動かぬから、そちらから手を置け。 何をしている、我は動かぬと言っただろう。 さっさとせぬとまたこちらから行くぞ!」
「それって、脅迫じゃないですかー!?」
また吹き飛ばされてはたまらないので、慌てて手を合わせる。
マルの時よりも遥かに強い力を感じる。
「さあ、名をつけよ」
「ええ!? いきなり名前つけろってパターン多すぎだろ!? そんなんポンポン思いついてたまるか!」
「ならば、今ままの名前で構わぬから、名を呼べ」
「大雑把だな!? それで良いなら、パールで」
「その名を受け入れよう。 我はパールだ」
名を受け入れた途端、手から俺の魔力っぽい何かギュンギュンと吸い取られていく感じがする。
マルの時はほっこりと温かい感じだったが、こちらは業務用の掃除機のように吸い取られてなんだか急激に寒くなってきた。
「って、これいつまで魔力が吸い取られて行くんだ!?」
「我の魔力量と同等までだな」
「人に25万もMPねーからあああ!!」
MP尽きるとHPが減っていくんだったか? こんなのと普通に契約してたらミイラになるわ!
MPも減らないようにしておいて本当に良かった……。
「ふむ、魔力の比率は、そのまま契約の優位さに比例するのだが、異世界の者は我に匹敵する魔力をもつのか。 足りない分は魔晶石で補おうと思ったのだが必要無さそうだな」
いつまで続くのかわからなかった、エナジードレインな儀式は20分程続いて終了した。
ってか、魔晶石使えるなら使ってほしかったのだが……。
「MPを上げていなかったら即死だった……」
エネルギーが移動する際に、ロスか何かで熱も移動したようで、奥歯がカチカチするくらいに寒い。
「おお、知識としては知っていたが実際やるのは初めてだ。 漠然とではあるがお主の知っている物はわかるな、なかなか新鮮で面白い感覚だな。 って、なんじゃ、この服は使用人の服ではないか。 お主、我を従属させるつもりだったのか?」
「そそそれしか、ななな無かった、だけで……。 べべべ別に、たたた他意は、ななな無い」
体温を奪われガタガタと震えながら、答えた。
たまたまあったのがメイド服だっただけだ。
「まあ良い、街に紛れるには都合は良さそうだしの。 であれば、敬語はおかしかろう、普段通りの話し方で良いぞ。 ……なんぞ小刻みに震えているようだが、寒いのか? ここは人の感覚でもそれほど寒くは無かろう?」
「ままま魔力と一緒に、ねねね熱も奪われたようで、すすす凄く寒い!!」
人の体温は、5度上がるよりも1度下がる方が危険だと言われている。
今の俺の体温が一体どのくらい下がってしまったのかは不明だが、普通で考えたら大分危険な領域に達していると思われる。
体温を上げるコードなんてわからないし、その魔法もわからないので、さっさと風呂に入るかか鍋でも食って温まりたい所だ。
「ふむ、契約時にその様な弊害があるとは知らなんだ」
「さささっさと壊した物を弁償して謝って、ななな何か温かい物でも食いに行こう」
「それはナイスアイディアだの。 人の飯がどんな物か気になってはおったのだ」
コイツ元のドラゴン並に食うんじゃ無いだろうな?
1回の食事で牛一頭とか言われても困るぞ?
「ともあれ、どの程度まで力を制御すれば良いのかはわかった。 少し待っておれ」
パールは自分自身に身体強化とは逆の身体弱体化の魔法その場で新たに構築し、それを何重にも自身にかけた。
その場で都合の良い魔法を構築出来るとか、その辺りは流石! と言っても良いかもしれない。
「むぅ、これは随分と動き難いものだな。 身体が重く感じて、まるで何かの特訓をしているかのようだの」
魔法がうまく機能していることは、使い魔の繋がりから感じることが出来た。
身体が重いのは、感じではなく物理的に重いせいなのでうっかり子供とか跳ね飛ばさないように注意が必要だろうな……。
しかし、弱体化しても重さは変わらんのか。
力が弱くなっても、ウエイトが大きい事で何か問題が起きそうだ。
床板踏み抜くとかはやりそうだから気をつけて貰わねば。
「これでよし、主よ飯に行こうぞ!」
「ああコラ勝手に行くな」
パールが優雅さのかけらもない、ドスドスとした足取りで部屋のドアを勢い良く開ける。
入口付近にシスターが控えていると言っていたが、今は居ないようだ。
と、思ったら、シスターがこちらの向かって土下座をカマしていた。
「え? 何やってんの!? むしろ謝るのはこっちの方なのに!?」
あまりの事に震えも止まる。 土下座したシスターがピクリとも動かないので、事情を聞いてみようと思ったら、そのままの姿勢で意識を失っていた。
「これは、結界石が壊れたせいでリーラ様の神気にあてられたようだの。 生命には危険は無い」
この世界の知的生命体は、女神であるリーラ様に逆らう事はできないようで、無意識に服従したくなってしまうのだそうだ。
ある意味俺を除けば、リーラ様に一番近いところに居たとも言える。
パールとの繋がりで何となく伝わって来たイメージは、アイドルのコンサートとかで興奮しすぎて失神してしまうのと同じ様な状態のようだ。
確かにこれは気軽に降臨しちゃうと混乱を起こすな。
仕方が無いので、誰か他の人を呼んでこようと思い教会の礼拝堂の方へ向って行く。
そこで、俺はとんでもない光景を目にしてしまった。
「一人残らず、さっきまで居た部屋の方向に土下座して気絶してるううううう!?」
「結界石が無い状態で、リーラ様が長く居すぎたようだな」
「ヨシ、面倒事になる予感しかしないから逃げよう!」
「ふむ、一理あるの、そうしよう」
急いで教会から出る。
「教会の外までかよ!?」
外に出たら出たで、見渡す限りの人が教会に向って土下座をしていたのである。
これ、どこまで被害が広がってるんだ!?