15話 魔晶石がなんかすごい物だった
「ふむ、基本的な野営道具が一式のみか、他に持ち物は無いか?」
「後は、お金と丸腰じゃアレだろうってアリーセが貸してくれた剣くらいですね。あとアイテムボックスも使えますが、携行水だけしか入ってませんでしたね。後はアイテムボックスの練習で途中で倒したゴブリンが持ってたガラクタが入ってます。何か自分の記憶の手掛かりがあれば良かったんですが……」
アイテムボックスのことまで言うか悩んだが、なにやら装飾過多な虫眼鏡っぽい物をさりげなく持っていたので、正直に言うことにした。嘘を見抜く魔道具かとも思ったが、身の上話の時には持ってなかったので、多分、物品の鑑定とか感知をする魔道具なんじゃないかと推測したからだ。
あ、そういば鑑定のスキル持ってたな、使ってみれば推測しなくても一発でわかるじゃないか。さっそくあの魔道具に使ってみるか。
《探査のルーペ》
:アイテムの簡易的な鑑定と隠されたアイテムの存在を感知することが出来る。
鑑定した魔道具の上に重なるように表示が見えた。ゲームの時と同じ、所謂AR表示だ。これってどっかにヘッドセットの機能が残ってるのだろうか?
レベル1なので非常に簡素な鑑定結果だが推測通りの魔道具のようだ。感知ってことは、有る無しだけの判別だけってことかな?
後で危険感知とか体的に被害の無さそうなスキルのレベルを上げとこう。
「こいつはアイテムボックス内を見ることが出来る魔道具だ。こいつによると、携行水とガラクタ以外にも入っているようだな? すまんが規則なんでな、アイテムボックスに入っている物も直に確認せんといかんのだ、面倒くさいだろうが、ここに一通り出せるか?」
鑑定結果が正しければ感知しか出来ないはずなので、アイテムボックス内を見ることは不可能なバズだ。おそらく見たぞというハッタリなんだろうとは想像がつく、水以外だと別カテゴリーになっている金貨と魔晶石しかないから、もしそれが見えていたらこんなに平静ではいられないと思う。アリーセは金貨300枚であれほど騒いだのだしな。
せっかくだから、魔晶石もちょこっとだけ見せて反応を見てみよう。
「本当だ。よく見てみたら旧王国金貨と魔晶石があるっぽいです。すみません出しますね」
探してみたらありましたと、記憶喪失設定で誤魔化し、ガラクタと財布代わりの金貨300枚入り袋と一緒に金貨24枚と魔晶石9個を出して渡す、半端な数にしたのは、その方が全部出したっぽく見えるからだ。怪しいWEBサイト等で『~人の人が購入しました』みたいなやつの数字が切りの良い数字じゃなくて端数になるようにして本当っぽく見せるというやつだ。
「旧王国金貨324枚に、こ、こんなに大きな魔晶石が9個もだと!?」
あ、またなんかやらかしたっぽい
「お、おお、お貴族様だったのか!でございますか?」
「あんたも敬語変だな!って、貴族とかじゃないから!」
「いやいや、持ち物も新品同様で使った形跡が無く、転移陣が使用出来て旧王国金貨のみに大きな魔晶石を持ち歩く様なヤツがただの平民なワケがねぇ、でございます!」
「ございます着ければ敬語じゃないからな!? つーかこの魔晶石そんなに凄いもんなの!?」
思わず、地に戻ってしまった。ゲーム上で課金アイテム等を買う為の通貨に過ぎなかった魔晶石だが、通常のゲーム内通貨同様、この世界では価値が高いもののようだ。
「魔晶石は、魔力が集まった結晶で、膨大な魔力を秘めているんだ、でございます。街を護る結界を維持する魔道具とか大型の魔道具を使うのに必要だったり、魔術師が広域魔法を使うのに利用したり、祭壇で神に献上するとアーティファクトが貰えるとかで、非常に価値の高いものだ、でございます」
「何か大きな取引した商人かもしれないじゃないか!?」
っていうか神に献上してアーティファクトって、まるでガチャじゃねーか!?
「旅をするには所持品が少なすぎるし、そもそも使った形跡も無い。しかも大金を持ってるなんて、どこぞのお貴族様の無駄飯ぐらいな3男以降の連中がやる事無いから、軽い気持ちで冒険者でもやるかって出てくる、権力は無い癖に身分だけは高くて常識知らずで扱いに非常に困るヤツじゃねぇのか? でございます」
「さらりとディスってねーかそれ!? 絶対違うけど、俺が貴族だったら不敬罪だろそれ!?」
一瞬、実は貴族でした設定も有りかと思ったが、本物の貴族と関わり合いなんて持ちたくも無いからそれは無しの方向で行こう、大きな取引をした商人だった設定が無難かもしれない。
「と、取り乱してすまなかったな、記憶がはっきりして、やっぱり貴族でしたってなっても、ここでの対応については領主様の定めによって行っている事なので、不敬については見逃してくれ。でございます」
「ございます要らないから普通に喋ってくれ……。おぼろげに憶えている内容的には、大きな取引の関係で準備している最中だった気がするな、荷物も他にたくさんあった気がするんだよ」
設定が増えていって憶えていられるか不安になってきたな。一つ嘘をつくとそれを隠す為にさらに嘘を重ねなければならないとはよく言ったものだ……。
「ふむ、どこぞのお貴族様の御用商人かもしれないって事か」
「あくまで断片的な記憶からの推測だけどな」
「魔晶石の価値なんざ、子供でも知ってることを全然知らんなんてあたり、頭が……記憶がおかしいのはよくわかった。今日はもう遅いが、明日はまず医者に行った方が良いぞ?」
なんとか落ち着いてもらったが、今すごく失礼なことを言おうとしてなかったか?
とりあえず今後むやみに魔晶石出すのやめとこう。
「ああ、ありがとう。じゃあ、問題なしってことで街に入って良いのか?」
「義務なので上には報告を入れさせてもらうが、あんちゃん自身は問題だらけだが入街審査的には問題ないとして良いだろう、身分証が無いなら100ナールだ」
荷物を一通り返してもらい、金貨を一枚渡すと、ジャラジャラとお釣りをくれた。一応別の袋に入れておくか。
「釣りの確認しないのか?」
「信用しとくよ」
数えるのがめんどくさいってのもあったが、ちょっと言ってみたかっただけである。
「そうか、これが通行証だ。失くしたら不法滞在扱いになるからな。身分証を作ったり街を出るときにはここで返却してくれ」
通行証は薄い金属板のようだった。無くさないようにアイテムボックスに入れておこう。
「わかった」
了承を伝えて、部屋から退出するとアリーセが待っていた。
「無事手続きはすんだかしら?」
「ああ、大丈夫だった」
一悶着あったけどな!
「それじゃあ、ちょっと遅くなっちゃったけど、先にギルドの方に来てもらえる?」
「夜でもやってるのか?」
「冒険者ギルドは夜通し開いてるから大丈夫よ」
俺はアリーセに付いて、街に続く門をくぐったのだった。
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