162話 一般生活は無理
「さて、では改めて自己紹介といこうか。 我はエンシェントパールドラゴン。 幾度か転生はしているが、女神リーラ様の使徒として創世よりこの世界にかかわっている最古のドラゴンだ。 固有の名前は無いがパールと呼ばれておる」
「あ、どうも。 太陽系第三惑星地球の日本という国から来ましたコスイ・イオリです」
日本人らしく背筋を伸ばし礼をして応えておく。
「まあ100年以下の短い時間ではあろうが、よしなに頼む」
100年は普通の生き物からすると一生が収まる時間なのだが……。
この時間の感覚を埋めるのは無理だろうな。
「えーと、基本的には自由行動的な事をリーラ様が言っていましたが、人化して街等に来たのは初めてですよね? 人と接触を持った事はありますか?」
「何度もあるぞ、欲深い者が身の程知らずにも我を退治にしに来たり、頼んでもいないのに供物を捧げに来たりとな」
文化的な接触は皆無という事ですね?
わかります。
「えーと、この世界でも俺が居た世界でも、人は弱いからこそ群れを為し、文明を発展させる事で繁栄をして来ました。 皆が皆好き勝手に振る舞ってしまうと群れが成り立ちませんから、群れ毎にルールを決めて生活しています」
「ほう、それは興味深い。 身体能力的には脆弱であるのに、ここ迄人の種が増えたのは、偏に神々が与えたスキルや魔法による物だと思っていたが、そういう部分もあるのだな」
「スキルも魔法も無い世界から来たので、正直なところ魔素と魔力の違いもよくわかってませんが、それらがあっても裸で一対一となったら、大半の人がゴブリンにも勝てないでしょうね」
「ふむ、違う世界から来た者故の見解か。 ちなみにだが、魔素は物質、魔力はエネルギーだ」
ああなるほど、翻訳された字のままの意味だったか。
魔力を帯びたアイテム類はアイテムボックスに収納出来るわけだから、魔素は無機物って事か、だとすると魔素がどういう物質なのか分かれば取り込む事も出来るって事だろうか?
試しにやってみたが、出来なかった。
魔素がどのように空気中に分布しているのかとかがわからないのでうまく特定が出来ないからだろう。
まあ、今後いろいろ仮説を立てて、合間にでも試してみるか。
「それでですね。 服についてもそうですが、不可解な事でも必要があって決まったことですので、混乱を避けるために遵守して欲しいんですよ。 ほら、調和を乱すのはリーラ様にもよろしく無いわけですし」
「不本意だが、理解は出来る。 我とてリーラ様に反抗したいわけではないからな、少々の我慢をして過ごす程度のことは問題ない安心せよ。 だがまあ、人の営みの事はよくわからんから、そこは教えてくれると助かる」
教えるのは、やぶさかじゃあ無いが、だとしたらなんであんなに服を着るのを抵抗したんだよ……。
さて、とはいえ何から教えてものか。 いくら俺が異世界から来たとは言え、共通点は沢山あったからな。
意思疎通が出来るとは言え、何もかもが違う生き物に何から教えれば良いのか悩みどころではあるな。
言うと怒られそうだが、ペットの躾と同じように考えるとするならまず「食事とトイレ」で、一般の生活に慣れさせる「社会科トレーニング」で良いだろうか?
とか、考えてたらバキっと備え付けの長椅子をヘシ割ったパールさんと目があった。
「なにかお気に召さないものでもありました?」
「ち、違う、そうではないのだ。 壊そうとしたのではない。 ちょっと触っただけで勝手に壊れてしまったのだ!」
慌てた様子で言い訳をしてくるが、ちょっと触っただけでという部分でピンときた。
「もしかして、人化してもドラゴンの力のままだったりします?」
「ぬ? サイズが小さくなっている分同じかどうかはわからぬが、それで我が弱くなったわけではないぞ」
ドラゴンの力で普通の素材で出来た椅子に触ったら、ぶっ壊すに決まっている。
よく見ると、立っている所が明らかに軋んでいる。
もしかして見た目以上に重量があるのではないだろうか?
「ちょっとスキルでステータスを見せてもらっても構いませんかね?」
「ほう、我のことを見通せるようなスキルを持っているというのか。 おもしろい、やってみせよ」
やれるものならやってみろ感が出てるが、エンシェントドラゴンも解析が出来るのは、立証済みだ。
ターゲットウインドウを出し、興味深そうにそれを伺っているパールに照準を合わせる。
《鑑定不能》
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名前:パール
種族:エンシェントパールドラゴン(人化中)
年齢:12018歳
レベル:478
HP:130000
MP:250000
スタミナ:80000
筋力:7400
敏捷:6700
知力:7000
器用:1200
体力:9800
魔力:12000
頑健:6300
精神:8900
物理攻撃力:17000
魔法攻撃力:26000
物理防御力:14000
魔法防御力:27000
称号:神の使徒 調停者 酒好き コレクター
スキル
パッシブ:全言語
:転生
:魔法障壁 LV4
:物理障壁 LV3
:全耐性 LV6
:心話 LV5
:HP自動回復 LV6
:MP自動回復 LV6
アクティブ:全属性ブレス LV 10
龍言語魔法LV4
究極魔法 LV7
上級魔法 LV10
中級魔法 LV10
初級魔法 LV10
身体変化 LV10
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各種コード
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ああ、これは一般生活無理だわー。 普通に挑んでも人類に勝ち目無いわー。
どれもこれも俺のステータスの10倍以上じゃないか。
数値のバランス的には魔法寄りに見えるけど、筋力なんかはトロールの何倍も強いな。
コードは前に倒しちゃったドラゴンと下桁が違うだけで他は同じっぽいから、どうしようも無かったらチートコード使って弱体化してもらった方が良いかもしれない。
「あれ? 創生からいるのに12018歳ってことは、この世界が出来てからそれしか経ってない?」
「ほう、我の年齢までわかったのか? 流石に創生はどれほど時が過ぎたのかわからなくなる程度には前だ。 流石にその長い時間は肉体が保てぬし、不意に命を落とすこともあろう。 それゆえ我々エンシェントドラゴンは、精神や知識をそのままに肉体を転生させるのだ。 その年齢はおそらく前回の転生から数えた年齢であろう」
なるほど、前にドラゴン倒した時「転生」消しちゃったんだけどまずかったかな……。
まあ、良いや、あれは正当防衛だったし!
「ちょっと試しにコレを軽く握って貰えますか? 壊しちゃっても大丈夫なので」
以前ダンジョンで倒したリビングアーマーのパーツである金属板をアイテムボックスから取り出して握ってもらう。
「こうか?」
パールが軽く握ったと思うと金属板が手の形に、めしょりと潰れた。
「ちなみに本気で握るとどうなります?」
パールがさらに力を込めると、クリームパンを握りつぶしたかのように、指の隙間からムニュリと金属板の成れの果てが絞り出されてきた。
プレス機も真っ青な握力だな!
「……え、えーと、数値だけで見れば10%程度の力でも人なら相当強い方に入ります。 人が作った物は基本的に人に合わせて作られていますので、1%くらいまで抑えて貰わないと、さっきみたいに触れた端から壊してしまうかと思います。 あ、あとその力で他の生き物に触れたら悲惨な状態になって死んでしまうので、細心の注意をお願いします」
「なに? それでは何も触れないではないか、それにこの服は普通に触っても壊れなかったぞ?」
あー、そういやゲームの時にアバター装備に耐久力って無かったな。 あれ? ってことは破壊出来ないってことで、下手な鎧より防御力高いんじゃ?
まじか! そんな、都合のいい話があって良いのだろうか!?
後で検証したいことが次々に出てくるな……。
「多分その服が特別なだけです。 普段は能力を1%に抑えるぐらい出来ないんですか?」
鼻で笑った感じに、そんなことすら出来ないの? 的なニュアンスで言ってみる。
「何? も、もちろん造作もない!」
目が泳いでるな、コレ多分出来ないのだろう。 強制的に弱体化してもらうかな?
ドラゴンに通用するかわからないが、弱体化する呪いのアイテム探して、それを鬼強化して装備してもらっても良いかもしれない。
「もし、出来ないなら何か対策を考えますよ?」
「ぞ、造作もないと言っているだろう!? ただちょっと弱さの基準がわからないというだけだ」
それは、出来ないと言うんじゃないのか……。
「そ、そうだ、使い魔の契約は知っているか?」
え? 俺の使い魔になる気なの?